第三十一話 「暗躍」
——その時
アシュリーとラーハルトを匿っていたドームが爆音と共に弾け飛んだのだ。
中からは青い光と共に、おびただしい量の水が溢れている。
「ッッッ!? あれは、水魔法……アシュリーに何かあったのか!?」
「あそこにはラーハルトもいるわ……やはり奴は……」
「まだ憶測でしかない。お前たちは雷牛を頼む! ここは俺が行く! リンリン一緒に来てくれ!」
「分かりました」
二手に分かれた一行は、カルロス、エイシャリア、ティナで雷牛の元に。
シグルドとリンリンで爆発のあったドームへと向かった。
——————
雷牛の元へ向かった一行。表情の優れないエイシャリアへ声をかける。
「大丈夫だよ、エイシャリア。リンリンさんもいる。シグを信じよう」
「そうだぜ。不安なのは俺も同じだ。ラーハルトがとうとう動き出したのかもしれないからな」
「……ええ」
ビィクにまで翼のタトゥーが掘られていたのだ。同じ翼のタトゥーのあるラーハルトが無関係だとは思えない。
そして、ビィクはエイシャリアとカルロスを狙って来た。
更には、先程のステータスの強制解析だ。
この爆発がアシュリーの魔法である以上、全てが一つの線に繋がってしまう。
『不安に思うのなら、さっさとワシを解放しろ。さすれば戦力になろうが?』
「た、助けてくれるのか!?」
『たわけが! ワシの敵でもあるのだから当然であろう』
腕を組み、顔を背けるウル。
なんとも頼もしい増援に安堵する一行。
「ふふっ、ウルは優しいね」
『ふんッ、恩知らずにはならぬよ』
だが、言葉とは裏腹に、怒りの籠る瞳で、今もなお放電を続ける、動けない雷牛の本体を見据える。
「しかし、どうやって近付けば良いんだ?」
「これでどうかしら?
土を司る精霊ラゴンよ。
橙煌めく全てを飲み込みし土壁を
我が魔力を糧に顕現せよ!
『クイックサラス』」
雷牛の左後ろ足だけを外に残し、それ以外を土のドームで包み込んだエイシャリア。
『ふむ、これなら土のドームに全身を覆われておると思って、いずれ諦めるやもな。まぁ、いずれだが』
突然暗闇に覆われた動けない雷牛は、落雷を周囲に雨のように降らし、更に身を守る様に、放電も放ち続ける。
「——うわッ! これじゃあ、いくら砂嵐があってもいつ落雷が直撃するか分からないぞッ!」
「まずいわね」
「女神よ、我が歌が届くなら
我が眼前の哀れな者の心鎮め賜え
この声は女神と共にあり
御使いたる聖女である我に力を!
『セイクリッドララバイ』」
ティナの歌と共に、天から光が差し、心を鎮めたのか、雷牛は大人しくなり、落雷や放電がおさまった。
「良かった! 心を鎮める神聖力なら、聖獣にも効果があったよ!」
「おお! これで調べられるな!」
歓喜する一行は、すぐさま、雷牛の左後ろ足の調査を開始する。
シグルドの推理通りなら、何かが突き刺さっているはずなのだ。
——すると
思いの外それはすぐに見つかった。
「——これは——針??」
——————
爆発したドームへと辿り着いたシグルドたちが目にしたのは、横たわるアシュリーだった。
「——ッッッ!? アシュリーッッッ!!?」
瓦礫と化したドームの残骸の中で、動けずにいるアシュリー。
「シ、シグ、ルド……様……」
「良かった! 無事か! すぐポーションを使う!!」
「——……ラーハルトがいない……」
「や、っぱり……見え、ない……のか」
「——どういう事だ……?」
「奴……は、今……あの男、の所、だよ」
——あの男……まさか!?
シグルドは、今来た道を振り返ると、
遠くで、
ビィクの首が、
——吹き飛んだ。
「——な……んだ……と!?」
その後——
どんどん細切れになるビィクの肉塊は、大量の血溜まりだけを残し、跡形もなく消えた——
「……なぜ……こんな事を……」
「分かりません……が、あれを、やったのがラーハルトだとしたら……敵を倒している……としか。……仮に……仲間だったとして……何かを隠すため……? ……いえ……仲間に……こんな非道なことは……」
死体は確かに情報の宝庫だって聞いたことはある……
だからこそ、事件が起きれば、司法解剖とかで遺体を調べて死因や手掛かりを探す。
でも、この世界は医療技術が発達してないから、そんなことをしても意味がないじゃないか……
「奴……が……逃げ、て……いく……」
異様な光景に言葉が出ない。
俯いたリンリンは、首を横に振った。
「深追いはしないで良いわ。アシュリー、何があったの? 奴は何故見えないの?」
——そうだ。
俺たちは、ビィクの元から一直線にここまで来た。
つまり、俺たちはラーハルトとすれ違ったことになる。
それなのに、まったく見えなかった。
「ボク、の……探知……なら……場所、が……分かっ、た……けど……突然……姿、が……見えなく……なった」
「つまり、何かの花紋……。それなら、さっきの強制解析は、やはりラーハルトが……」
「……ふざけるなよ。……目的が達成されたから、姿を消したって事か……?」
奴は……何がしたかったんだ……
やはり、敵なのか……?
なんで、情報を入手する手段のない俺たちを前に、遺体を細切れにする必要がある……
——————
とある貴族の邸の一室に、真っ直ぐに伸びる長い黒髪の女がいた。
女は、片目を押さえ歓喜に震えていた。
「——……視える。視えるわ。お手柄よ」
目にした光景に喜びを抑えられない女は、
「陸兄ちゃん……やっぱり戻って来てたんだね。あぁ、早く魔王様に戻ってね」
前世のシグルドの名を、
呟いたのだった。
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