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小さな影が膨らむ
「ちょっと買い物行ってくるね」
夜、葵が軽く言った。
俊介は止めない。
止められない。
止めたら、何かが壊れそうで。
10分、20分、30分……
時計の針がやけに大きく聞こえる。
帰ってきた葵は、少し息が上がっていた。
袋の中身は少ない。
「遅かったね」
言いかけて、飲み込む。
——聞いたら壊れる。
葵は「ごめんね」とだけ言って、
スマホを持ってソファに座る。
俊介は横目で見ながら、
胸の奥にまたひとつ影が落ちるのを感じた。
小さな違和感が積み重なっていく。
気のせいだと思いたいのに、
気のせいにできない。




