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翌朝、鐘の音で目が覚めた。まだ疲れが取れ切っていないし、治癒魔法をかけるしかないか。
気が重い。
「おはようございますっ!」
私は今までと同じように元気な声で挨拶をするけれど、視線だけの人や、下品な挨拶しか聞こえてこない。
「メイア、今日は巡回だ」
「わかりました」
ゾディアット副官の指示で私は巡回の準備をする。
「アドールたちはいいよな! ハハッ。楽しんでこいよ」
他の団員たちは下品な笑いをしている。
……とても不快だわ。
捜査じゃなかったら絶対にその場で彼らを伸していたわね。
三人一組で王宮内外の巡回を行っているが、今日はそれに私も付いていくみたい。ここにいるより幾分空気は軽いと思う。
「エルドさん、アドールさん、シェードさんよろしくお願いします」
三人とも私を無視するようだ。
本当に変よね。
彼らがここまで敵視する理由は何なのかしら。貴族が平民を見下し、暴力を振るうのはあまり問題にされていないことも多いのは理解している。
それとはまた少し違った感じ。
なんだろう、この違和感。
私はこの違和感を拭いきれないまま彼らについて行く。
「はあ、俺、平民と一緒に巡回だと思うとやる気がでないわ」
「俺も、俺も」
「お前はいいよな。女だから男に尻振っていればなんとかなるんだし」
「どうせ何にもないんだし、ちょっくら俺たちとしけこむか」
そう三人が話をし、私にねっとりとした不快な視線を向けている。
「しけこむって何ですか?」
「そんなことも知らねーのかよ」
アドールさんにぐっと腕を引かれ、使われていない客室へと無理やり引き込まれた。
「ちょっ。何するんですか! 勤務中ですよ!」
私が抵抗したけれど、三人は私の言葉を無視するように部屋の奥へと進んでいく。
……あったまにきた。
でも、何かあるまで私は抵抗できないのが悔しい。
「大丈夫、大丈夫。俺らだってメイアと仲良くしたいだけだ」
私はエルドさんに羽交い絞めにされ、アドールさんに胸のボタンを千切られた。
そろそろ私の限界も近いかもしれない。怒りで震えていると、彼らは何かを勘違いしたのかニタニタと卑しい笑いを浮かべている。
「声を出したって無駄だぜ」
「お前も一緒に楽しむんだし、いいじゃないか」
そう言って胸元に手を伸ばしてきたとき、私の前にいた二人が突然倒れた。
「おい!? どうしたんだ? !!」
私を羽交い絞めにしていたエルドさんも意識を失ったようでばたりと倒れた。
「ロア、お待たせ」
そう言って姿を現したのはメイアの姿をしたヘンドリックさんだった。声でわかったけれど、彼の変身は完璧だ。それにしてもヘンドリックさんが来るのは珍しい。
「あーあ、せっかくの服が。修復魔法かけなくちゃ」
私は修復魔法をかけながらヘンドリックさんに聞いてみた。
「ヘンドリックさんがここへ来てくれるとは思ってもいなかったです」
「ロア、まずは特殊魔法薬を彼らに吹きかけて」
「はい」
私は彼らの顔に向かって薬を吹きかけて嗅がせる。彼らはなにやら楽しい夢を見始めたようで下品な笑顔を見せ始めた。
「本当はドゥーロがここに来るはずだったんだけど、第四騎士団の詰め所で問題が発生してね。そっちに向かった」
「何かあったんですか?」
「後で話すよ。ここの対処は俺がしておくから。君は詰め所に戻るといい」
「わかりました」
私は急いで詰め所に戻ったのだが、その光景に驚きを隠せなかった。
第四騎士団の詰め所にはたくさんの人が入り乱れ、怒号が飛び合い、騒然としていた。第四騎士団なのに第一騎士団員がいるわ。
「メイア、ただいま戻りましたっ。ってどうしたんですか」
「メイア、大丈夫だったか?」
「? カストさん、何があったんですか?」
「ああ、なんでもこの団に闇商会と通じている人物がいるようなんだ。貴族籍を持つ騎士を対象に聞き取り調査を行うらしい」
「じゃあ、カストさんも?」
「ああ、そうだ」
「それにしても君は巡回に出たんじゃなかったか?」
「それなんですが、途中で三人に襲われそうになったんで、伸して戻ってきたんです」
「大丈夫だったか?」
「ええ、もちろんっ! 腕っぷしには自信があるんです、私」
伸したのはヘンドリックさんで私ではないんだけどね。
「無事でよかった」
私たちが話をしていると、第一団の騎士が私に声をかけてきた。
「君がメイアか?」
「はい。私がメイアですが……」
「団長、メイアが戻ってきたようです」
騎士が奥の人にそう伝えると、奥からヴィーノ団長が歩いてきた。
「君がメイアか。無事に戻ってきて良かった」
「無事に、ですか?」
「ああ。君には聞きたいことがある。とりあえず王宮第三会議室へいくぞ」
「はい」
ヴィーノ団長に連行されるように私は王宮第三会議室へと向かった。




