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過去の音
帰ってきて、バッグも下ろさないままソファに座った。
スマホの画面には、さっき見たばかりのリール。
再生ボタンを押す指が、勝手に動く。
「……嫁さんに猛特訓してもらったっていう」
大和の声。
柔らかくて、あの頃と同じで。
胸の奥がじんわり温かくなるのに、同時に痛む。
19歳のとき、左手の指輪を見て、
“あ、この人は誰かのものなんだ”
そう思って、気持ちにフタをした。
あれから15年。
結婚して、仕事して、日々に追われて。
なのに、どうして今になってまた救われてしまうんだろう。
「……奥さんの話、初めて聞いた」
指輪は外していた。
理由は分からない。
でも、あの声には“誰かを想っていた時間”が残っていた。
胸の奥で、再び小さなブレーキがかかる音がした。




