事務的工程、感情の介在なし(散る蕾。咲く石の華)
屋敷の一角、月明かりが床を白く照らす寝室。
ミラは、智の目の前で、震える指先を自らの胸元の紐にかけた。
――すとん。
衣擦れの音と共に、勇者の象徴であったはずの装束が床に落ちる。
「……」
智は、いたたまれなさを押し殺したように視線を泳がせた。
「ミラ、本当にいいのか。お前、さっきから肩が震えてるぞ。……無理に『これ』に頼らなくても……」
「……黙ってください」
ミラは、自らの白い肌を隠そうともせず、智を真っ直ぐに見据えた。だが、その声は上ずり、瞳の端には隠しきれない涙が溜まっている。
「……事務的な、工程です。強くなるための、最短の道を選んでいるだけ。……そこに、私の感情などありません」
自分に言い聞かせるように、ミラは淡々と、呪文のように言葉を紡ぐ。
しかし、俺の手が彼女の肩に触れた瞬間――。
「っ……ぁ……」
ミラの喉が、小さく鳴った。
触れただけ…
それなのに、彼女が今まで必死に積み上げてきた「勇者」としてのプライドが、その一点から、音を立てて崩壊していく。
「……智、さん」
一歩、彼女は踏み込んだ。
これまでの凛とした立ち振る舞いはどこへやら、彼女の膝は笑い、立っていることすら危うい。
胸元に顔を埋めた彼女からは、鉄の意志を装った「事務的な声」ではなく、熱に浮かされたような、弱々しい吐息が漏れた。
「……早くしてください。……私の心が、この屈辱に耐えきれなくなる前に。……私を、あなたの『力』で……上書きして……」
彼女は智の背中に細い指を回し、そのシャツをぎゅっと掴んだ。
「力のためだ」という建前は、今や、彼女をこの場に留まらせるための細い糸でしかない。
その夜、ミラの「神童」としての誇りは、初めて知る男の熱によって、静かに、だが確実に形を変えていった。
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