第四十一話 「安否確認」
泣き腫らし、覚悟を決めた2人は、ナルディアとユグノスと向き合った。
「何をすれば良いのか、教えてくれるか」
その覚悟を受け取ったユグノスは、ナルディアへと視線を向ける。
——コクリ。
その返事を受け取ったユグノスは、静かにシグルドとティナへと視線を変えた。
「まずは、視線を僕たちに向けたまま、話を聞いて」
「視線を向けたまま?」
「そうだよ。聞いた瞬間に視界に入ってしまって、それが即ち答えになるから」
——目が入って……?
——!!
「そうだよ。星のカケラの指輪だ」
2人は、視線をユグノスたちから離さないまま、左手の中指にある指輪を確認する。
この、指輪で確認——
「その指輪は、一度はめれば外せないことは知っているね? 元は五つの星のカケラ。だけど、一つでも欠ければ、五等分された一部が黒く変色するようになっている。さすがに誰が欠けたかまでは、分からないけれど、それでも……」
——確実に、誰かが死んだことになる……のか。
「現在、指輪の所持者は、シグ、ティナ、エイシャリア、カルロス、シャルク、この5人で間違いないね?」
「……ああ」
「それじゃあ、覚悟が決まったら、指輪を確認して」
——その時、
シグルドの右手が、ギュッと握られる。
「……ティナ……」
「……シグ……一緒に確認しよう……」
「……ああ」
——覚悟を決め、同時に自身の指輪を確認する2人。
——だが、
五等分の指輪の一箇所が
黒く
変色していたのだ——
「——ッッッ」
「そん……な……」
誰かが、
死んだ——
茫然自失となり、膝から崩れ落ちるシグルド。
そんなシグルドを見ていられず、顔を背けるナルディア。
——だが
ティナは、違った。
「シグ、指輪って、本当にシャルク皇子は付けているの?」
「——え?」
「私、実は、指輪の一部が黒いのは元々知ってたんだよ。でもね、黒いのは最初からなんだ」
「——ど、どういう事なんだ?」
その言葉を受け、ユグノスが答えた。
「——そうか。元々は、君たち4人しか指輪を付けていなかった、という事だね」
「そうだよ。私、この指輪がお気に入りだから、毎日見てたんだよ。でも、一度も黒がなくなった事ってないんだよね」
元々? 指輪の一部は最初から黒かった、のか?
俺はまったく気付きもしなかった。装飾品にそこまで興味がなかったのもあるが、丁度指の間に隠れる位置が黒くなってるから、尚更気付けなかった……
だが確かに、俺たち4人だけが指輪を付けていたのなら、その道理は通るけど……
「いや、カルロが……シャルク皇子が付けてるのを見た……って……」
——————
『そう言えば、残りの指輪ってシャルク皇子にちゃんと渡してるのかな?』
『ああ、ちゃんと指輪付けてたぜ? ステータスは見てないけど』
——————
——確かにカルロは、そう言っていた。
だから、ティナには悪いが……希望的観測が過ぎるんじゃ……?
「それは、おかしな話だね。5人全員が指輪をはめなければ、指輪の輝きが一周することはないんだ」
「それなら、カルロの見間違いじゃないかな?」
確かに……ティナが毎日確認していたなら……帝都陥落の、温泉に行った時点ではシャルク皇子はまだ指輪を付けていないって……事か……
……なん、だよ……
「は、はは……なん……だよ……それ。あのバカ……ちゃんと確認しとけよな……」
……どれ……だけ……
……心配したと思ってんだよ……
「そうだよ、シグ。ウルがいるんだもん。護ってくれたのかもしれないね」
「そ、そうだよな!……エイシャリアだって、従者のカルロとバラバラに行動してるなんて……きっとない、よな」
……そうだよ! ……きっとそうだ!
……1つしか欠けがないなら、……きっとあの2人は無事で、……シャルク皇子はまだ指輪を付けてなかったんだ……!
……ウルもいるんだ。きっと、護ってくれてる……!
「違うよ、お兄ちゃん。襲撃は夜中だから。2人が一緒だった可能性は低い。あまり安易には……期待しないで」
——ナルディアの言葉が
淡い期待を打ち砕いた。
——ッッッ!!!
それは、シグルドと、ティナの顔から
表情を奪うほどの、大きな衝撃だった。
「……そ……そう……だよな」
……そう……だ
指輪は……全員が付けていて……
それで……誰かが……
もう……
「ごめんね。期待は……裏切られた時に、心を保てなくなるから……でもね、お兄ちゃん。希望は持って欲しい。この指輪が星のカケラなのは、心に希望を持って欲しいからなんだよ。……世界は、さ……優しくないから……悪い人も、悪意も……沢山あって……理不尽なことも、したくないことも、やらなくちゃいけないことが、必ず出てくると思う……でも、どれだけ心が擦り減っても……もがいて、足掻いて、立ち上がる勇気も、重い一歩を踏み出す為の強い心も、これから必要な時が来るから。だから、強く、希望を持って欲しいんだよ」
「——希望……?」
期待とは……違うのか……?
「ああ、そうだよ、シグ。希望は、願いだからね。心に強く刻んで」
「——希望は、願い……」
「「2人なら、叶うはずだから」」
——そう、言い残し、その後ナルディアたちは去っていった。
去り際の心配そうなナルディアを、ユグノスが支えながら。
まだ、呆然とそれを眺めていた2人だったが、
——シグルドたちの心には、ちゃんと強い願いが刻まれた。
——信じるという強い願いが。
——————
その後、見守っていたハンスと合流し、一行はティナも一緒にリオーネに帰ることになった。
「リオーネに、お父様が向かわれたそうだから、一緒に帰ろうかな」
「そっか。今回の帝都陥落の事でジュメイリッヒ公と何か話でもしてるのかな」
そう言ってリオーネに戻った2人が見たものは——
——————
『普段は見えない場所に掘ってるこの翼のタトゥーを、団員同士の挨拶の時には見せ合うんだよ』
——————
父親同士が
互いに翼のタトゥーを見せ合う
姿だった——
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