二色のだし巻き
休憩室で、なんとなくスマホを開いた。
何も考えたくなくて、ただ指を動かしていた。
ふと、画面が止まる。
大和のリールだった。
店のカウンターに立つ大和。
落ち着いた照明の下で、仕事の声で話し始める。
「今日は、東京の居酒屋「灯」とのコラボメニューを一つご紹介します」
その声を聞いた瞬間、胸の奥がふっと軽くなった。
大和がカメラに寄せたのは、二色のだし巻き。
片方はしっかりとした黄色。
もう片方は、淡いクリーム色。
「こっちが東京の「灯」の味。出汁をしっかり効かせた、昔ながらのだし巻きです」
大和の指が黄色い方を示す。
「で、こちらが北海道バターを少しだけ入れた、北海道の「灯」の味。バターを入れると、こんなふうに色が柔らかくなるんですよ」
淡い色のだし巻きに、箸がそっと触れる。
「見た目は控えめですけど、香りがすごく良くて。僕、これ作るの好きなんです」
その言い方が、15年前の記憶を静かに揺らした。
(あ……)
会いに行くつもりなんてない。
連絡する気もない。
行動は絶対にしない。
でも——
大和の“仕事の声”が、沈んでいた心をそっと持ち上げてしまう。
俊介の優しさには反応できなかったのに、
大和の声には、自然に呼吸ができる。
その軽さが、
今の私には救いだった。
そして同時に、
いちばん怖かった。




