表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/46

地雷は踏むもの

「ところでシア、魔法使わないのか?」

 

この一言で、俺は地雷を踏み抜いてしまった。

 

――

 

午後のひとときが過ぎ、四人は簡単な作戦会議に入った。

 

「新しい魔王軍の情報をまとめています」

 

ミラは資料を広げ、地図を見ながら慎重に説明を始める。

 

「お城はこの位置のはずなんですけど……あれ、地形が合わない……?」

 

「ミラ、地図逆じゃん」

 

「えっ……!」

 

ミラはカサカサと地図をめくり直し、額に小さな皺を寄せた。

 

「まずはこの辺りの敵拠点を片付けたいです。少し奥の村は既に壊滅したとの報告で……生き残りの村人曰く、死体の中に石になっているものがあったと」

 

皆が顔を見合わせる。

 

「石化……か。魔法なら厄介だな」

 

ミラは指を地図上の森の入口付近にある小屋に置いた。

 

「偵察によると、歩兵十数名と指揮官一人。小規模なので、まずは様子見で突入できます」

 

智は剣を肩にかけ、軽く地面を蹴ってみせた。

 

「なるほど。手頃な規模だな」

 

「物足りんな。この倍は欲しいもんだ。腕が鈍る」

 

シアは鼻で笑い、士気の高さをにじませた。

 

「まあ、いきなり大規模はあれだ。まずは四人の連携を重視しよう、ミラ。石化は昔出くわしたことがあるが……厄介なのは確かだ」

 

「……智様、やっぱり落ち着いてますね」

 

シルクはお茶を口に運びつつ、感心したように目を細めた。

 

「十五年、最低でも一人でやってたしな」

 

智の声は柔らかく、しかしどこか確信に満ちている。

 

ミラは小さく息を吐き、地図に視線を落とした。

 

(ただの"最弱"じゃない……)

 

「ほほう。じゃあ"最弱"ってのは噂だけか?」

 

智が軽く口にすると、ミラは舌打ちして小さく顔を赤らめた。

 

「認めたくはないですけど……あんな動き、私には無理です」

 

「いーや、弱いよ俺は。だから当てにするなよ?」

 

シアは無愛想に席に着いたが、頬のあたりの表情はわずかに和らいでいた。

 

「ところでシア、魔法使わないのか?」

 

エルフと言えば魔法や弓。こいつは大槍を巧みに操っていた。正直、あんな攻防一体の槍は見たことがなかった。

 

……あれ。空気が、少し凍る。

 

「あ、え……えーっと、弓は?」

 

「お前は喧嘩を売っているな! 勝負に勝ったからといって調子に乗るなっ! 魔法が暴発して悪いか! 弓で味方を誤射して何が悪い!」

 

(いや後半は最悪だろ)

 

シアは俺の左頬を殴打すると、そのまま部屋を出て行った。

 

俺は蹲る。

 

「う……歯が……折れたのでは……?」

 

「智様! 今すぐ回復を……!」

 

折れた歯が、じわりと元に戻っていく。

 

「え……?」

 

欠損を直せるなんて、十五年前の勇者でも滅多に使える者はいなかった。

 

「シルク、また回復の能力が上がったのね。頼もしいわ」

 

ミラは呑気に喜ぶが、俺はここまで大掛かりな回復を過去に見たことがなかった。

 

「また……智様が可愛がってくださったので……」

 

赤面しながら顔を押さえたシルクは、思わず爆弾発言を投下した。

 

「おい! お前はなんでいつも!」

 

慌ててシルクの口を覆う。

 

「……ほどほどにしてください、智さん」

 

ジト目でミラに窘められ、苦笑した。

 

ふと立ち上がり、シアの抜けた席に向かって小声で呟く。

 

「まったく……あの眼鏡エルフ、気が強すぎるな」

 

すると背後でシルクがにやりと笑った。

 

「智様、油断していると今度は魔法でやり返されますわよ?」

 

「……もうわかってるってうるさいな……」

 

智は苦笑いしながらも、少し楽しげに肩をすくめた。

 

「……で、作戦はどうします?」

 

シルクが指を地図に置き、少し考え込むように提案した。

 

「小屋の周囲に偵察を送り、歩兵を分散させてから指揮官を捕らえる。正面から突っ込むより、警戒されずに済みます」

 

「なるほど、奇襲ね」

 

短く頷き、剣の握りをもう一度確認する。

 

「まずは感覚を掴むだけで十分だ。無理に全員倒す必要はない」

 

こうして四人は、小規模前哨基地攻略の作戦を固めた。

 

部屋には、わずかに緊張感と期待が混じった静けさが漂っていた。

 

――シアの机の上には、誰かが置いたお茶が、まだ湯気を立てていた。


だが俺の頭の中では、石化という言葉だけがずっと引っかかっていた。

 

死体が石になる。

 

それは魔法による攻撃と、もっと厄介なのは…。

 

昔、魔王討伐の旅で一度だけ見た。石化した村人の顔は、苦痛や恐怖の表情のまま固まっていた。逃げようとした瞬間を、時間ごと切り取られたように。

 

(……あれと同じなら)

 

俺は剣の柄を、気づかないうちに握り直していた。

 

嫌な予感というより――経験から来る、確信に近い何かだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも「面白い」と感じていただけたら、

ブックマークや評価(★)を入れていただけると嬉しいです!


今後の更新の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ