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無意識に求めてしまう
リールを閉じても、
大和の声が耳の奥に残っていた。
「バターを入れると、こんなふうに色が柔らかくなるんですよ」
あの落ち着いた声。
仕事の顔。
丁寧な説明。
昔と変わらない、でも今の大和の声。
求めているつもりなんてない。
期待しているつもりもない。
ただ——
あの声を聞くと、呼吸が楽になる。
俊介の優しさは、今の私には重い。
応えられない自分が苦しくて、
その苦しさがまた俊介を傷つける気がして、
さらに苦しくなる。
でも大和には、
応えなくていい。
期待されていない。
責任も義務もない。
だからこそ、
心が勝手にそちらへ逃げてしまう。
(私は……何をしてるんだろう)
依存じゃない。
しがみついているわけじゃない。
むしろ、しがみつかないように必死で踏ん張っている。
なのに——
大和の声だけが、
“何も感じなくなっていた心”に、
ほんの少しだけ色を戻してしまう。
その色が、
いちばん残酷だった。




