312/489
何も感じない朝
朝、目が覚めた瞬間、胸の奥に冷たい重さを感じた。
あの夜の言葉は、もう鮮明ではない。
でも、あのとき生まれた“違和感”だけが、
日を追うごとに静かに広がっている。
俊介の寝息が隣から聞こえる。
以前はその音に安心していたのに、
今はただ、遠い。
(どうして……こんな距離を感じるようになったんだろう)
嫌いになったわけじゃない。
それは分かっている。
でも、寄り添おうとする気持ちが自然に湧いてこない。
その“空白”が、朝の光の中で輪郭を持ちはじめる。
キッチンに立つ。
手は動くのに、心がついてこない。
味見をしても、何も感じない。
まるで、自分の生活が薄い膜の向こう側にあるみたい。
俊介が「おはよう」と笑う。
その声に胸が痛むわけでも、刺さるわけでもない。
ただ——
何も動かない。
(私……いつからこんなふうになったんだろう)
努力しようとする気力すら湧かない朝。
“好き”でも“嫌い”でもなく、
ただ“何も感じない自分”に気づいてしまう。
その無感覚が、
あの夜の痛みよりずっと怖かった。




