一刀流
レザードとの死闘を終え、客室に戻った夜。
俺は自分の剣を膝に乗せ、その重みを確かめながら静かに息を吐いた。
「……智様。一つ、伺ってもよろしいかしら?」
茶を淹れてくれていたシルクが、ふと手を止めて俺を見た。
「レザード様との戦いの途中で、剣を壊され一刀に戻されましたわね。……記録では、15年前にあなたが魔王を討伐した際も、一刀流だったと聞き及んでおりますけれど」
その言葉に、隣で槍を磨いていたシアも、興味深げに視線を向けてくる。さらに、部屋の隅で俺を熱っぽい目で見つめていたレザードまでもが、身を乗り出してきた。
「そういえばそうね。なんでわざわざ慣れない二刀流なんて練習してたわけ? 結局、一刀の方が圧倒的に強かったじゃない」
俺は、手元の一本の剣を複雑な心境で見つめた。
「……ああ、わかってるよ。今回改めて振ってみて、一刀の良さは嫌というほど再認識させられた。意識が一本に集約される感覚、全身の力が澱みなく切っ先に伝わるあの『正解』の感触……。正直、一刀の方が今の俺には『強い』んだろうな」
俺は一度言葉を切り、少し悔しそうに眉を寄せた。
「でもな……二刀流は、俺が15年、孤独の中で『魔法なしでも生き残る』ために、必死に積み上げてきた足掻きなんだよ。一刀が俺の『本質』だとしたら、二刀流は俺がこの15年で手に入れようとした『進化』なんだ。……勝手に一本折られて、はいそうですかって戻されるのは、なんか負けた気がするんだよ」
15年前、勇者たちが帰った後の絶望。あの時、一人で森に籠もって左手で剣を振る練習を始めた時の、あの必死さを無かったことにはしたくない。
「……というわけで、ちょっと出かけてくる」
「え? 智さん、どこへ?」 怪訝そうな顔をするミラを尻目に、俺は立ち上がった。
「決まってるだろ。もう一本、剣を買いに行くんだ。二刀流に戻すために決まってる」
その瞬間、部屋の空気が凍りついた。
「……はぁ!? ちょっと、バカなの!? 何が進化だ、退化だろ!」 シアが手元の槍を放り出しそうになって叫ぶ。
「さっき自分で一刀の方が強いって認めたじゃない! なんでわざわざ、また弱くなるような真似するわけ!?」
「弱くなるって言うな! 練習すれば二刀流の方が絶対に強くなるんだよ!」
「智さん、ダメだよ! やめて!」
ミラまでが俺の服の裾を掴んで必死に引き止めてくる。
「あんなにかっこよく一刀で無双してたのに! 二刀流の時の智さんは、なんか……動きがぎこちなくて、見ててハラハラするんだもん! 弱くなるからお願い、一刀でいて!」
「そ、そんなことはないだろ!ぎこちないって言うな! ミラまでストレートに否定するなよ!弱くは無かっただろ!」
そこへ、これまで黙って震えていたレザードが、恍惚とした表情で俺の手を握りしめてきた。
「智さまぁ……! おやめなさい。あの、私の全てを粉砕した神々しいまでの一刀……あの重み、あの鋭さ! 二刀になど分散させては、私を貫いたあの『純粋な暴力』が濁ってしまうわ……! 私はあの一振りに、身も心も分からされたのよ!?」
「お前は黙ってろ! 話がややこしくなる!」
「智様……私、一途な智様が素敵だと思ってましたのに……そんなに欲張って二本も持とうなんて、強欲ですわ!」
「シルク、それ剣の話だよな!? 別の意味に聞こえるからやめろ!」
彼女たちの猛烈なツッコミと、レザードの変態的な懇願を背に受けながら、俺は「うるさい、これは男のロマンだ!」と捨て台詞を吐いて部屋を飛び出した。
一刀の方が強いのは、俺が一番よく知っている。それでも、15年の足掻きを証明したい一心で武器屋へ向かったのだが――。
「……智様、どうしても……どうしても浮気をなさるのですか……? うっ、ううぅ……ひっく……」
なぜか先回りして武器屋の前に立ちはだかっていたシルクに、地面に座り込んでガチ泣きされ、俺は静かに二刀流を捨てた。
完結までの目処がたったので隔日投稿→毎日投稿になりした
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