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届いてしまう声
珍しくリハーサルをして今回の撮影に挑む。
「こちらが東京の灯さんの人気メニューで……
こちらが北海道の灯の看板メニューです。
二つを合わせて、今回“二色のだし巻き”を作りました」
「スタッフからリクエストされた
僕のだし巻きの昔のエピソードを一つ。
今でこそササッと作れるだし巻きだけど
店長になった当時は苦手でした。
でも、店長なのに人気メニュー作れないとかダメじゃん?
だからめちゃくちゃ練習したよ。
店でも家でも、毎食だし巻き作っててさ」
「……当時、嫁さんに猛特訓してもらったっていう…
“また?”って笑われながらさ」
結衣が小声で「今のめっちゃ良いです」と言う。
大和は照れながら笑った。
その動画が、遠く離れた東京の誰かの胸を揺らすことを、
大和はまだ知らない。
葵は画面越しに、大和の声を聞く。
懐かしさが胸を温め、
次の瞬間、
「あ……大和は結婚してたんだった」
と静かに思い出すだろうことを。
大和は知らない。
その声が、誰かの心をまた揺らしていることを。




