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徹夜明けの経営コンサルが異世界転生して、議事録一枚で滅亡寸前の王国を救った件  作者: もしものべりすと


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第十五章 辺境からの再会と闇夜の気づき

翌日の夕刻。

王宮の正門に、辺境からの一隊が、到着した。


馬に、乗っていたのは、ベルント、ナタリア、ドリアン、そして、馬車から降りた、エマだった。

四人とも、四日間の強行軍で、馬も人も、疲れきっていた。

だが、目には、いずれも、強い、光が、宿っていた。


「坊ちゃま!」


ベルントが馬から、降りた瞬間に、声を上げた。

彼は年甲斐もなく、目を潤ませていた。

俺は彼の前で、自分の手を両手で、握りしめた。

彼の手は、辺境の冬の冷気をまだ、纏っていた。


「ベルント、よく来てくれた」

「坊ちゃま、お元気そうで」

「君のおかげだよ」


ナタリアは馬から、ぴょんと、跳び降りた。

彼女の赤い髪は、馬上の旅で、なびいて、乱れていた。


「貴族様、ずいぶん、痩せたな」

「君は、元気そうだ」

「Bランクの私が王宮に呼ばれるなんて、相当の事態だな」

「ああ、相当だ」


ナタリアは笑った。

口角が、強気に、上がった。


ドリアンは太い両手を腰に、当てて、王宮の建物を見上げた。


「貴族様、こんな立派なところに、住んでたのか」

「住んでた、というか、軟禁、されてたんだ」

「ふん。それで、いまは」

「敵が、自滅した」

「最高じゃないか」


ドリアンはにやりと、笑った。


そして、エマだった。

彼女は、馬車から、ぎゅっと、写本帳を抱きしめたまま、降りてきた。

辺境を出発した時の、新しい写本帳とは別の、もう一冊。

表紙の金糸のピラミッドが、王宮の篝火に、淡く、光っていた。


「リシュ様」


エマの目にすでに、涙が、滲んでいた。


「お会いできて本当に、よかった」

「エマ、ありがとう」

「いえ、私こそ。リシュ様の御指導が、なければ、私はいまも、ただのメイドでございました」

「いまでも、君は、メイドだよ」

「はい。でも、いまの私はリシュ様の議事録の、第一の写本者でございます」


彼女は、誇らしげに、写本帳を、胸に、抱えた。


俺は四人を、王宮の客間に、案内した。

客間にはすでに、湯気の立つ、温かい食事が、用意されていた。

ローラン伯爵が手配してくれていた。


四人は、まず、温かい食事を取った。

食べる間も、四人はほとんど何も、喋らなかった。

ただ、湯気と、肉と、パンと、葡萄酒の匂いを、心の底から、噛みしめていた。

そして、食事がほぼ、終わった頃に。

ベルントがようやく、口を開いた。


「坊ちゃま。本日の御招集の、御理由を」


俺は深く頷いた。

四人を、王宮の最も奥の、戦略室に、案内した。

そこには、王都の周辺の、巨大な軍事地図が、広げてあった。


「明日の夜、魔王軍の本隊が、王都に、到着します」


四人の顔が、同時に、引き締まった。


「数は、約三万。空中軍が、五千。地上軍が、二万五千。指揮官は、魔王ザイラス本人」

「魔王本人ですか」


ドリアンが唸った。


「これは、戦争の、頂上決戦、ですな」

「ええ。だから、皆さんに、来てもらった」

「貴族様、私たちに、何を、させたいんだ」


ナタリアが地図に、指を置いた。


「ナタリア、君には、王都の遊撃部隊を、率いてほしい」

「Bランクの私が遊撃を」

「Bランクなのは、ギルドの古い基準だ。君の実力は、Aランクだ、君も、わかってる」

「……了解、貴族様」


ナタリアはにっこり笑った。

それは、彼女には珍しく、自慢気な、笑顔だった。


「ドリアン殿には、王都の冒険者ギルドの、全冒険者を、組織化してほしい」

「すべてか」

「ええ。階級別、特技別、配置別に、整理してください。最大の力を、最も必要な場所で、発揮できるように」

「KPIの応用、だな」

「その通り」


「ベルント、君には、王都の補給と兵站を見てほしい。複式簿記で、すべての物資の動きを、可視化してほしい」

「ベルジア要塞での実績、を、王都全体に、応用、と」

「その通り。君なら、できる」

「は、はい。喜んで」


「そして、エマ」

「は、はい」

「君は、私のそばで、すべての作戦会議の議事録を書いてほしい。一秒の遅延も、なく」

「は、はい。必ず」


エマは写本帳を、ぎゅっと、抱きしめた。


「皆さん、これからの三日間、私たちは、王国の運命を、背負います」

「は、はい」

「ですが、忘れないでください。私たちはすでに、勝つ仕組みを、持っています。皆さんが、辺境で、半年で、証明してくださった、あの仕組みを、王都でもう一度、走らせるだけです」


四人が深く頷いた。


ドリアンがぼそりと呟いた。


「俺、五十路で、まさか、王都の防衛戦の参謀やるとは、思わなかった」

「俺だって、二十八で、異世界の魔王戦の指揮、執るとは、思わなかった」


俺が答えた。

四人が、一斉に、笑った。


その夜、俺は戦略室の机に、頬杖をついて、地図を、眺めていた。

エマが隣で、議事録を、清書していた。


「リシュ様」

「ん」

「お聞きしても、よろしいですか」

「うん」

「リシュ様は本当に、勝てると、お思いですか」

「うん」

「魔王本人を、相手に」

「うん」

「私にはまだ、信じられません」


俺は笑った。


「エマ。覚えてるかな、辺境の地下書庫」

「もちろん、忘れません」

「あそこに、銅の壁があったね」

「はい、ピラミッド型の溝の」

「俺はあの時、気づいたんだ。この世界の根源はたぶん、ピラミッド構造で、できている」


エマが目を見開いた。


「世界の、根源でございますか」

「ああ。だから、ピラミッド・ストラクチャーで、整理されたものは、必ず、世界に、影響を、与える」

「では、リシュ様が、これまで、作ってこられた議事録はすべて、世界を、整える魔導陣だった、と」

「たぶんね」


エマはしばらく、黙って、写本帳の表紙の金糸を見つめていた。


「リシュ様、もう一つ、お伺いしてもよろしいですか」

「どうぞ」

「リシュ様は、何故、いつも私たちのために、戦ってくださるのですか」


俺はふと答えに、詰まった。


それからゆっくり、答えた。


「俺はたぶん、自分のために、戦ってる」

「自分のためにですか」

「うん。前世の俺はいつも、誰かのために、戦ってた。クライアントのために。会社のために。同僚のために。誰のためにでも、戦ってた」

「は、はい」

「でも、自分のためには、戦ってなかった。だから、いま、俺は自分のために、戦ってる。皆さんのために、というのもたぶん、俺の自分のため、と一致してるんだ」


エマの頬が微かに、紅潮した。

それから、彼女は、両手で、写本帳を、ぎゅっと、抱きしめた。


「リシュ様、私、お役に立ちます」

「うん。頼む」


エマが戦略室を、出て、自分の客室に戻った後。

俺は一人で、地図を見つめた。


明日の夜、敵が、来る。

俺はまだ、知らない。

魔王ザイラスが実は、この世界の崩壊を止めようと、戦っている、ということを。



その夜、深夜。

俺は戦略室の机に、頬杖をついたまま、うとうとと、舟を、漕ぎ始めた。

そして、夢の中でまた、前世の、ある場面を見た。


新入社員の頃、初めての炎上案件で、徹夜で、議事録を書いていた夜。

俺の隣に、ちょこんと、立っていた、女性の先輩。

彼女は、俺の議事録の、最後の頁を読みながら、にっこり笑って、こう、言ってくれた。


「相沢君、君の議事録は、世界を、整える形を、している」


それは、半分、冗談だった。

だが、その夜、俺はたぶん、その一言で、生まれて初めて、自分の仕事に、誇りを、持った。


ふと、目が、覚めた。

戦略室の蝋燭が、半分まで、燃え尽きていた。

机の上に、写本帳が、置かれていた。

エマが戻ってきて、そっと、置いていったらしい。


写本帳の表紙の、金糸のピラミッドが、蝋燭の光に、温かく、光っていた。


俺はそれを、指で、なぞった。

それから、新しい羊皮紙を、机に、広げた。


明日の作戦の、最初のピラミッドを書き始めた。

頂点に「王都防衛、勝利条件」。

根拠の柱、一本目「補給の遮断阻止」。

二本目「市民の避難完了」。

三本目「魔王本人との対話」。


最後の柱を書きながら、俺は一瞬、自分の手が止まったことに気づいた。

対話。

何故、対話、なのか。

俺自身、なぜ、その言葉を書いたのか、わからなかった。

だが、その言葉だけ、消えずに残った。



窓の外、王都の屋根の上に、明け方の薄い青が、にじみ始めていた。

鳥が、一羽、鳴いた。

俺はその声を聞きながら、ピラミッドの頂点に、もう一つだけ、文字を書き足した。

「終わりの始まり」

そう、書いた。



蝋燭がふっと、消えた。

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