地雷は踏むもの
「ところでシア、魔法使わないのか?」
この一言で、俺は地雷を踏み抜いてしまった。
――
午後のひとときが過ぎ、四人は簡単な作戦会議に入った。
「新しい魔王軍の情報をまとめています」
ミラは資料を広げ、地図を見ながら慎重に説明を始める。
「お城はこの位置のはずなんですけど……あれ、地形が合わない……?」
「ミラ、地図逆じゃん」
「えっ……!」
ミラはカサカサと地図をめくり直し、額に小さな皺を寄せた。
「まずはこの辺りの敵拠点を片付けたいです。少し奥の村は既に壊滅したとの報告で……生き残りの村人曰く、死体の中に石になっているものがあったと」
皆が顔を見合わせる。
「石化……か。魔法なら厄介だな」
ミラは指を地図上の森の入口付近にある小屋に置いた。
「偵察によると、歩兵十数名と指揮官一人。小規模なので、まずは様子見で突入できます」
智は剣を肩にかけ、軽く地面を蹴ってみせた。
「なるほど。手頃な規模だな」
「物足りんな。この倍は欲しいもんだ。腕が鈍る」
シアは鼻で笑い、士気の高さをにじませた。
「まあ、いきなり大規模はあれだ。まずは四人の連携を重視しよう、ミラ。石化は昔出くわしたことがあるが……厄介なのは確かだ」
「……智様、やっぱり落ち着いてますね」
シルクはお茶を口に運びつつ、感心したように目を細めた。
「十五年、最低でも一人でやってたしな」
智の声は柔らかく、しかしどこか確信に満ちている。
ミラは小さく息を吐き、地図に視線を落とした。
(ただの"最弱"じゃない……)
「ほほう。じゃあ"最弱"ってのは噂だけか?」
智が軽く口にすると、ミラは舌打ちして小さく顔を赤らめた。
「認めたくはないですけど……あんな動き、私には無理です」
「いーや、弱いよ俺は。だから当てにするなよ?」
シアは無愛想に席に着いたが、頬のあたりの表情はわずかに和らいでいた。
「ところでシア、魔法使わないのか?」
エルフと言えば魔法や弓。こいつは大槍を巧みに操っていた。正直、あんな攻防一体の槍は見たことがなかった。
……あれ。空気が、少し凍る。
「あ、え……えーっと、弓は?」
「お前は喧嘩を売っているな! 勝負に勝ったからといって調子に乗るなっ! 魔法が暴発して悪いか! 弓で味方を誤射して何が悪い!」
(いや後半は最悪だろ)
シアは俺の左頬を殴打すると、そのまま部屋を出て行った。
俺は蹲る。
「う……歯が……折れたのでは……?」
「智様! 今すぐ回復を……!」
折れた歯が、じわりと元に戻っていく。
「え……?」
欠損を直せるなんて、十五年前の勇者でも滅多に使える者はいなかった。
「シルク、また回復の能力が上がったのね。頼もしいわ」
ミラは呑気に喜ぶが、俺はここまで大掛かりな回復を過去に見たことがなかった。
「また……智様が可愛がってくださったので……」
赤面しながら顔を押さえたシルクは、思わず爆弾発言を投下した。
「おい! お前はなんでいつも!」
慌ててシルクの口を覆う。
「……ほどほどにしてください、智さん」
ジト目でミラに窘められ、苦笑した。
ふと立ち上がり、シアの抜けた席に向かって小声で呟く。
「まったく……あの眼鏡エルフ、気が強すぎるな」
すると背後でシルクがにやりと笑った。
「智様、油断していると今度は魔法でやり返されますわよ?」
「……もうわかってるってうるさいな……」
智は苦笑いしながらも、少し楽しげに肩をすくめた。
「……で、作戦はどうします?」
シルクが指を地図に置き、少し考え込むように提案した。
「小屋の周囲に偵察を送り、歩兵を分散させてから指揮官を捕らえる。正面から突っ込むより、警戒されずに済みます」
「なるほど、奇襲ね」
短く頷き、剣の握りをもう一度確認する。
「まずは感覚を掴むだけで十分だ。無理に全員倒す必要はない」
こうして四人は、小規模前哨基地攻略の作戦を固めた。
部屋には、わずかに緊張感と期待が混じった静けさが漂っていた。
――シアの机の上には、誰かが置いたお茶が、まだ湯気を立てていた。
だが俺の頭の中では、石化という言葉だけがずっと引っかかっていた。
死体が石になる。
それは魔法による攻撃と、もっと厄介なのは…。
昔、魔王討伐の旅で一度だけ見た。石化した村人の顔は、苦痛や恐怖の表情のまま固まっていた。逃げようとした瞬間を、時間ごと切り取られたように。
(……あれと同じなら)
俺は剣の柄を、気づかないうちに握り直していた。
嫌な予感というより――経験から来る、確信に近い何かだった。
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