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沈黙の迷路
夕食後、二人でテレビを見ているのに、
会話はほとんどない。
俊介は話したい。
でも、何を言えば正解なのか分からない。
葵の心がどこにあるのか分からないから、言葉を選びすぎてしまう。
葵も話したい。
でも、胸の奥にある揺れをどう言葉にすればいいのか分からない。
言えば、俊介を傷つける気がして。
「……疲れてる?」
俊介がようやく絞り出した言葉は、それだけだった。
「ううん、大丈夫」
葵は笑う。
その笑顔が、俊介の胸をさらに締めつける。
(大丈夫じゃないのは……俺の方だ)
沈黙は、二人の間に積もっていく。
触れられる距離にいるのに、
沈黙だけが壁のように立ちはだかる。
俊介はその沈黙を「拒絶」と受け取り、
葵はその沈黙を「逃げ場」にしてしまう。
二人は、沈黙の迷路に迷い込んでいた。




