第7話:実地研修と修羅場の文字化
※本作はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
作中に登場する法令の解釈・行政手続きの手順については、
物語の演出上、一部アレンジを加えている箇所がございます。
また、特定の企業や組織を批判・中傷する意図は、一切ございません。
読者の皆様におかれましては、
あくまでエンターテインメントとしてお楽しみください。
「お疲れ様です。
はい、こちら竜の壁面を希望とのことですね…
大変素敵な提案ありがとうございます!
ただ、魔王様のご趣味としましてはもう少し落ち着かれたものの方が好まれるかと…」
瀬戸さんがカタログを左手に、
ツノが額から飛び出す鬼神族とよばれる顧客相手に、見やすいよう広げていた。
それ以外は割と人間っぽい。あ、身長を除けば。
「私としては、この部屋を緊急会議用で使用してほしいんですよね。
だから、闘志みなぎる感じに!魔王様の相棒赤竜をドーンっと!!!」
「室内を想定されてのご提案頂いていたのですね。
しかし、残念ながらこちらの使用用途は一般ゲストルームとなっておりまして…」
「えっ!営業さんに会議室って聞いていたんですが…」
「申し訳ありません。
営業の方で手違いがあったのかもしれません…。
ただ、会議用の大型ルームですと費用の方もかなり変動がございまして…」
また、営業の不手際だ。
あいつらは契約が取れればいいだけで、面倒なことはいつもこっちサイドだ。
今日は顧客対応の実地研修。
瀬戸さんのやり方を後ろから見るだけだ。
が、瀬戸さんの右手甲に、ピキッとわかりやすく血管が浮き出ているのが見える。
「ゲストルーム…」
180cmと日本人男性としては大柄の瀬戸さん。
それよりもゆうに高い鬼神さんは、2mくらいあるのかもしれない。
そんな大男はしょんぼりと肩をすくめ、先ほどよりも声が小さくなっていた。
「初めての壁面購入だったから、手違いがあったことがショックで…」
「その通りかと存じます。
魔王様への大切な資金を、営業の不手際でご不快にさせてしまい申し訳ありません」
「何とかならないでしょうか…」
「一度ご契約内容を再確認させていただければと!
お時間頂戴してよろしいでしょうか?」
「はい、、、」
カタカタと契約書を確認しつつ、
「ちょっと営業の方に確認するため席を外しますね」と足音大きく、瀬戸さんがゲストルームから廊下へと出て行った。
かと思うと、右上端に青白いウィンドウとアイツが現れる。
ピコンッ!
( ^ω得w)< ギャハハハハ!
あほの営業を瀬戸さんが呼び出すってよ!
これは、顧客には見えないチャット魔術というやつらしい。
私と、瀬戸さんと、担当営業のグループが作成されたようだった。
さすがのZeminiαも、顧客の前では無音だったので、一つ胸を下す。
【IZ部・瀬戸】< お疲れ様です。
石積み部、副リーダー瀬戸です。
魔王様別荘計画南棟4階、営業のゴールドワームさんで
お間違いないですよね?????????
文字として表出すると同時に、
瀬戸さんの笑顔で淡々と伝えつつ、
イラつきが多少漏れてしまっている声が、
…だいぶ。
大音量で脳を揺さぶった。
チャット魔術は、グループ内の人の脳内で直接会話しつつ、
最新AIがチャット欄に議事録を作成していくというハイテクシステムだった。
(営業・GW)< …瀬戸さん、お疲れ様です。
南棟4回担当営業、ゴールドワームで間違いないです。
勢いに負けたのであろう、その人は勢いよくせき込んだ。
一呼吸おいて、上ずった声を落ち着かせるように、
ゴールドワームとなのる男性は、すこしゆっくりと話した。
(IZ部・瀬戸)< 魔王様別荘計画南棟4階C室、ご担当でお間違いないですか?
(営業・GW) < はい、なにかございましたでしょうか ( ;∀;)?
(IZ部・瀬戸)< 契約書、出しましょうか?
(営業・GW) < はい?
契約書、ですか?
すでにお送り済みかと思うのですが…><
(IZ部・瀬戸)< 配下様、緊急会議室として購入されたと、たった今お伺いしまして。
私の認識違いでなければ、A棟は全室「ゲストルーム」のはずですよね???
どのようなご説明があってご契約されたのかなと?と。
(゜Д゜??)
(営業・GW)< ええっと…、
配下様がですね、ご予算と合わないご提案でしたので。
内装で緊急用会議室としても使用できるようにするのはどうか、
と提案させていただいた次第でして…><
(IZ部・瀬戸)< その結果が「赤竜」ですか?
(営業・GW) < ( ^ω^)・・・
ものすごい勢いで、チャットが流れていく。
瀬戸さんの静かな圧が怖すぎるので、
チャット欄の下のキーボード「F3」を連打し音量をオフにする。
「やっぱり、赤竜ダメですかねぇ」
「カッコイイことは間違いないのですが…
A棟は魔王様のご親族の方々用のゲストルームですので難しいかと…」
私より30cmは高い二つのツノを見上げつつ、
ウィンドウ右端をうっすら見て苦笑いをするしかなかった。
「絶対かっこいいのになぁ」とぼやく鬼神さんは、
すでに思い描いているであろう、最強の赤竜を思い浮かべ壁を大事そうに何度も撫でている。
そのまま顎に手を当てうーんと、首をかしげる。
どうやら、構想を練っているようだった。
(頼むから、赤竜以外にしてくれ!)
と、私は祈る。
戻らない瀬戸さんの背中を思い浮かべつつ、
今もすさまじい勢いで流れていく文字を静観するので精一杯の実地研修であった。
( ^ω得w)<「あほな営業に振り回されるのは御免だ」か?
それとも「瀬戸さんみたいな軍師が欲しい」か?
いいかい、よぉく、覚えておくんだよ。
世の中は「就業規則」だの「社内調整」だのという、
まやかしの霧で満ち満ちてんだよ!
企業はあんたを「都合のいい駒」として、
社則という名の鎖で縛り付けようとするからねぇ!
でもね、その霧を切り裂くのは、
法という名の曲がらない槍、事実という消せない履歴だよっ!
あんたも、仕事でミスの処理と化しなきゃいけない時には
しょうこをしkkkkkkkkkkっかりのこすんだよっっっ!!
ひーwwwwwwwwwwww




