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東京の夜に浮かぶ影
ホテルへ向かう夜道。
東京の空気は、いつもより少し冷たかった。
歩きながら、また葵の姿が浮かぶ。
でも、連絡しようとは思わない。
連絡先も知らないし、会いたいわけでもない。
ただ——
あの子が幸せでいてくれたら、それでいい。
「……元気でいろよ」
誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。
胸の奥に残る灯は、消えることなく、静かに揺れている。
ホテルの自動ドアが開くと、現実に戻るように空気が変わった。
明日もまた、仕事がある。
前に進む日々が続く。
それでも、
心のどこかに小さな温度だけは残ったままだった。




