124
「アルノルド先輩、お久しぶりです!」
私とファルスが片付けに来なくなってから掃除を一切してこなかったのだろう。部屋は一言で言い表せないほど凄いことになっていた。
「マーロアか?」
部屋の奥から先輩と思しき声がした。
――ガサゴソ、ガシャン。ガサゴソガサゴソ。
材料をかき分けて部屋の奥へと進むと、毛むくじゃら姿のアルノルド先輩が魔法円とにらめっこをしていた。
「アルノルド先輩!?」
「マーロア、久しぶりだな。元気だったか」
「先輩こそ、よくそんな状況で生きていましたね!」
「ん? ああ、俺は問題ない。ちゃんと食事もとっているぞ」
「ちょっ、臭いですっ! 何日お風呂に入っていないんですかっ。家に帰ってないからですね!」
「ああ。最近研究が忙しかったからな」
あまり気にしていない様子のアルノルド先輩に私は清浄魔法をかけた。匂いは治まったけれど、髭も髪も伸び放題で浮浪者のようになっている。
「こんなことでは病気になってしまいますよ。最近はファルスもここにきていないんですね」
「そうなんだ」
部屋にも簡単に清浄魔法をかけていると、先輩もようやく動き出し、魔法を使って自分の髪を整え、髭も剃っている。
「ところでマーロア、今日はどうしたんだ?」
「リディアさんから他の人の魔力を見れるように訓練しろって言われたんですが、なかなか上手くいかなくて。目につけて魔力を見る道具みたいなものってありますか? 魔道具があればそれで練習してコツを掴めるようになる方が速いのかなって思ったんです」
「まあ、そうだな」
「アルノルド先輩は魔力が見えるんですよね?」
「ああ、今はかなり見えているな。あの魅惑の実のおかげだな」
そうだった!
あの実のおかげで私たち四人の魔力量が増えたんだったわ。
「マーロア、またあの実を食べるか?」
「!!? 絶対嫌です! あの恐怖は絶対忘れません」
先輩は冗談だという表情で笑っている。
「だろうな。そこの棚の引き出しあたりに確か眼鏡があったはずだ」
「……」
こんなごみ溜めのような所から眼鏡を探し出すのね。これは掃除しながらの方がいいかもしれない。
「わかりました。掃除をしながら探します」
「それは助かる。最近本当に忙しくて片付ける暇もなかったんだ」
「家に連絡して使用人に片付けてもらえばいいんじゃないですか?」
私は先輩の研究室を片付け始めた。
いつものように魔石は魔石箱に、素材はまず右側に寄せてっと……。
「頼みたいのは山々なんだが、マーロアやファルスのように丁寧に扱う者が少ないんだ。錬金に理解がないせいだろうな。それに文字も読めないから間違ったところに素材をいれてしまったりする。これが一番の問題だ」
確かにそう言われてみればそうかもしれない。薬草や爪などはよく知っていないと同じような物に見えたりする。
でも最初は大雑把に分けられればそれでいい気もするけれど、そこは先輩のこだわりなのかもしれない。それに気心の知れた人に片付けてもらった方が安心よね。
「マーロア、そういえば仕事はどうした?」
「次の任務までの間、待機しているように言われているんです。今、騎士団は忙しく動いているみたいだし、当分は待機かも」
「そうか。何か外が騒がしいと思っていたんだ」
「そういえば先輩、魔力を偽装するということはできるんですか?」
私の質問に少し考えた後、先輩は答える。
「できなくはない。が、道具がなければできないと思うぞ。イェレ辺りはできる気がするが、とても難しいだろう。それがどうしたんだ?」
「いえ、魔力が見える人にとっては変身魔法も意味がないじゃないですか。魔力も偽装できるような変身魔法があればいいなと思っただけです」
「確かにそうだな。そういえばマーロアはなぜ初心者の剣を帯剣しているんだ?」
「!! 忘れてました。任務だったので……家に戻らないといけないですね」
「それがいい。もう日も暮れる。明日またここにくればいい。その間に眼鏡を探しておくから」
そういえばここ数日は女子寮に住んでいたけれど、任務も終えたことだし、女子寮から引き上げないといけないよね。
「わかりました。ではアルノルド先輩、また明日」
私は掃除の手を止めて、ジェニース団長に家に帰ることを伝えてから、女子寮へと戻った。
「荷物、纏めなきゃ」
荷物を纏めて邸へと送っていく。もともと荷物は少なかったし、寮には寝に帰るだけだったからそこまで散らかっていない。
「よし、忘れ物はないよね。そろそろ帰ろうかな」
私は忘れ物がないかキョロキョロと周りを見渡すと、窓の外にカストさんの姿が見えた。
彼の事情聴取は終わったのだろうか。
これ以上接触するのはまずい気もするけれど、どうやらカストさんは誰かを待っている様子だ。突然消えて心配しているだろうし、お別れだけは言っておくべきかもしれない。
私は再びメイアに姿を変え、寮の前に出てみると、やはりカストさんはメイアを待っていたようで手を挙げて駆け寄ってきた。
「メイア、大丈夫だったか?」
「カストさん、私は大丈夫でしたっ。むしろ要保護という扱いになるので他の人と連絡を絶ち、姿を変えて別の地へ行くことになりました」
「……そうか。君が無事ならいいんだ。俺は君を守ることができなかった。本当に申し訳ない」
「そんなことないですよっ! カストさんに教えてもらって本当に嬉しかったんですっ。私こそありがとうございました」
「もう、君に会うことはないんだな……」
カストさんはしんみりとしている。
「そうですね。私も数日間だったんですけど、いっぱい勉強になりました。カストさん、きっとカストさんなら素敵な団長になれます! 私、遠いところでもカストさんのことを応援していますねっ!」
「……ありがとう。そうだ、君にこれを」
「? これはカストさんの剣のチャームですよね?」
「ああ、これを俺だと思って剣に付けておいてほしい。君の旅が無事であるように祈っている」
「は、はいっ! ありがとうございますっ! 大切にしますねっ」
カストさんはそう言い終わるとすぐに騎士団へと戻っていった。
私は彼を見送り、立ち尽くす。
「……どうしよう。このチャーム。カフスみたいに魔力で居場所がわかるようになってたりしないかな。ちょっと怖いからあとでアルノルド先輩に見てもらうしかないよね」
私は考えた末、チャームに簡易封印魔法をかけてポケットにしまった。
「さて、私も家に戻ろう」
再び姿を変え、私は邸に戻った。
日もすっかり落ち、私が邸に戻ると、父は私より先に邸に帰っていたようだ。




