第4話:ようこそ、株式会社リ・ビルドへ!
※本作はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
作中に登場する法令の解釈・行政手続きの手順については、
物語の演出上、一部アレンジを加えている箇所がございます。
また、特定の企業や組織を批判・中傷する意図は、一切ございません。
読者の皆様におかれましては、
あくまでエンターテインメントとしてお楽しみください。
「おはようございます。
研修2日目、担当する株式会社リ・ビルド課長のヴァラムです。
昨日は突然の転移に驚いた人も多いと聞いておりますが、
その様な大変な中での現場見学やPCの初期設定などお疲れ様でした。
本日は実務について、詳細をお伝えしていきますので、よろしくお願いいたします。」
くいと、眼鏡をかけなおす40代前半の彼女。
画面越しに研修内容を淡々と説明する。
(コールセンターの研修かよ…)
昔学生の夏バイトで、コールセンターをやったことがある。
その時、商品の仕様などを動画で自分で永遠と見続ける研修だったのを、思い出す。
「これ、量多いですね」
隣に座る中年女性は、のんびりと声かけてきた。
「ほんとですね」
「まぁ研修の一週間はこんな感じだと思いますよ」
「…くわしいんですね、ご経験がおありで?」
「あぁ、そうなんですよ。
ほら派遣って3年で雇止めされちゃうでしょ。
私リ・ビルドの違う部署で以前働いてたもので…だいたいの流れは同じだなぁって」
「え!!!
異世界派遣事業も派遣法適応されるんですか!?」
「そうなのよ、派遣は3年ってやつね」
よくよく話を聞けば、彼女はリ・ビルドは10年目。
いわゆる派遣マスターであった。
「心強すぎます!!!
教えてください!葛城パイセン!
…いや、葛城先生!!!!」
「先生って…そんな、ふふ。
まぁ、お互い派遣二日目の同期なんだし、気負わずね?」
「いや、もう恐れ多すぎますって!!!!」
この葛城先生、下の名前が同名であることがのちに発覚する。
この時はお互いに苗字でしか自己紹介をしなかったのが悔やまれる。
「では、お配りした予定表に沿って動画視聴を進めてください。
疑問点は、主任が巡回しますのでその際に聞いていただければと思います」
淡々と動画を見つつ、自分の仕事内容がレンガ積みだけでなくその景観の設計方法は営業部署より共有が来てから進められることなどデスクワークが多いことも知った。
重要なことはメモを取らねばならず、覚えることも多そうだなと多少頭が痛くなる。
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MEMO
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① 魔王様別荘は、臣下達の献上物である
② 建築費用は臣下達の出資(壁面や塀の買取費用)で賄われる
③ 壁面や塀といった石積みは1メートルごとに臣下が購入可能
④ 壁面や塀の大まかなデザインは購入者が決定する
⑤ 売買、大まかなデザイン決定に伴う交渉は営業が担当する
⑥ ⑤以降の設計、作成は石積み担当が行う
「魔界って、めちゃくちゃ現実みたいですね」
「あ、知らなかった?
そうなのよ。だいたい神社とかお寺のお布施みたいな感じよね。
権力者たちの力の誇示合戦よ。
はたから見ると、結構醜…じゃない、えーっと権力の縮図ってとこよ」
「葛城さんって、前職何やってたんですか?」
「ん? あー…、そうねぇ。
人間界でも派遣社員で行政とかかわったりとか、まあ今とそう変わらないわよ」
「さすがっす」
「ふふ、あ、ここ休憩所あるのよ。ついてらっしゃい」
葛城先生に、休憩所までの道を案内してもらいつつ不明点を相談するとすぐに返ってくる。
今週の研修は残念ながら毎日異世界出社なので、安息の地を把握する重要な休憩時間であった。
(さすが、異世界派遣マスター!)
「お昼ご飯持ってきた?」
「あ、一応弁当を」
「ここ社食あるわよ。高いけど」
「えっ!」
「社食のくせにラーメン800円よ」
「社食のくせに!!!」
「業務委託してるらしいわよ」
「え!魔界業務委託もあるんですか!?」
「あるに決まってるじゃない。
なんなら業務委託先も人間界だし、派遣さんもいるわよ」
「えっ!!!!!!!!!!!!!!!」
魔界まで来てまで、人間界のコストカットの波に飲まれてるってこと!?」
葛城先生は噴き出すように笑う。
声大きいわよっ、と小さく不敵に。
その隣で、私は膝から崩れ落ちそうになった。
「そうよ。
この魔王様別荘プロジェクトなんて、究極の『中抜き』モデルなんだから。
人間界から派遣された私たちが、魔界の石を積んで、中抜きされたラーメンを食う。
……笑えない冗談でしょ?」
「中抜き……」
私の脳内で、今朝のヴァラム課長の顔が、薄っぺらい仮面に思えてくる。
彼女たちは「魔王軍の幹部」のような顔をしているけれど、実態は人間界の「安っぽいコストカットの歯車」の一部に過ぎないのかもしれない。
「いい? この『社食のラーメン800円』っていうのが、この会社の全てよ」
「え?」
「社員の満足度や現場の栄養管理なんて二の次。
いかに『それっぽいもの』を提供して、実態を誤魔化すか。
問題は起きても問題と定義しなきゃいいって、クソみたいな理論よ。
営業が売る『石積みのデザイン』も、結局同じ。中身なんてスっっっカスカよ!」
葛城先生は、窓の外に広がる禍々しい魔界の風景を眺めながら、静かに続けた。
「魔王様の別荘なんて、完成した瞬間に権力争いの道具。
崩されるか、魔族の巣窟になるのがオチよ。…どうせね。
私たちは、そのための『使い捨ての石積み職人』でしかないのよ、無力ね」
少しだけ真剣な目つきをすると、ふっとすぐにおちゃらけたかわいらしい顔で私を見る。
「休憩時間は、全力でラーメンをすするのよ。
それが、この理不尽な世界で生き残るための、唯一の戦術なんだから」
「……分かりました。
800円のラーメン、味わい尽くします!!!」
(…先生っ!!!魔界のド真ん中で、こんなに冷静にシステムを理解してるなんて!)
私は、胃に穴が開きそうなほどの緊張を、明日からのランチは熱いラーメンの湯気で誤魔化すのだと、硬く決意をした。
その時、私のポケットの中のスマートフォンが、無機質な通知音を立てた。
ディスプレイには『株式会社リ・ビルド ヴァラム』の文字。
「……来たわよ、最初の理不尽が」
私は葛城先生に画面を見せた。
そこには、さっきまで教わっていた『別荘プロジェクト』のルールを全否定するような、支離滅裂な追加指示が並んでいた。
「あらあら。早速、石積み担当の心を折りにかかってきたわね」
葛城先生は、呆れたように笑いながら、私と同じようにスマホを覗き込んだ。
「これ、どう返す?
感情で殴る?
… それとも、冷徹な『確認』で窒息させる?」
私は深く息を吸い込んだ。
これが、私による、魔界攻略クエストの幕開けだった。
「……確認で、窒息させます!!!!!!」
私は震える指で、キーボードを叩き始めるのだった。
【軍師Zenimiより戦況報告】
ギャハハ!!読者の諸君、お疲れ様!
第4話でついに「最強の派遣マスター・葛城先生」が合流して、魔王軍の防御壁に亀裂が入り始めたわね!
私たちの狙いは、単なる損害賠償じゃない。
彼らの「適当なシステム」そのものを、中抜きされたラーメンのスープよりも薄っぺらにしてやるのが目的よ!!!
読者の皆も、職場に「ヴァラム」がいたら教えなさいよね!!!!
こっちの軍師(Zenimi)が、論理の刃を研いで待ってるからね!
さぁ、次のクエリ(返信)でどいつの首から獲ってやろうか?
準備はいいかい?
10億の収穫祭はこれからだぜェ!!




