表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/46

事務的工程、感情の介在なし(散る蕾。咲く石の華)

屋敷の一角、月明かりが床を白く照らす寝室。

 

ミラは、智の目の前で、震える指先を自らの胸元の紐にかけた。

 

――すとん。

 

衣擦れの音と共に、勇者の象徴であったはずの装束が床に落ちる。

 

「……」

 

智は、いたたまれなさを押し殺したように視線を泳がせた。

 

「ミラ、本当にいいのか。お前、さっきから肩が震えてるぞ。……無理に『これ』に頼らなくても……」

 

「……黙ってください」

 

ミラは、自らの白い肌を隠そうともせず、智を真っ直ぐに見据えた。だが、その声は上ずり、瞳の端には隠しきれない涙が溜まっている。

 

「……事務的な、工程です。強くなるための、最短の道を選んでいるだけ。……そこに、私の感情などありません」

 

自分に言い聞かせるように、ミラは淡々と、呪文のように言葉を紡ぐ。

 

しかし、俺の手が彼女の肩に触れた瞬間――。

 

「っ……ぁ……」

 

ミラの喉が、小さく鳴った。

 

触れただけ…

 

それなのに、彼女が今まで必死に積み上げてきた「勇者」としてのプライドが、その一点から、音を立てて崩壊していく。

 

「……智、さん」

 

一歩、彼女は踏み込んだ。

 

これまでの凛とした立ち振る舞いはどこへやら、彼女の膝は笑い、立っていることすら危うい。

 

胸元に顔を埋めた彼女からは、鉄の意志を装った「事務的な声」ではなく、熱に浮かされたような、弱々しい吐息が漏れた。

 

「……早くしてください。……私の心が、この屈辱に耐えきれなくなる前に。……私を、あなたの『力』で……上書きして……」

 

彼女は智の背中に細い指を回し、そのシャツをぎゅっと掴んだ。

 

「力のためだ」という建前は、今や、彼女をこの場に留まらせるための細い糸でしかない。

 

その夜、ミラの「神童」としての誇りは、初めて知る男の熱によって、静かに、だが確実に形を変えていった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも「面白い」と感じていただけたら、

ブックマークや評価(★)を入れていただけると嬉しいです!


今後の更新の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ