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距離が縮まらないハグ
「おはよう」
葵が笑った。いつも通りの声。
でも俊介の胸は、少しだけ痛んだ。
二人の決め事——朝のハグ。
“新婚気分に戻ってみない?”
そう言い出したのは俊介だった。
自然に触れようとすると、
葵がほんの少しだけ引くようになっていたから。
触れられないのが怖くて、
“決め事”に逃げた。
抱きしめる。
けれど、葵の身体は軽い。
温度が薄い。
心がここにいない。
「行ってきます」
葵がスマホを伏せて立ち上がる。
その仕草に、俊介の胸がざわつく。
距離を埋めるために始めたハグなのに、
今は——
距離を確認する儀式みたいだった。




