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無刀流 奥義

――ミラ視点

 

今は、恐ろしいほど調子がいい。

 

視界が冴え渡り、魔力の流れが指先にまで透けて見えるようだ。

 

私だけで、敵の七割は片付けたんじゃないかしら。

 

放つ魔法は面白いように通る。振るう剣は確実に魔族の急所を捉える。斬れる。面白いほどに、刃が肉を断つ手応えが伝わってくる。

 

あの若作りの元勇者……智には、一太刀も当てられないけれど。

 

それでも、今の私なら彼に圧倒できるんじゃないか。そんな全能感すらあった。

 

……いい憂さ晴らしだ。日頃の鬱憤が、魔族の血と共に溶けていく。

 

(あれ……?)

 

唐突に、視界が揺れた。

 

空が見える。暗い地面が迫る。

 

(なんで、私……倒れてるの?)

 

立ち上がろうとした。けれど、下半身に力が入らない。

 

いや、力が入らないどころじゃない。感覚そのものが、そこには存在しなかった。

 

まるで、自分の体が自分のものではないような、奇妙な断絶。

 

泥にまみれながら、必死に視線を足元へ落とす。

 

「……っ!?」

 

悲鳴すら出なかった。

 

足首から膝にかけて、私の皮膚が不気味な灰白色に変色していた。血の通った柔らかな質感ではない。光を鈍く反射する、無機質な質感。

 

それはまるで、精巧に彫られた石の彫刻のようだった。

 

――石? 私の足が?

 

「ミラ!」

 

智の、裂帛の気合がこもった叫びが鼓膜を打った。

 

――――

 

――智視点

 

「おい! ミラ! 足……石化してるぞ!」

 

喉が潰れんばかりに叫んだ。

 

戦場を舞っていたミラの動きが、あんなにも無残に崩れるなんて。原因は明白だ。群れる雑魚共の奥――そこに「本物」がいる。

 

「シア! ここは俺がやる! 周りとあいつらを頼んだ!」

 

背中合わせのシアに指示を飛ばす。返答は、相変わらず可愛げのないものだった。

 

「うるさい! 言われなくても分かってるわ! この傷んだ大根野郎!絶対ミラを死なせるな!」

 

(…相変わらず言い方きっつ…)

 

だが、苦笑する余裕すらない。

 

視界の端。戦場の喧騒から切り離されたような、圧倒的に異質な存在が佇んでいた。

 

頭部から天を突くように大きく反り返った二本の角。燃えるような赤い肌。そして、すべてを見透かすような冷徹な金色の瞳。


(……村の石化した村人。これが原因か)

 

――筋肉の一片にいたるまで、不自然なほどに整った強靭な体躯。

 

こいつだ。この戦場の支配者は。

 

直視すれば、ミラと同じ末路を辿る。

 

「無駄よ、人間」

 

女魔族が、三日月のように口角を吊り上げ、愉しげに笑った。

 

「私の魔眼はね。"見たら"じゃない。"見られたら"終わりなの。私の視界に入った時点で、あなたの運命は決まっているわ」

 

「……」

 

無言で剣を構え直す。だが、指先が冷たい。冷気ではない。内側から固まっていくような、形容しがたい拒絶感。

 

「あなた、剣士ぃ? その二本、邪魔ね。そんな鉄の棒に頼るなんて、美しくないわぁ」

 

女魔族は、優雅な足取りで一歩ずつ近づいてくる。彼女が歩くたび、周囲の草花が、空気が、音を立ててゆっくりと石へと変わっていく。

 

「それに――」

 

女魔族は、わずかに首をかしげた。獲物を観察する捕食者のような、粘りつく視線。

 

「さっきから気になるのよね。あなた」

 

「……」

 

「どうして、足音がしないのぉ? 私の前に立って、心臓の音すら乱さない。不気味だわ」

 

値踏みするような視線。だが、その黄金の双眸の奥には、隠しきれないわずかな警戒が滲んでいた。魔族としての本能が、目の前の男を「異常」だと告げているのだ。

 

「ちょっと嫌な感じ。普通じゃないわね。いわゆる、人間が言うところの『達人』ってやつかしら?」

 

答えようとした。だが、唇が動かない。

 

指先から始まった変質は、ゆっくりだがすでに指先を越え、手首にまで達していた。石化の重みが、二本の剣を数倍の重力で地面へと引きずり下ろす。

 

――カラン。

 

乾いた音を立てて、智の手から愛剣がこぼれ落ちた。

 

「……っ」

 

「智様! お逃げください!」

 

後方でミラを介抱していたシルクの叫びが響く。

 

「来るな! そこで止まってろ!」

 

怒号に、女魔族は愉悦に身を震わせた。

 

「へぇ……仲間思いなのね。あと……いい顔してるじゃない。好きよ、そういう顔。結構タイプかも」

 

距離は、もう数メートル。彼女の手が届けば、すべてが終わる。

 

「その白髪の女、先に殺してあげる。目の前で愛する者が石像に変わる気分はどうかしら? そのあと――じっくり私と遊びましょうよ」

 

女魔族は動けないミラに向かって歩き出した。

 

その背中に、低い声が突き刺さした。

 

「うるせぇな……ちょっと待てよ」


 広がり続ける石化の白を無視して、にやりと笑った。

 

「ブス、ブース」

 

「……は?」

 

女魔族の足が止まった。信じられないものを見る目で、ゆっくりと振り返る。

 

「おれが相手してやるって言ってんだよ、この自分が一番強いと思い込んでる頭お花畑ブス!こっちを見るなブス!視聴料とるぞ!」

 

(シアのやつは、こんな感じで煽ってたな……いや、あいつはもっとエグかったか。まあいい、これくらいが丁度いいだろ)

 

空気が一瞬で凍りついた。

 

女魔族の金色の瞳が、殺意に満ちて、すうっと細くなる。

 

「……面白いわねぇ。その口、二度と開けないようにしてあげるわ」

 

次の瞬間。

 

視界から、女魔族の姿が消えた。

 

直後、腹部に爆発的な衝撃。

 

「ぐっ……はぁっ……!」

 

内臓を潰すような一撃。体は木の葉のように宙を舞い、地面を無様に転がった。石化した腕が地面を叩くたび、鈍い衝撃が脳を揺らす。骨が軋む音が、自分の体の中から聞こえた。

 

「いいわ。遊びは終わり。あなたはここで、ただの石塊として死になさい」

 

女魔族は冷酷に言い放つ。勝利を確信した、隙だらけの、だが圧倒的な強者の足取りで歩み寄る。

 

泥を吐き出し、ゆっくりと息を整えた。

 

石化した両腕に、もはや熱も、痛みも、感覚もない。

 

あるのは、ただの「重み」だけだ。

 

だが。

 

「……お前さ」

 

感覚のない腕を、無理やり持ち上げる。

 

キシキシと、石化した皮膚が鳴る。

 

「何、もう勝った気でいるんだ?」

 

女魔族の足が、凍りついたように止まった。

 

大上段。

 

石化した腕が、重い。まるで岩を持ち上げているようだ。

 

それでも。

 


「無刀流――奥義……!」


☆連日になりますが明日も投稿します☆


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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