第三十七話 「父の葛藤」
《クラーク視点》
先程までとは打って変わって満面の笑顔のシグルドを見て、心底安堵するクラーク。
——というのも
父である、自身の信用する鍛治師ではあるものの
シグルド自身の愛用品を、シグルド自身が信頼していない相手に強引に改造されるのは、さすがに酷い事をしてしまったと気付き
内心ではソワソワし、シグルドの顔色ばかり伺っていたのだ。
——そして、クラークの内面はこうである。
シグはアンナの息子なのだ。
私自身を立ててくれるが、我慢に我慢を重ね、怒りが爆発すると手に負えない性質が非常に似ている。
更には大切なモノを傷付けられたり、危険に晒す事を非常に嫌う面も。
地雷。そう、今回の事はまさに地雷なのだ。大切な相棒を傷付け、自身の意見はまったく聞かず改良を施されるなど、いくつの地雷を一度に踏み抜いているのか分からない程だ。
幸いまだ怒りの矛先を向けられ、私自身に怒りをぶちまけられた経験はないものの、アンナと同じ性質を持つ息子は、果たして怒りを鎮めるポイントもアンナと一緒なのかは分からないのだ。
未知数。そう、開けてはいけないパンドラの箱のように何が起きるか、対処の仕様すらも、また、未知数なのだ。
警報が頭に鳴り響く中、澄ました顔で、堂々とした態度で、シグルドの様子を伺っているクラーク。
——クラークの内面はまだ続く
先程の話に満足し、信頼をしてくれたシグだが、出来上がった銃を手に取るまでは分からない。
もし仮に気に入らなければ? それは父としての信用、信頼、威厳、今まで積み重ねて来たありとあらゆる物全てが、崩れ去り
『父さん?あー、いたねそんな人も』
などという興味のカケラすらも持たれない空気のような存在になってしまうだろう事は覚悟し——
「出来たぞー! ほら、受け取りなッ!」
「わぁー! ありがとうございます!! ドキドキしますね! 父様」
わぁーー
ドーキドーキしますねー
父さまァ
頭の中ではスローモーションでリピートされる。
緊張の一瞬
いや、一瞬では済まない可能性がある以上、気を抜ける場所などないのだ。
喜んだ後にこそ、落胆はあるのだから。
銃を手渡されたシグルドは、相棒の変化を確かめる為
グルグルと回転させ
隅から隅までチェックする。
そう、それは小姑のように。
「あまりデザインに変化はありませんね」
ジャブは撃たれた。
アンナのよくする攻撃だ。
やはりシグはアンナと同じ性質であると改めて確信する。
『こんなに待たせたのに変化なし?』
これが正しい翻訳なのだ。
「そりゃそーだ! 見た目は変わりゃしないねー! だが、驚くのはこれからだ! なんとこの銃には弾がいらないんだよ! 銃に魔力を込めるだけだ! 後は、チンチクリンのイメージした土魔法の弾が出るって寸法だよー! ほーら、目玉飛び出しちまうだろー!」
「——イメージした弾が、出る……?」
「そうさね! 手始めにあの岩に向かって、捕縛弾、撃ってみな!」
「捕縛弾——?」
「ああ、そうさね! 土魔法で相手を捕縛するイメージさ!」
「分かりました」
魔力を込め、放たれた銃弾は
前世でシグルドが目にしたことのある、ペイント弾に近い
粘土のような弾丸だった。
——しかし
広がった粘土は瞬時に凝固し
岩と一体になってしまったのだ!
「ほーッ! あんたのイメージした捕縛弾、良いじゃないか!」
「す、凄い!! イメージ通りです! 砂だと散弾銃みたいな殺傷能力が出てしまうし、粘土だとそれこそ、ただの汚すだけでしかない。でもこれは、着弾した粘土が凝固して岩になる事で捕縛が出来る! 土の性質が一度の弾丸で変化するなんて! 土属性の弾丸か! これ、使い方は無限に広がる! 素晴らしいです!!」
瞳を輝かせて、高揚感がどんどん高まる良い表情を浮かべるシグルド。
「そういう事だよ! チンチクリンのイメージ通りに、性質変化が可能な土魔法の弾丸だ! これは土魔法の、発動した時の性質のまま変化しないって、弱点を補う事が出来る優れもんさね! さぁ、後はチンチクリンの腕の見せ所だ! そいつの事、可愛がってやっておくれよ!」
「はいっ! ありがとうございます!!!」
カンカンカーンッ!
クラークの頭に試合終了のゴングが鳴り響く。
「勝った」
「え? なんですか? 父様? それより、なんとお礼を言って良いか。これは最強の相棒ですよっ! 本当にありがとうございます!」
満面の笑顔に心底安堵し、仲良く帰路に着くのであった。
もちろん、自分用に同じ性質の魔導弾の制作依頼を、陰でこっそり行う事も忘れない。
威厳も大事。
父親の気苦労は、耐える事を知らないのである。
——次の日
帝都である、花の国が陥落したという訃報が
世界を激震させる事になる。
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