第三十二話 「帰還の道中」
ラーハルトが立ち去ったと言っても、どうやったのか、目に見えない状態なのだ。
奇襲をかけられる危険はまだある。
探知能力の優れた、アシュリー頼みでしかないこの状況。一行は、すぐさま合流することになった。
——そして
そこには、本体を解放された雷牛ウルがいた。
「——良かった! 無事解放されたんだな!」
先ほどまでとは打って変わって荒ぶる様子も、暴れる様子もない、穏やかな雷牛ウル。
角だけは折れたままなのが痛々しくもあるが。
『うむ。皆には世話をかけた。ワシも参戦するつもりであったが、そちらももう、終わったようだな』
——先程までの経緯を伝えると、皆の表情が曇る。
「……何が……どうなっているの……? 味方なら、殺さない……わよね……じゃあ、なぜ……消えるの……わたくしたちにも何の危害も加えず……立ち去った……?」
本当に分からない事だらけだ……
鑑定をされたことも、何かを確認したとしか思えないし。
だけど——
「考察は後にしよう。ここは危険だ。早く立ち去らないと」
いくらアシュリーの探知ならラーハルトの位置が分かると言っても、麻痺が残って上手く話せないのなら、戦闘になった場合、危険すぎる。
カルロの先読みも、見えないなら意味がないだろうし。
「でも、帰還のスクロールは落雷で燃えちゃったんだよね? まだあるの?」
「そうでした。私の持っていたスクロールも、あの冒険者たちに渡してしまいましたからね。皆さんの残りの魔力量も心配ですが、帰還のゲートまでは歩いて向かいましょう」
「——ん? 残りの魔力量?」
キョトンとした顔で聞き返すシグルドを見たエイシャリアが、あからさまに嫌そうな表情をする。
「黙りなさい、シグルド。どうせお前は、あれだけ魔法を連発していても、まだまだ魔力に余裕はあるんでしょうね」
「マジかよ……。もうこっちはギリギリだってのに」
2人にジト目を向けられるシグルド。
——ああ、そうか。
俺は魔力量が多いのは知ってたけど、だいたいこれくらいの戦いで消費し尽くしちゃうものなのか。
まぁ、リンリンの魔力量が元々少ないのは知ってたけど、カルロもエイシャリアもまだ子供だし仕方ないか。
——あれ? ティナは?
ティナを見ると、少し挙動不審に焦った顔をしていた。
「そう……ティナもまだまだ元気らしいわね。何かしら、ドッと疲れが……」
「エル……俺たちは、魔力量を増やす訓練をしないとな」
「……チッ……」
うわぁ……凄い睨まれた上に、舌打ちまでされたよ……
『まぁ、ワシが道中護衛をしてやろうて。安心するが良い。リンリンのマナ不足の解消の事もある。おヌシらにも教えておいてやる。マナを増やす為には、限界までマナを使うことじゃ』
「——え? そんな事をしたら魔力不足になって倒れるじゃない!?」
『さよう。それこそが器を広げる行為なのだ。本来それを、マナ不足と言う。器無くしてマナは保持出来ぬ。マナ不足という体調不良こそが、器を広げている時の不快感の正体じゃな』
「本当に、世間の認識を改めなければいけないわね」
「でも、これでシグにも負けないくらいの魔力量……あ、マナ量か、になれるぜ!」
『まぁ、マナ酔いと、マナ中毒には、気を付けながら慎重にな』
「——え?! 何か不穏な言葉が……」
『マナ酔いは、酩酊状態。マナ中毒は、ドラッグの薬漬け状態に似た症状じゃな。空のマナの状態で更にマナを酷使し続けるとマナ酔いに、そして、それが日常化すればマナ中毒になる。まぁ、ほどほどにせよ』
ふーん。マナ酔いは泥酔で、マナ中毒は、ヤク中みたいな事なのかな?
確かに、最近魔力を限界まで使い切れること自体なくなった様な
へー、そこまで俺のマナ量って増えてたんだな
——ん!?
「つまり、俺はこれ以上のマナ量になるのは難しいってことか」
「「必要ねーだろ(ないわ)!!!」」
カルロスとエイシャリアから、かなり強いツッコミを貰うシグルド。
まぁ、赤ん坊の頃から魔力が多かったのに、毎日ずっと枯渇するまで使い続けたからな。
——そうか、だから青の国でもまったく魔力切れとか起こさなかったんだな。あぁ、マナ切れか。
そう思ったら、ティナも聖女としてマナを酷使し続けたんだろうな。
チラリとティナを見ると、彼女はニコリと微笑んでくれた。
「ねぇ、そういえば、冒険者さんたちは、こんな高原に何のクエストを受けに来てたんだろうね? 中断しちゃったって事でしょ?」
「——クエスト?……ああ、確かに、俺たちは試験を受けに来てるけど、冒険者なんだし、普通はクエストで来てたってことだもんな」
——すると
「——そうか! ティナ様ナイスです! この時期の高原のクエストなら、十中八九、アツモリソウの採取ですわ!!」
リンリンが見るからにテンションを上げたので、皆が不思議がる。
「——アツモリソウ??」
「大人気すぎて、素材が枯渇しているのですよ! あなた方も欲しがっていたでしょう? あ、ほらあそこに群生地が!!」
リンリンの指差す方を見ると、緑の葉っぱの上に、首を垂れるように茎から伸びた花が咲き乱れていた。
花の採取クエストなのか?
俺たちが欲しがっていたものって、なんだ??
リンリンの意図が読み取れず、未だ頭の中に、?を飛ばす一行は、アツモリソウの群生地へと足を運んだ。
「あれ? でもこれ、まだ蕾じゃないのか?」
「よくみて下さい。花弁で蓋をしているだけですよ」
「——ホントだッ! シグ! これ、袋みたいになってるよ!!」
——ん? ——袋??
「「「「マジックバックッ!!!!」」」」
「ええ。アツモリソウの蜜がマジックバックの素材なのですよ。さぁ、皆さんで全て採取しますよ!!!」
——おお!
これで俺たちも、収納に困らなくなるぞ!!
先ほどまでの喧騒を忘れるかのように、少しの穏やかな時間を過ごせた一行は、
雷牛ウルの護衛もあり、無事に帰還ゲートまで辿り着くことが出来た。
「ウル、ありがとうな! これからは操られるんじゃねーぞ!」
ニカッと笑うカルロスに、ウルが告げる。
『世話になったのぉ。カルロスよ、おヌシにはその角をやろう。褒美じゃ』
「——え? て事は、小っこいウルが付いてきてくれるのか?」
『さよう。何かあればワシを頼るが良い。城に帰還しても危険があるのだろう?』
「……ありが……とう」
カルロは明るく振る舞ってはいたけど、相当不安だったんだろうな。
ビィクに命を狙われた2人は、これから危険が伴うかもしれない。
何より、ラーハルトの動向が分からない以上警戒を強めないといけない。
ウルが護衛をしてくれるなら、これほど心強い事はないからな。
俺も安心出来る。
「ウル、2人をよろしく頼むよ」
「私からも、お願いします」
シグルドの傍にはティナもおり、2人で頭を下げて懇願する。
『ふむ。おヌシらは、ほんに良いチームぞ。任せよ』
——そして、ゲートを潜り帰還したのだった。
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