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だし巻きの原点
「店長、だし巻きの思い出とかないんですか?
そういうの、絶対ウケますって」
結衣の言葉に、俺は少しだけ手を止めた。
「思い出……?」
仕事の顔がふっと緩む。
「いや、店長なのに人気メニュー作れないとかダメじゃん?
だからめちゃくちゃ練習したよ。
店でも家でも、毎食だし巻き作っててさ」
「毎食!?」
「うん。
……当時、嫁さんに猛特訓してもらったっていう…
“また?”って笑われながらさ」
結衣の表情が一瞬だけ曇る。
でもすぐに戻る。
俺は気づかない。
「でもさ、こんな話しても誰得じゃない?」
「得ですよ! 店長のそういう話、絶対好きな人多いですって」
「そうか……?」
照れくさくて、でも少しだけ嬉しかった。




