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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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名前のつけられない感情

撮影を終えて、店の裏で少しだけ腰を下ろす。

ふと、葵の横顔が浮かんだ。


数回来るたびに思い出していたけれど、今日は少し濃い。

辞めると言ったあの日の、震える声。


「大学が忙しくて……」


そう言っていたけれど、本当は何かを抱えていたのかもしれない。

でも、聞き出すことはできなかった。

店長としての距離。大人としての線。

それを越えることはなかった。


——気になってるのか?


自分に問いかけてみる。

違う。そういうのじゃない。


恋でも未練でもない。

ただ、忘れられない。


頼ってくれたこと。

弱さを見せてくれたこと。

自分を成長させてくれたこと。


その全部が、胸の奥に小さな灯のように残っている。

名前のつけられない感情が、静かに揺れた。

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