第三十九話 「帝都陥落」
「いや、崩壊した帝都に派遣されたのは騎士団か? ギルドか? きちんと説明をしてくれ」
「……失礼致しました。第一発見者は、帝国騎士団の偵察部隊だそうです。たまたま一小隊で国外調査に向かっていた帰り、異変に気付き早急に帝都に向かったらしいのですが、着いた時には帝都は陥落し、帝国城は崩壊した後だったようです。早急に調査と救援が開始され、各国から騎士団が、ギルドからも手練れ含め大規模な人数が派遣されましたが、現状は変わっていないとの事。崩落が激しく……血と遺体が散乱する……酷い惨状だとの事です」
——そ、そんな、まさか……!
「い、遺体の身元はッ!? まだ、誰の身元も分からないのかッ!?」
「特に壊滅的被害だったのが帝国城らしく、まだ王侯貴族の方々の身元は誰一人確認がとれていないそうです。発見後、まだ6時間程しか経過しておりませんので、いずれ分かる事もありましょうが、今はお待ち頂く他、ございません」
な、なんで……嘘だろ……
あいつらと一緒にギルドに行ったのは、つい、先日の事だぞ……
一緒に笑い合った薔薇の庭園の中庭も
狩猟に行った上の階層の森への階段も
全てが無くなったっていうのか……
何より、何より、
カルロが
エイシャリアが
俺の仲間が
もう、いないのかも、知れない……?
シグルドはショックで膝を着いた。
来る魔王との戦いに勤しみ、闘志を燃やし誓いを立てたばかりである。
何より、心を通わせられる、唯一の友人達を失ったかもしれない現実を、受け入れる事は出来ない。
ただ、呆然と崩れ落ちる姿を見ていられず、ハンスはシグルドを抱え、ベッドに運んだ。
運ばれていることすらも理解出来ていない程、混乱するシグルドを、いたたまれず見護るしかない、ハンス。
そんな献身的な執事の考えにすら、気付けないシグルドは
ただ、混乱で止まってしまった思考を、必死に働かせようとしていた。
俺に、出来る事は、何も無いのか?
——考えろ。
血と遺体の山、崩壊が酷いとは、襲撃を受けたのか?
——考えろ。
それとも、何かの事故?
——考えろ。
魔法の襲撃なら、何かしらの属性の痕跡があるだろう。
いや、違う。解析をしたらすぐ分かるはずだ。
——考えろ。考えろ。
大爆発が起きた場合、帝国城への帰り道に被害もしくは、瓦礫等が飛んで来ていてもおかしくない。
——考えろ。
いや、激しい光などの報告も無いのなら、その線は薄いだろう。
——考えろ。
襲撃であった場合、王国騎士や近衛騎士の戦闘の痕跡があるはずだ。
——考えろ。
報告に上がらないのは、一気に魔法で殲滅されたのだろうか。
——考えろ。
いや、魔力遮断結界はどうした? 作動しなかったのか?
——考えろ。
もしくは、帝国城内の裏切り者の可能性!
そして、属性の解析が出来ないのなら四属性では無い可能性!
そして、階層の階段でなら、襲撃を仕掛け、忽然と姿を消せる!!
——これか!!
そして、何より怪しいのは
姿を消すことができる
白銀騎士団副団長ラーハルト!
翼のタトゥーの集団だッッッ!!!
「ハンス、支度を頼めるか……? 帝都へ向かう……」
「……帝都は封鎖されております。シグルド様が向かわれても……」
——そんな事は分かってる
それでも
「……!? シグルド様ッッッ!!」
——制止も聞かず、駆け出したシグルド。
当然、ハンスは追いかけようとするが
——腕を、掴まれた。
「行かせてあげて。……じっとなんて、していられないもの……」
「……そう、ですね。では、見守らせて頂きます。私は、専属護衛執事ですから」
「——ええ」
そう言って、音なく消えたハンスを、リンリンは見送った——
——————
「お願いだッッッ!!! 中に通してくれッッッ!!! もしかしたら、どこかにいるかもしれない!!」
——厳重に警備された帝都跡地。
城下街に賑わう人々も
美味しそうな食べ物の匂いも
笑い声も
花の香りのする優美な景色も
もう、どこにもありはしなかった——
目に映るものは、全て瓦礫と化していた。
いつもの甘い香りの代わりに
つんざくような血の匂いが
不安に拍車をかける——
辺りには、シグルドのように知人や親戚を案じた者が何人もいる。
その悲鳴にも似た叫び声だけが
荒れ果てた帝都の街に、音を、刻んでいる——
——その時
青く輝く星屑の光が、辺りに降り注いだ。
「君たちの痛みは、充分に伝わっているよ。だから今は、君たち自身をいたわってあげて。もう、おかえり」
——封鎖された帝都跡地から現れたユグノスが、皆の心を落ち着かせようと、星属性魔法『祈り星』を唱えた。
——しかし
「『クィックサラス』」
それに気付いたシグルドは、咄嗟に自身の周りを土のドームで囲い、星屑から自身を守った。
そして、ユグノスの隣にいたナルディアが異常な速度の土魔法を目撃する。
「もしかして、お兄ちゃん——?」
崩れる土のドームから出てきたシグルドの表情を瞳に映したナルディアは
一目散に駆け出した
「お兄ちゃん……」
今にも倒れそうなほど、思い詰めた表情で
生気の感じられない、フラフラな状態のシグルドを
そっと
抱き締める
「ナディ……」
ここに、ナルディアとユグノスがいる。
その時点で、調査はとうに終了している。
その上で、報告をされたのだ。
シグルドは
そう、理解した——
「……翼のタトゥーも、ラーハルトの透明の能力も、白階段も——全部、知ってるんだろ……?」
「……うん」
それは、一縷の望み
「……そっか……」
それでも——
可能性に
賭けたかった
「……俺は、また大切なものを失ったよ……」
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