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壊れた問い
夜。
葵が寝室でスマホを見ている。
その横顔は静かで、どこか遠い。
俊介は、もう耐えられなかった。
胸の奥に溜まった不安が、言葉になって溢れた。
「……葵」
葵が顔を上げる。
俊介は一度だけ息を吸い、そして——
言ってはいけない言葉を口にした。
「俺のこと……嫌いになった?」
葵の目が揺れる。
「そんなことないよ」とすぐに言えればよかった。
でも、言葉が出てこなかった。
その“間”が、俊介の胸を深く刺す。
(ああ……やっぱり)
俊介は静かに笑った。
自分でも驚くほど弱い笑顔だった。
葵は何か言おうとした。
でも、言葉は喉でつかえて出てこない。
二人の間に落ちた沈黙は、
もう元には戻らない距離を示していた。




