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二刀流から――

「……おい、始めろよ。お望みの『実力』とやらを見せてやれ、智」

 

シアが面白がって言い放つその声が、試合開始の合図だった。

 

俺は腰の二本の剣を引き抜き、十字に交差させて構える。

正直、二刀流はまだしっくりこない。十五年の空白を埋めるために始めた試行錯誤の最中だが……今はこれで様子を見るのが妥当だろう。

 

対峙する近衛兵、テンセルが鼻で笑った。

 

「十字防御? 随分と弱気な構えね。……消えなさい!」

 

彼女が鋭く指を突き出す。大気中の魔力が急速に収束を始める。

 

「《猛る焔よ、我が敵を焼き尽くす一弾となれ――ファイア・バレット》!」

 

俺は、思わず呆然とした。

 

(……長い。詠唱、だと? ってかだっせー! 最近まで、ミラが瞬き一つせずに中級魔法を雨あられと降らせるのを見ていたせいか、目の前の光景がひどくスローモーションに映る)

 

今さら教科書通りの詠唱を聞かされるとは思わず、つい見入ってしまった――が。

 

「はぁっ!」

 

放たれた火球が、正面で炸裂する。

 

「……っ!?」

 

あっけに取られていたせいで、まともに喰らってしまった。防壁とした二本の剣が熱を帯び、爆風が視界を白く塗り潰す。

 

「やったわ! もう一発いくわよ! 《猛る焔よ、我が敵を焼き尽k――」

 

「…… ――遅すぎるな」

 

吐き捨てるように言うと、俺は左手の剣を無造作に投げつけた。

 

「きゃっ!?」

 

不意の投擲。彼女は身を引いて回避したが、それこそが狙いだ。

視線が逸れたその瞬間、俺はすでに彼女の懐へ潜り込んでいた。

 

(――抜き打ち、一閃)

 

「あ――」

 

テンセルが気づいたときには、右手の剣が彼女の顎先を掠めるような軌道で振り抜かれていた。

凄まじい風圧。杖を模した彼女の剣が、意思を持ったかのように手元から弾き飛ばされ、天井へ突き刺さる。

 

「……そこまでだ」

 

俺が剣を引くと、テンセルはその場に腰を抜かしてへたり込んだ。

 

「……見苦しいわね」

 

冷ややかな声とともに、一人の女性が歩み出てきた。近衛騎士副団長、レザード。

その美貌とは裏腹に、纏っている空気は他の兵士たちとは明らかに異なる。

 

「近衛の名誉に傷をつけられては困る。……私が相手をしましょう。少しは退屈しのぎになるかしら?」

 

彼女もまた、腰から二本の細剣を引き抜いた。その刀身には、どろりとした濃密な魔力が揺らめいている。

 

「まてまてまて!」

 

俺は反射的に拒絶する。勝負は終わったはずだし、ここで負ければさらに汚名を着せられるだけだ。

だがレザードに、聞く耳はなかった。

 

「はっ!」

 

レザードの踏み込みは、テンセルの比ではなかった。

二本の剣が生き物のように俺の死角を突いてくる。重い。一撃ごとに魔力が乗っており、受けるたびに腕の芯まで痺れが走る。

 

俺も二本の剣で応戦するが、彼女はゼロ距離から無詠唱魔法を織り交ぜてくる。実質、三刀流と戦っているような感覚だ。

 

「どうしたの? 防戦一方じゃない!」

 

レザードの剣が、俺の右手の剣を強引に巻き上げる。

 

――パキィィン!

 

甲高い金属音とともに、右手の剣が半ばから砕け散った。

 

「あら、武器が壊れてしまったわね。……これで終わりかしら?」

 

勝ち誇るレザード。その余裕の笑みが、じわりと場の空気を制圧する。

 

だがその瞬間。

 

周囲の空気が、まるごと凍りついた。

 

「……あーあ。なんてことを」

 

俺の声は、自分でも驚くほど冷えていた。

 

「せっかく二刀流、練習してたのに」

 

「……っ!?」

 

レザードが、思わず一歩後退する。額から大粒の汗が流れ落ちた。

観衆の嘲笑も、シアの毒舌も、すべてが溶けて消えたかのような静寂。

 

「……なんだ、その目は。貴様、何を変えた……!」

 

レザードの震えは止まらない。彼女には見えているはずだ。

俺が残った一本の剣を、ただ真っ直ぐに、自然体で構えた「正眼」の姿が。

 

隙がないのではない。

どこから斬りかかっても、その瞬間に自分の首が飛ぶ未来しか、想像できないのだ。

 

「……さあ、続きをしようか」

 

一歩踏み出す。

 

レザードは剣を構え直すことさえ忘れ、ただ恐怖に目を見開いたまま、動けなかった。

 

そうだ……。

 

俺は元々、一刀流なんだよ。


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