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レザード

バタン、と重々しい扉が閉まる。  直後、広間の方からは堰を切ったような驚愕のざわめきが漏れ聞こえてきたが、この部屋の中はそれとは質の違う、肌を刺すような沈黙が支配していた。


「……で。なんであんたがここにいるわけ、レザード副団長?」


シアが、心底やりづらそうに眉をひそめて問いかける。

シアは元近衛兵だ。副団長であるレザードとは当然面識があるし、その実力も厳格な性格も熟知している。  

だが、今目の前にいる女性からは、かつての冷徹で近寄りがたいオーラなど微塵も感じられなかった。


「お願い……智さま。私を、貴方のパーティーに入れてちょうだい」


レザードが、すがりつくような湿った視線を俺に向けてくる。  その場にいた全員の思考が、音を立てて停止した。


「……はあぁぁぁっ!?」


真っ先に叫んだのは、シルクだった。  普段の聖女のような微笑みはどこへやら、智を想う独占欲が純粋な怒りとなって爆発する。


「い、いや俺に言われても……ってかなんでそうなったんだよ」


俺の困惑を無視して、シルクがレザードの前に立ちはだかった。


「何をおっしゃっているんですか! 智様を辱め、卑怯者呼ばわりしていた近衛兵の親玉が、どの面を下げてそんなことを! 智様の隣は、もう満席です! 予約で埋まっています!」


「そ、そうよ、智さん。こんな情緒不安定な危ない女、仲間にできるわけないわ。……だいたい、あんたは智の何を知ってるっていうのよ。あとリーダーは私よ。勇者である私。私に言いなさい?」


ミラもまた、面白くないといった表情で俺を睨みつける。  俺が見せた「本物の剣技」に、彼女もまた言いようのない動揺と、智に対する形容しがたい感情を抱き始めていた。


そこへ割り込んできたレザードが、癪に触って仕方ないのだろう。


「だいたい、あんた仕事はどうするんだ。近衛の副団長ってのは、国を護る要職でしょうが」


シアの至極真っ当な突っ込みに、レザードはあっけらかんと、しかし断固とした口調で答えた。


「辞めるわ。一ヶ月後に。……退職の意思表示は労働者の特権だもの。受理されなくても強引に辞めてやるわ」


「『労働者の特権』って……あんた、そんなキャラじゃないだろ!? 規律の権化みたいな女だったじゃないか!」


シアが頭を抱える。  本来のレザードは自分にも他人にも厳しい、冷徹なまでの武人だった。


だが、今の彼女は違う。俺が放った「燕返し」という、理屈を超えた技に、彼女が28年間積み上げてきたプライドも理性も、すべて完膚なきまでに砕かれてしまったようだ。


「あぁ……智さまぁ……。貴方の剣が私を貫いたあの瞬間、私は初めて『生』を実感したのよ……。あの重み、あの鋭さ……もっと、もっと私に刻みつけて……なんなら今すぐ結婚して。あぁ、あたなの……この腕の血管……浮き出た筋……たまらないわぁ……」


レザードが、俺の腕にべったりと、熱い吐息とともに擦り寄ってくる。


「ちょ、おい……! 離れろって! 結婚は無理だろ!」鳥肌が立つ


俺が困惑して引き剥がそうとするが、彼女はまるで吸盤のように吸い付いて離れない。


「智様! 鼻の下を伸ばさないでくださいまし! そんな女、不潔です!」


「……智さん、やっぱりこういう押しに強い女が好みだったわけ?」


シルクとミラからの、冷ややかな、そして明確な殺意を含んだ視線が突き刺さる。  先ほどのレザードとの死闘よりも、今この瞬間の方がよほど生命の危機を感じていた。


「違う、誤解だ! 俺はただ……っ」


「……だめ……かしら。私、自分で言うのもなんだけど、見た目は悪くないと思うの。お金も持ってるわ、私があたなを養ってあげる。……あなたは私のヒモになってぇ。お願い……智さま。お願いだから、私を殴って。あの時のように、容赦なく、私を叩き伏せて……っ」


レザードがとろけるような声で懇願する。  あまりの気味悪さに、俺は反射的に彼女の腕を振り払おうとした。


「無理に決まってるだろ! い、いろいろ!」

「なら……せめて、つねって。貴方のその指で、私の肌を、強く……深く……っ」


「…………」


俺は、ふと冷めた目でレザードを見下ろした。  このままでは、シルクとミラの怒りは収まらない。そして、この「暴走した副団長」を物理的に黙らせるには、彼女が望む形(ただし、苦痛を伴う形)で一度分からせるしかないと判断した。


「……分かった。……そこまで言うなら、一度だけだぞ」


「あぁ……っ、いいわ……準備はできているわ……さあ、私を壊して……」


レザードが期待に身を震わせる。  俺は、彼女の二の腕の外側――上腕三頭筋。


ちょっとしたコツで常人であれば軽くつまみ上げるだけで、神経を直接焼かれるような激痛に悶絶する。

コツは、皮を滑らすように、それでいて優しく摘む。

本来は護身術や、敵と組み合った際に袖と一緒に引っ張って姿勢を崩すための技術だ。


それは、あの十五年間の戦いの中で、魔族を効率よく、かつ「苦痛を与えて」無力化するために磨き上げた、実戦的な嫌がらせ技術の一つでもあった。


「――っ! あ、あああぁぁっ!?」


レザードの口から、悲鳴とも、あるいは別の何かとも取れる嬌声が上がった。  


彼女は目を見開き、全身を弓なりにしならせると、指先から力が抜けたようにそのままずるずると床に崩れ落ちる。


(や、やったか?)


これで大人しくなるだろう。  俺は、こらしめてやったという確信を持って彼女を見下ろした。  だが。


「……たま、らないわ……。この痛み……脳が、溶けてしまいそう……っ! もっと……もっと深く……私をバラバラに壊して、智さま……!」


レザードは、涙目で頬を真っ赤に染めながら、いやらしい意味で悶絶し、恍惚の表情を浮かべて俺を見上げていた。


「…………」


部屋の空気が、今度こそ完全に凍りついた。

「智様……。今、何を……公衆の面前で、何をなさいましたの?」


シルクの背後から、噴火寸前の火山のようなドス黒いオーラが立ち昇る。


「智さん……あんた、女の子が何人もいる前で、堂々とそんなエッチなことできる人だったわけ? 見損なったわ……最低」


ミラの瞳からも光が消え、絶対零度の冷気が室内を覆う。


「……ち、ちがっ! 違うんだ! 俺はただ、こいつを黙らせようと思って……!」


「黙らせるどころか、火に油どころか、爆薬を投げ込んでどうするんだよ、この大バカ野郎!」


シアの叫びが空虚に響く。  俺は再び、自分が「最弱」と蔑まれていた頃よりも、あるいはあの十五年間の地獄よりも、遥かに過酷な窮地(修羅場)に立たされていることを、痛いほどに悟るのだった。


レザードは面接官達を怒らせたが結果はいかに……






完結の目処がたったのでこれから毎日投稿していきます


ありがとうございます!

処女作なんですが4000pv行きました!

これからもよろしくお願い致します


ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも「面白い」と感じていただけたら、

ブックマークや評価(★)を入れていただけると嬉しいです!


今後の更新の励みになります。

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