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「医務官長、魔石を集めてきました」
「こんなに。助かる。先ほど連絡が入った。魔術師たちのおかげで魔獣の大半は倒せたそうだ」
「よかった。それにしても怪我をして運ばれてくる騎士は少なかったですね」
「ああ。今回はアロイス王太子殿下が魔法を使っているらしいからな」
「アロイス王太子殿下が?」
「中央の騎士たちに防護魔法をかけているらしい」
「珍しい魔法を使われているんですね」
魔術師がかける範囲魔法の一つではあるのだけれど、攻撃魔法や身体強化、結界魔法などが好まれる傾向にあって、防御に関する魔法は後回しにされることが多いからだ。
「騎士たちの怪我が軽い分、その場で魔術師が治癒魔法を使っているのかもな」
「なるほど」
「でも、そのまま進軍していった騎士たちはかなりの人数ではなかったですか?」
「ああ。きっと側近たちの魔力も使用しているからだろう」
静かだと思っていたのはそのせいか。テントの中で魔法を使っていたからなのね。
私は一人納得する。
きっとファルスも手伝っているんでしょうね。
「もう少しすれば討伐も終わるだろう。我々も引き上げの準備だ」
スタンピードの直前ですぐに対処できたこともあって今回の被害はほとんどなかったと言っていいのかもしれない。
半日程度でほとんどの魔獣が対処できたからだ。魔獣が湧きだす歪みになんらかの魔法を打ち込み、歪みを散らしたのだろうか。この辺りは後日国から発表されるはずだよね。
私たちはしばらくその場で待機をして日が落ち始めた頃、ようやく王宮に戻るように指示があった。
片付けをして荷物を馬車に乗せ、私たちも乗り込もうとした時。
「カイ君、ちょっとアロイス殿下を見てきてくれないかしら?」
前線にいたと思っていたリディアさんが私の後ろに立っていた。
驚きのあまり柄に手をかけてしまったのは仕方がない。リディアさんはその様子を見て満足そうに笑顔を見せていた。
「わかりました。帰りはどうすればよいですか?」
「殿下たちの馬車に乗せてもらうといいわよ。話を通してあるから」
「わかりました。リディアさんはどうされるのですか?」
「まだ後処理が残っているからこのまま飛んでいくわ。じゃ、お願いね」
リディアさんはそう言って前線に戻って行ってしまった。
アロイス殿下のいるテントに私が呼ばれる理由は何かしら?
不安に思いながら発車する医務官たちの馬車を見送り、アロイス殿下たちのいるテントの前に立った。
「アロイス殿下の様子を見に来ました」
「君がカイ君か。入れ」
テントの前にいた護衛たちが私の顔と名前を確認した後、テントの中へと入れてくれた。
「アロイス殿下、体調はいかがでしょう、かって……大丈夫そうには見えませんね……」
テント内に入ると大きな机が一つあり、その上には大きな魔法紙が広げられている。
それを取り囲むように中央にはアロイス殿下、右に魔術師筆頭のザロン様、左に魔術師副官のフェース様が机に倒れ込んでいた。
ファルスはアロイス殿下に手を翳していて顔色が悪い。
他の側近たちも壁際の椅子にしなだれかかるように座っている。魔力切れを起こしているように見える。
よく見ると、彼らの足元には魔法薬や魔石がたくさん転がっていた。
「……ああ、カイ君か。リディアから連絡をもらった。君にはザロンの魔力の補充を頼みたい」
「畏まりました」
私は一礼し、すぐにザロン様の背中にそっと手を当てようとした時、側近たちに止められた。
「おい、お前、待て! お前の顔を見たことがないぞ。殿下の命を狙う者なんじゃないか?」
一人がそう言葉にすると、一斉に側近たちが剣に手をかけた。
えっと、この状況、どうすればいいのかしら。
ファルスは不審そうに私の顔を見ていたけれど、私の剣を見てすぐに気づいたみたい。フッと笑顔になった。
もちろんアロイス殿下やザロン様には私の正体を知っているため、すぐに止めてくれた。
「お前たち、カイ君は問題ない。ルホターク家経由で我々王族が直接頼み込んで協力してもらっている冒険者なんだ。普段は王都にいないから顔を知らなくて当然だ」
「し、失礼しましたっ。だから先ほどリディア夫人から伝言魔法が来ていたのですね」
「ああ、そうだ」
アロイス殿下は疲れた表情をしながら答えている。
「疑われるのは当然です」
「……話は終わったか? 頼む、カイ君と言ったな。すぐに魔力の譲渡を……」
ザロン様は机に突っ伏したまま言った。
魔術師筆頭のザロン様がこんな姿になるほど魔力を使うことなんてあるのね。
イェレ先輩やリディアさんのように大きな魔法を打つ人は魔力枯渇して倒れそうになっている姿はたまに見るけれど、なんだか新鮮だわ。
「ザロン様、失礼します」
「リディアの紹介ということは上手く魔力譲渡ができるのか。助かる」
私はゆっくりと魔力をザロン様へと流していく。ザロン様の魔力の形が伝わってくる。
リディアさんたちのしなやかな流れではなく、もっと芯のあるというべきか上手く例えられないけれど、また違った魔力を感じる。形を合わせて魔力を流していく。
「ふむ。ここにいる彼らよりも上手いな。これなら安心できる」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
ファルスは口を開くとボロが出るのを理解しているみたいで黙っているが、偶に視線が合うと、ふっと口元が緩んでいる。
しばらく魔力を譲渡していると、ある程度魔力が溜まったようでザロン様から手を離すように指示があった。
「カイ君、助かった。ファルスももう十分だろう」
「はい」
私たちは手を止めて壁際へと下がった。アロイス殿下とザロン様は復活したとばかりに肩や首を回し、身体を動かしている。




