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触れられる距離
朝の光がまだ柔らかい時間。
俊介がそっと腕を広げる。
「……おいで」
昨日決めた“朝のハグ”。
たったそれだけのことなのに、胸がざわつく。
触れられた瞬間、身体がきゅっと強張る。
俊介は気づかないふりをして、優しく背中を撫でる。
「慣れれば大丈夫だよ」
その声は優しいのに、どこか遠く感じた。
私は笑えない。
笑おうとすると、胸の奥が痛む。
俊介の腕の中で、呼吸が浅くなる。
“どうしてこんなに苦しいんだろう”
離れたあと、俊介は少しだけ眉を寄せた。
「……葵、無理してない?」
「してないよ」
そう言った声が、自分でも驚くほど弱かった。
罪悪感がじわじわと胸に広がる。
俊介は悪くない。
優しいだけなのに。
なのに私は、触れられることがつらい。




