第四十話 「受け止める覚悟」
抱き合いながら、辛そうにシグルドを見つめていたナルディアは、耳元で囁いた。
「失ったかどうかは、まだ分からないよ」
「——えっ?」
その力強い言葉に、縋りたい気持ちは確かにある。
でも——
中途半端な優しさ程、心を抉る言葉もない。
大切な妹だからこそ、誰かにあたってしまいそうな、今の自分の前にはいて欲しくない。
「ありがとう。知れただけでも……良かった。もう、行くよ。ナディも、無理……しないで」
そう言って、ナルディアの顔も見ずによたよたと歩き出したシグルド。
「お兄ちゃん」
薄っぺらい慰めなんて——今は聞きたくない。
ナディを吐口になんてしたくないんだ。
「もしかしたら、残酷なことかも知れない。でも確実に安否確認は出来るよ」
——なん……だって?
シグルドは背を向けたまま歩みを止めた。
「もし、お兄ちゃんに難しいなら、ティナで確かめるけど」
「ナディ」
「どちらにしろ、確認はしなきゃいけないからね。早いか、遅いかの違いだけだから、お兄ちゃんでもティナでも——」
その言葉を聞いて
必死で耐えていたシグルドの感情は
堰を、切った——
勢いよく振り返り
ヅカヅカと大きな歩幅で
ナルディアとの距離を縮めていく。
「ナディッッッ!!! 俺がこんな状態なんだ!どうしてティナも同じだとは思えないんだ!? 残酷なことかもしれないなんて、ティナをもっと悲しませる様なこと、ナディでも許さないぞッッッ!!!」
感情任せに
ナルディアを捲し立てる。
「やっと……目が合った」
ようやく映った視界には、泣きそうな顔で小さく口角を上げた最愛の妹の姿だった。
「お兄ちゃんが、ティナにこれ以上傷付いて欲しくない気持ちは、あたしのお兄ちゃんに対しての気持ちだよ。……悩んでたんだ。でも……やっぱりお兄ちゃんは、自分が傷付く可能性を選んじゃうんだね」
「……ナ、ディ……」
——そう、か……
俺はナディの気持ちを……全く考えてやれてなかった……
ナディは、俺に……これ以上傷付いて欲しくなかったのか……
どういう確認かは別にして、その確認は必須事項で……俺を……優先させたかったのに……俺の気持ちを、考慮して……悩んで……くれてた、のか……
それなのに……俺は……ナディを吐口に……一番……やりたくなかったのに……
「……ごめん……ごめん……ナディ。……ナディの気も知らないで……ごめんな……」
護るなら、自分も含めて護れ——って言われていたのにな……
だけど——
「だけど、こればっかりは……譲れない。俺で、試してくれ」
「……そう、だね。やっぱり……お兄ちゃんだ」
悲しそうに微笑むナルディアに、シグルドも悲しい笑みで応える。
「ほんと、こういう所は2人共そっくりだよ」
——そんな2人を見守っていたユグノスが声を掛けた。
「ユーグ……」
「シグ、確実な安否確認という事は、100%、生きているか、死んでいるかの確認だ。本当にその覚悟はあるかい?」
——もしも、死んでいたら
俺は……耐えられるだろうか
この先二度と会えない親友たちを……
受け入れられるだろうか……
だけど——
「ああ。そんな事を、ティナにはさせられない」
覚悟のある瞳でユグノスを見つめる——
——その時
「それなら、一緒に確認しよう」
——ッッッ
突然の聞き慣れた声に驚き、勢いよく振り返ると
それは——
ゆっくりとこちらに歩いきていた
ティナだった——
「なん、で……」
「たぶんシグと同じ……かな。こんなに静かだと、声がよく通るね」
——そう、か……。そう、だよな……。
親友の安否がわからないなんて……居ても立っても居られなくて……当たり前だ……
周りの音に耳を傾けたシグルドは、嫌になるほどの静寂を実感する。
「確かに……静かだ……ここが……あの帝都だなんて……くッッッ……」
さっきの『祈り星』で、みんなが帰ったから……
そりゃあ、声も、通る、よな……
泣き腫らしたような
見たこともない酷い顔で
今にも倒れそうになりながらも
一歩一歩
足を進めるティナ。
「……そんな、ふらふらで……俺が確認する」
「ふらふらなのは、同じでしょ? 同じ……気持ちだよ……」
シグルドの顔を見つめ、ポロポロと涙が溢れる。
「……ティナ……」
そんな悲痛な表情のティナを抱き締め、共に、泣き崩れる2人。
「一緒に……受け止めようよ……」
「……ああ……分かった……俺たちはチームだ……あいつらの事は……俺たちで……一緒に……受け止めよう……」
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