120 ☆祝書籍発売更新2☆
「なんだ、ファルスか」
トリスタン団長はそう言いながら壁についていた手を離し、魔法で髪を瞬時に乾かしている。
団長と距離が空き、私はホッと胸を撫でおろす。
殴らなくて良かった。
「はあ? よく見て見ろよ。彼女が嫌がっているだろう」
ファルスはそう言って私の腕を取り、私を庇うように団長の前に割って入った。
「お前には関係ないだろう」
「ここをどこだと思っているんだ? 恥ずかしいな。それでも騎士団長なのか?」
「彼女は喜んでいる。さあ、メイア行こうか」
トリスタン団長はファルスを避けるように私に声をかけ、手を伸ばしてきた。
「えっ……」
このまま騎士団へ戻っても問題が発生する。
どうすべきか。
悩んでいると、ファルスは団長の手を無視するように私の手を引いて歩き出した。
「ファルス!」
団長の声を無視するファルスの横顔に私の鼓動はトクトクと心地よく踊り出した。
ファルスが助けてくれた。
きっと私だとわかってはいない。
でも、ファルスは私を助けてくれた。
……嬉しい。
早足でファルスに連れられたまま、アロイス王太子殿下のいる執務室まで連れてこられた。
「ファルス、遅かったなって、誰を連れてきたんだ?」
「殿下、すみません。王宮内で女性騎士に言い寄る父の姿を見て、いても経っても居られず連れてきてしまいました」
アロイス王太子殿下は私の姿を見て、私が誰か気づいたようだ。
笑いを堪えているのか書類で顔を見せないようにしている。
やはり王族は魔力で誰かを見ているのね。
私は平民という設定なので少ない魔力にしているけれど、魔力の形が見える人にはどうしてもバレてしまう。アルノルド先輩にばれないようなアイテムを作って貰うのがいいかもしれない。
「後先考えずに君を連れてきてしまった。すまない。君の名前は?」
「メイアと言います」
「君は第四団の団員なのか?」
「今はどの団に入るかのお試しということで第四騎士団にいます」
「そうか」
「ファルス、彼女はトリスタンに言い寄られていたのか?」
「ええ、食堂から騎士団の詰め所に戻る通路で父は壁際に彼女を追い詰めて逃げられないようにしていました」
「なぜ助けたんだ?」
「……なんとなく。彼女が私の婚約者と重なって見えたからです」
「ククッ。そうか。メイア、君はトリスタン団長のことをどう思った?」
私はアロイス王太子殿下に敬礼しながら話をする。
「団長とは年も離れていますし、不愉快に感じておりました。助けに入っていただいたファルス様がとても格好よくて心を鷲掴みにされました」
「メイア、助けられてよかった。だが、俺のことをファルスと呼ぶな、リューム伯爵と呼んでくれ。俺には生涯をかけて守りたい婚約者がいる。彼女に誤解をされるようなことを一切したくない。俺はこれ以上君に関わらない」
「わかりました。リューム伯爵は一途なんですね」
私と会っている時はそんな言葉を口にすることはないけれど、こうしてファルスの口から「生涯をかけて守りたい」と言われると嬉しくて涙が出そうになる。
「ああ、彼女は俺の最愛だからな」
「ククッ。ファルスは婚約者以外、目に入らないんだったな」
アロイス王太子殿下はやはり笑いを堪えている。
「コホン。メイアといったな。トリスタン・ディーキンのことはこちらで君に近づかないように注意をしておく。残りの期間は普段通りにしてくれて構わない」
「アロイス王太子殿下、お気遣いいただきありがとうございます! そろそろ団の詰め所に戻ります」
「ククッ。そうだな。何かあればすぐに私に連絡すればいいさ」
「有難う御座います! 私のことで皆様のお仕事の手を止めてすみませんでした。では失礼いたします!」
私は礼をして王太子殿下の部屋を後にした。
……どうしよう。
本当に嬉しい。
先ほどまで、不快な感情でいっぱいだったのに、嬉しくてしかたがない。この気持ちをどう表現していいかわからない。
隠そうとしても溢れ出てくるこの気持ち。笑顔がつい出てしまう。
あと数日、この気持ちでなんとか乗り越えられそうな気がするわ。
そう思っていたのは詰め所に入るまでの話だった。
「おい、お前! 可愛いからって調子に乗るなよ」
「何ですか? 突然」
「ディーキン団長の誘いを断って王太子殿下に泣きついたんだろ」
「お前みたいな平民なんかが殿下の傍にいれると思うな」
「団長に飽き足らず、殿下にまで色目を使ったのか。娼婦め、騎士の風上にもおけねえよ」
詰め所に入ると、騎士達から突然罵声を浴びせられた。
恐れていた事態になったようだ。
平民の騎士は自分に飛び火しないように私から視線を反らし、貴族たちは私を睨んでいる。




