第三十六話 「ドワーフとの出会い」
——ギルドからの帰国後、シグルドが人に銃を向けられない事を知ったクラークは、殺傷力のある銃弾でなければ良いとの結論に至る。
確かに——
もし、またダースが現れた時
魔法が効かない時
ビィクとの戦闘時、銃弾を放てていれば、少しの変化はあったかもしれない。
今のままでは、いざという時に何の意味も持たない事はシグルドが一番理解していた。
「この世には、魔導弾というものがある。お前に渡していた弾丸は、厳密には魔導弾ではない。魔力を込めれば自身の属性効果を発揮する魔弾だ」
——そう。
青の国で何度か使用していた土の弾丸は、魔導弾ではなかった。
属性付与に近い弾丸だったらしい。
魔導弾とは、クラークの愛用武器である魔導具に装填されている、魔力を込めた弾丸が、それである。
クラークは、土属性でありながら他の属性の魔導弾を使いこなす天才なのだ。
魔導弾は危険な為、シグルドは使用許可がおりていなかったのだが、遂にクラークから使用許可がおりるかもしれない。
「ですが、俺は無詠唱を使えることが分かってから、土の弾丸は使わなくなりました。本当は、父様の様に他の属性が使用可能な、魔導弾を持ちたいのですが、魔導具でないと装填自体が出来ないのではないですか?」
「気付いていないようだな。お前の手に持つ銃は魔導具だ。でなければ、サイズは変わりはしない。その銃の製作者に会いに行くぞ」
——そ、そうなのかッ!
俺の相棒は魔導具だったのか!
確かにドワーフ製だからといってサイズが変化する訳ないよな。ファンタジー世界の常識がいまいち分からない。
しかし、何年も愛用しているこの銃にこそ、答えがあったなんて。
これからも頼むぜ相棒ッ!
——シグルド達が向かった先は、橙の国の鉱山地帯のど真ん中にあるタオール地方。砂漠地帯であるリオーネ領からは北東に当たる。
トパーズ鉱山である為、色とりどりの装飾品に加工され、その全てをドワーフが一任している。
もちろんドワーフが制作するのは、装飾品だけではない。
騎士団やギルド、世界各地から依頼された武器や防具を作る超一流の鍛治師達が日夜腕をふるっているのだ!!
「ここがドワーフの街、キンコーンだ」
響きも良いし、なんて理にかなった名前だ! 素晴らしい!
だけど鉱業の街だけあって、色んな匂いのする所だな。街並みもリオーネとはまったく違う。
かなり奥に見えるのが鉱山の入り口だろうか?労働者達が汗水を垂らし、本日の採掘物を運んでいる。夜になれば、酒場が繁盛しそうな活気のある雰囲気だ。
「ドワーフの集落はこっちだ」
——クラークの後をついていくと、全ての家の煙突から煙の立ち昇る集落があった。
洞窟を好む者も多いそうで、これはほんの一部だそうだが、ざっと見渡しても100はありそうだ。
その中で、一際目立つ鮮やかなオレンジ色の屋根と扉をした工房の戸を叩くクラーク。
もちろん、『橙色が気に入ったから』との事である。
「久しいな! モジュカ、邪魔をするぞ」
「ん? クラークじゃないか! 元気にしてたかい? アタイは、そりゃあ、元気だよッ!」
中から出てきたのは、モジュカと呼ばれる、若い女性のドワーフだった。
くすんだ橙の髪に、鮮やかな橙の瞳をしている
ワンカラーだ!! 橙のワンカラー! 父さんめ、橙色が気に入ったのは、家じゃなく容姿だろうな!
しかし、ここまでのワンカラーなら、さぞ土属性に愛されてそうだ!
少し釣り上がった大きな橙の瞳に、低身長で、お尻を隠す程の橙の巻き髪をハーフアップにしている。
ワイルドに腕をまくっているが、かなりの美人だ。
「なーんだい、この子は? 人をジロジロ見てからに! チンチクリンはお断りだよ!」
——うッッッ、やってしまったッッ!
父様と談笑しているのを良いことに、観察し過ぎてしまった
俺の方が背が高いのに、チンチクリン呼ばわりは少し気にはなるが、こちらが無礼を働いたんだ。
甘んじて受け入れよう。
「しっ、失礼致しました。シグルド・アトリビュート・リオーネと申します。とても綺麗な橙のワンカラーでしたので、つい、魅入ってしまい申し訳ありません」
「リオーネ? なんだい! クラークの倅かい? 初めて会った時のあんたそっくりじゃないか! あっはっは! ってこたー、クラークみたく男前になるんだろうし、今から唾付けとくかい? だが悪いね! アタイは人妻さッ!」
「モジュカよ、倅をからかわないでくれ。シグはまだ子供だ」
「なーに言ってんだい、あんた達人族は産まれてから2、3年もすりゃ、すぐ大人になるだろ? あんたと初めて会ったのだって、ほんの2、3年前なのに、こーんなに大っきくなっちまって!」
「人族でもさすがに、そんな速さでは成長はしないさ。そして、モジュカよ、私達が初めて会ったのは、私が8つの頃だから、もう25年になる。君の見た目はまったく変わらないがね」
「なんだい、細かい男になっちまったもんだ! 25年なんて昨日みたいなもんだよ!」
長命種独特の考え方なんだろうな。
大人になれば一年があっという間だって聞くから、人間の中でも数年単位をドンブリ勘定する人は少なくない。
長命種ともなればそれが更に如実になっているだけなんだろうな。
「でー? なんだい? 倅自慢をする為にアタイに会いに来たってーんじゃあ、ないんだろー?」
クラークは事の経緯を詳しく説明してくれた。
モジュカが作ってくれた魔導具をシグルドに譲った事、銃の素質はあるが、人に向けられない事、格闘技や、土魔法が得意な事。
その上でシグルドに合った魔導弾を依頼したいと。
「ふーん。チンチクリンは、土魔法が得意なのかい。ふむ、それなら魔導弾じゃなく、魔導具を改良してやろうかね! 説明は後だ! ほら、よこしなッ!」
「そうか、それは面白い。それなら危険な魔導弾の使用もせずにすむ」
——え?
思う所は沢山ある。
魔導弾の使用許可かと思って期待してたんだ。
まぁ、それは残念だけど、百歩譲るとしても、父様がそう言うなら、信用するしかない、のか……?
ハンドガンを渡せと、差し伸べられる手に、どうしても身体が拒むシグルドは、なんとかモジュカに相棒を託した。
——————
いやいや、父様! いくら超腕利きのお姉さんでも、はいそうですか、とは行かないだろーよ!
父様の旧友で、更に相棒の制作者だからこそ、んー、ギリギリですよ! ええ! ギリギリ! 気に食わなかったら絶対元に戻してもらって、魔導弾作って貰うからなっ!
顔に出しているつもりはないが、作業を待っている間も、心の中の悪態は止まらない。
「シグよ、そんな顔をするものではない。モジュカは信用に足る人物だ。私の銃も魔導弾も全て彼女の制作した超一級品なのだよ。お前も手に取ってみれば分かる。彼女の人を見る目が確かだという事もな。きっと、お前だけの銃に生まれ変わるだろう」
——たしか母様が、父様は人を滅多に褒めないと言っていたっけ?
そんな父様がここまで褒めちぎるんだ、腕は本当に確かなんだろうな。
そうか、相棒は俺に合った俺だけの相棒に生まれ変わるのか。
「はい! 父様! 楽しみに待たせて頂きます!」
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