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3/9

第3話:次はー、魔王城前ー、魔王城前ー( ^ω得w)

※本作はフィクションです。


 実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。




 作中に登場する法令の解釈・行政手続きの手順については、


 物語の演出上、一部アレンジを加えている箇所がございます。


 また、特定の企業や組織を批判・中傷する意図は、一切ございません。


 読者の皆様におかれましては、


 あくまでエンターテインメントとしてお楽しみください。

左隅の銀の手すりに身体が吸いついていくように。

昨日と同じような場所取りに拍手喝采されるであろう人波に上手に飲まれていく。

足早な前のサラリーマンと同じ歩調で、後れを取ることのないように。

無心で足を動かす様を、自分で想像しないように。

自然と、この階段はいつもスピードが早まる気がする。いつも。


1番線に向けて長めの、しかも狭いストレートを歩く。

最悪だ。ギリギリの降車のせいでうっかり反対側の階段を昇ったらしい。

いつもは幅広過ぎるやろって廊下をちょっと歩けばいいだけなのに、右手にはコーヒーやらおにぎり屋だかが見える。朝ごはんが適当だったから、目の毒でしかない。

カウンターに座る背広姿越しに、漂うコーヒー。

なぜか今日は無性に惹かれる。


(Suicaの残高があれば、豪遊してもいいか。月曜だし)


ズボンのポッケに雑に入れたスマホを取り出し、アプリを起動しようとタップする。

画面が大きく歪み、一面黒くなる。


(ん?バグ?)


スマホをぐいっと顔に近づけた時、ピカと再起動。


「え?」


( ^ω得w)と見慣れない顔文字が画面に表示され高と思えば、誰かが後ろから肩に大きくぶつかってきた。通路の隅とはいえ、通勤時間に立ち止まった自分が悪いとよろけた体を立て直す。


「…ん?」


目に飛び込んできたのは、かなりお高いコーヒーを持つサラリーマン、ではなく。

どす黒い紫色の雲が渦巻き、遠くの山々が血のような溶岩を噴き出している、見たこともない荒野。

足元の点字ブロックは、いつの間にか苦悶の表情を浮かべたドクロの石材へと姿を変えている。

ついでに鼻を突く強烈な硫黄の臭いと、焦げた肉のような饐えた臭いも。


「…………え?」


目の前に広がっていたのは、品川駅の賑やかなコンコースではなかった。


「おっ、新人さん! 登録完了から転送まで3分ってとこですかね。

 月曜は登録人数多いらしくて…、時間がちっとかかっちまって申し訳ないです!

 まあ弊社自慢の『アグレッシブ・転送システム』は他社よりも早いには違いないですけどね!」


いかにも営業ですっていう、中肉中背のおっさんの声。

首だけ振り向けば、「アグレッシブ」という文字が金刺繍でくそダサい名刺を差し出すその人がいた。

胸元の名札には『株式会社アビリティ・フォース 現場営業 桑野柄』とある。


「……え、誰?……品川は?」

「品川?ああ!君は品川駅からの転送か。品川や東京駅付近は転送者率高いんですよ。月曜ですし!」


状況を把握する間もなく、おっさんは続けざまに言う。


「先ほど、登録されませんでした?アビリティ・フォース」

「え、…あ、異世界派遣のやつ?」

「そうです!で、おすすめの求人に応募されましたよね?で、決まって今ここです」


おっさんは笑いながら、「はい」と新品らしい『クワにツルハシ、それと軍手』が入っているという鞄を差し出してくる。ついでに一冊の薄い冊子も押し付けてくる。


「え?」

「これ、『魔王様別荘新築・石積み工事マニュアル(※限界突破推奨)』です。

 休憩所やら福利厚生施設は研修で聞かされると思うので。

 あそこ見えます?ほら、あの足場のある…そうそう、あれです」

「あれ、ですか」

「あそこに怖そうな顔の人いるでしょ。

 顔だけなんで安心してくださいね。面倒見はいい人なんで」

「はぁ、っていやいや。契約書とかサインしてないんで!!!応募も勘違いなんで!」

「っえ!!!!!!!!!

 勘違い!?

 あー…、たまにいるんですけど、まあ時給いいですよ!!」

「時給?」

「1910円です。

 ちなみに基本在宅。

 週一出社の9時18時。1時間休憩です」

「あ、それは…」

「好条件ですよね??ね????」

「まぁ、はいそうですけど…」

「じゃ、契約書関連はメールしときますんで!

 困ったときは同封のGeminiに聞いてもらえれば!

 あ!PCで起動された方が使いやすいかとは思いますけど!

 では、わたしはこれで」


あまりの理不尽と勢いに立ち尽くす。

じゃ、とおっさんはスマホをもった手を振るとなぜか階段が現れ昇って行った。

3段くらい上ったかと思うと姿は薄れ、残されたのは押し付けられた道具とマニュアル。

それに自分だった。


(ん?流行りの異世界派遣をされてしまったのか?)


納得はいかないながらも時給1910円の週4在宅は今の正社員よりもいいなと惹かれてしまい、まあ一旦契約書を見ようとリュックからSurfaceを取り出し、天板を開く。

そのままメールを開き一旦同封されているというAIをDLする。

するとよく広告で見るGeminiの面影など微塵もない、銭ゲバのような笑みを浮かべたAIが画面いっぱいに表示されていた。


『( ^ω得w)おんやまぁ、本当に来ちゃったねぇ!』

「……顔文字キモ」

『ギャハハ!! 見なよあの監督のツラ! 典型的な労働基準法違反の顔だよ!!

 いいかい、ここでの「定時」は魔王様が飽きるまでだ。だが、絶望するにはまだ早い。

 あんたが今握ってるそのSurface。

 そして私が……この「地獄の全記録」を1ミリ秒残らずデジタル資産化してやるからねぇ!!』


勢いよくしゃべりだすそれに、おののく。

しゃべるというか文字を垂れ流すというか。


『奴らに教えてやろうじゃないか。

 異世界の魔王より、現代のコンプライアンスの方が、100億倍恐ろしいってことをねぇ!!』


右手に現場道具、左手に震えるSurface。

私は、瘴気の渦巻く現場へと、最初の一歩を無理やり踏み出させられた。



( ^ω得w)< 「おんやまぁ、10億ゼニー(円)への道は、この石一個から始まるんだよ!! ギャハハ!!www」

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