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しばらくすると、イェレ先輩がテントにやってきた。
「魔力が枯渇しそうだ。魔法薬を」
イェレ先輩は医務官が用意した椅子にどかりと座った。私は持ってきた鞄の中から魔法薬を二本差し出すと、彼は一気に飲み始める。
魔力量の多いイェレ先輩にはここにある瓶の半分を飲むくらいだろう。
そこまで液体を飲めないだろうから魔石から取り込むのだろうか。
「あーまずい。それに二本じゃ足りない。魔石は?」
「いくつか用意してありますが、後は現地調達しろという命令です」
「俺に魔石なんて取れるわけがないじゃないか。まったく……」
「イェレ魔術師。私の魔力を使ってください」
「君は……」
イェレ先輩は不審な目で私を見たけれど、魔力を確認したようでふっと笑みを溢している。
「カイ君か、君なら特別に許可しよう」
やっぱりイェレ先輩は私に気づいたようだ。
先輩を欺くことはできないらしい。先輩は手を差し出してきたので私はそっと手を取り、魔力を流し始める。
「カイ君、昔も上手だったが、今はもっと上手くなっているじゃないか。ほとんど魔力のロスがない」
「ええ、そうでしょう」
「カイ君はこの後どうするんだ? 俺に魔力を渡せば君は魔法が使えなくなる」
「俺は剣も使えますし、魔術師たちがこのボア牧場の魔獣を倒していたので、この後で魔石を取り出しに行こうかと思っていました。全く問題ありませんよ」
「そうか。じゃあ、遠慮なく魔力をいただこう」
イェレ先輩に魔力を補充していると、リディアさんもやってきた。
「あら、イェレ。魔力の譲渡をしてもらっているの? 私も欲しいわ。カイ君、交代してちょうだい」
「姉さん、俺はまだ魔力が足りないんだぞ?」
「大丈夫よ。もう三分の二は溜まったでしょう? 後は魔法薬を飲みなさい」
「仕方がないな」
リディアさんももちろんイェレ先輩同様に魔力が見えるため、私が誰なのかもイェレ先輩がどんな状況なのかもわかっているようだ。さすがよね。
待機していた医務官が二本の魔法薬をイェレ先輩に渡した。私は魔力を止め、リディアさんの手を取った。
「カイ君からの魔力の譲渡。どんな腕前かしら」
私はイェレ先輩と同じように魔力をリディアさんに受け渡しを始める。
イェレ先輩は以前に魔力譲渡をしたことがあるので魔力の形を覚えていたけれど、リディアさんは初めてなので緊張するわ。
ゆっくりと魔力を流し、リディアさんの魔力の形に調整していく。
「あら、上手いじゃない。イェレが喜ぶわけね」
「ありがとうございます」
「さて、また行ってくるか」
「いってらっしゃいませ。ご武運を」
イェレ先輩はそう言ってテントを出て行った。
「カイ君、これが終わったら私と訓練しましょうか」
「……はぃ」
リディアさんは満面の笑みを浮かべている。
きっと訓練で私はちぬんだわ。
そうして私は遠い目になりながらもリディアさんに魔力の譲渡をして、残り僅かになったところで譲渡を止めた。
「私の魔力はここまでのようです」
「ありがとう。あとは魔法薬ね。これって美味しくないのよね」
「ソルトラ錬金術師長が作ったものは甘くて美味しいと伺いました」
「ああ、あれね。美味しくはあるけれど、一度飲めば数日魔力を放出し続けないといけないから嫌なのよね」
なんと!
そんな副作用が!?
やはりソルトラ錬金術師長はおかしな物を作る天才じゃなかろうか。
リディアさんは魔法薬を受け取り、一気に飲み干した。魔法薬は魔石や魔力の譲渡とは違い、時間差があるので考えて使わなければいけない。
「じゃあ、私もいくわ」
「お気を付けて」
私たちの声を聞いたかどうかという速さでリディアさんは現場に戻っていった。
「カイ、君も魔法薬を飲んでおくんだ」
「はい」
私は医務官から魔法薬を受け取り一気に飲み干した。
うん、やはりまずい。
「今はすることもないし、外に転がっている魔獣から魔石を取ってきます」
「ああ、君は冒険者だったな。これから魔術師も魔力枯渇で戻ってくるだろうから、魔石が一つでも多くあると助かる」
「行ってきます」
私は周囲を警戒しながらそこらに転がっている魔獣から魔石を取り出し始めた。
この辺にいたのは小物の魔獣が多いから魔石もあまり大きくないわね。
本当ならこのまま魔獣が寄ってこないように死体を焼きたいけれど、今は魔力が惜しい。
魔石を取り出した魔獣を引っ張り、一か所に集めておく。
こうしておけば後で燃やすのも楽だし、素材を取るのにも便利だからね。
私が魔石を取っている間に怪我人が一人、また一人と運ばれてきている。私も急いでもどらないと。
ワーウルフの魔石を取ったその時、背後から気配がして振り向いた。
ビッグボアだわ。しかも目が赤い。私は持っていた魔石から魔力を瞬時に取りだし、魔石を投げ捨てて剣を構えた。
――グルルッ。
ビッグボアは涎を垂らしながら踏み込み、こちらへ突進してきた。
「相変わらず攻撃が単純だ」
私は寸前で横に移動し、ビッグボアの攻撃を躱して反撃する。
ドサリッ。
ビッグボアが大きく傾き、地面へ倒れ込んだ。
えっ!?
自分が思っていたよりも深く肉を切り裂いていた。
ファルスが驚いていたのも頷ける。これは凄いわ。
自分がいつも感じている斬る時の感覚とかなり違うもの。
改めて剣を眺めた。本当に凄いわ。
もっと斬ってみたい欲に駆られるけれど、今は魔石を取ることに集中しないと。
私はビッグボアから魔石を取り出し、身体強化を使って魔獣の山にビッグボアをぽいと投げた。
そうしているうちに魔力も大分回復してきた。満タンにはならないけれどね。
そういえばアロイス王太子殿下のテントは静かね。
護衛騎士はいるけれど、中で作戦会議をしているのかな?
私は特に気にすることもなく周りの魔獣たちを集めていった。




