第二十五話 「疑心と信用」
『ああ、ワシは、雷牛のウルだ。助けたついでに頼みも聞いてくれ。どうやらワシは操られておる』
「操られてるって、お前はあいつの仲間じゃないのか?」
……こいつの言ってる事が本当だとは限らない。
操られていたから暴れていたなんて
本当に信用出来るのか?
『たわけが!ワシは聖獣ぞ?魔の者と馴れ合う訳がなかろうが。まぁ、変わり者がいない訳ではないが、な』
聖獣?ってことはルフと同じって事か?
いや、信じるに値するのかはまだ分からない。
しかし、なんだ?妙に歯切れが悪いな。
「やっぱり聖獣だったんだね!神聖力がほとんど効いてなかったから、もしかしたらって思ってたんだよ」
確かに、同じ神聖力を使う母様が神聖力は、魔獣なんかには良く効くけど、神官や聖なる者には効きにくいって話してたな。
聖なる獣だからこそ、ティナの最上級の神聖力があまり効かなかったのか。
少し信憑性が出ては来たが。
「それで?ウルだったかしら?操られてるとはどういうことなの?」
『ああ、あれはな、いつもの様に高原の草を食べていたワシは、たまには肉を食らうかとダンジョンから出て、雪の中、兎を追い回していた時だった』
「え?牛なのに、肉食なの?」
「いや、それより、聖獣は魔獣を食べるのか……?それなら聖獣も奇行種……?」
『たわけが!魔獣なんぞ食す訳がなかろうが!ただの動物の兎ぞ!あと、ワシら聖獣は雑食ぞ』
ふむ。確かにルフは雑食だな。でも、ルフは狼だからな。犬みたいになんでも食べてるのが当たり前に思ってたけど、こいつは牛だしな。
それにしても、兎を追い回してる聖獣は誰かに見つかったら恐怖でしかないけどね。
これは言わないでおこう。
——そんなシグルドを睨み付ける聖獣ウル。
『貴様、シグルドと言ったか。貴様ワシに良からぬことを考えたのう?顔に出ておるぞ』
う、また顔に出ていたのか。
「ああ。こいつは、よく悪巧みをするし、顔にもよく出るけれど、悪い奴ではないから安心なさい」
「ああ、シグは人のために全力を尽くせる頼りになる奴だぜ」
「ふふ、みんなちゃんと分かってくれてて嬉しいね!シグ」
ボンッ、と茹で蛸のように顔が赤くなるシグルド。
なんだよさっきからよー!
調子狂うだろうがー!
まぁ、こんな人間臭い獣なんて、ルフみたいな聖獣しかあり得ないか。
そんなシグルドの様子をみていた聖獣ウルは、表情を和らげた。
『フッ。その様だな。お主らのこと、気に入ったぞ』
「まぁ、何かしら偉そうに!助けを乞うている身でとんだ上からね!」
フンッ、と腕を組み顔を背けるエイシャリア。
「ウル、これがエルだからな!口は悪いけど、面倒見の良い奴だから」
そんな言動に、ニカッと笑うカルロス。
「もう!助けて欲しいならさっさと原因を言いなさいよね!」
「ほらな!」
『フッ、その様だ。では話を戻そう。ワシが兎を捉えた時だ、何かがチクリと刺さった感覚がしてな。そこから今までの記憶が飛んでおる』
「その時に操られたのか。薬でも盛られたのか。チクリってのはどの場所かは分かるのか?」
さっきまでの疑心は、もうないかの様に、真剣な顔付きになるシグルドを横目に、笑みをこぼすティナ。
「薬を盛られたなら、場所なんて関係ないんじゃないのか?」
「いや、洗脳されているだけなら色々考えられるが、チクリという感覚があった以上可能性はかなり絞られる。チクリという感覚が、眠らされた、あるいはそれ自体が洗脳の薬。前者の場合は、眠った後に洗脳をしたことになる」
「そうだよ、だからこそチクリって感覚があった場所は関係ないんじゃないの?」
「いいえ、シグルドが言っているのは薬ではない可能性。そうよね?」
「そうだ。そのチクリという感覚は十中八九何かを刺されたということ。薬でないのなら、それ自体が洗脳の役割を果たしている可能性がある」
「それって、何かがまだ刺さってるって事か?」
「ああ、それか何かを埋め込まれたか。雪兎を狩っていた様だから、冬から記憶がないんだろう。今は春だ。その間一度も、薬が切れて意識が戻っていないとすると、薬での洗脳の可能性は極めて低い。そして、眠らされた後の洗脳も、暴れている雷牛を見るに定期的な洗脳がそう上手くいくとも思えない。刺さったままか、埋め込まれた。これが有力だろうな」
『そうか、ダンジョン内は季節が変わらぬからな。もう季節を跨いでおったのか。ワシはそんなに長い間洗脳されておったのだな』
「下手をすると年単位だけどな」
そう、冬がどの年の冬かは定かではない。
『ぐ、ぬぬぬ』
それに気付いたウルは、より怒りをあらわにする。
「落ち着け、ウル。薬じゃないならその方が良い。解毒することなんて俺たちには出来ないからな。それにおそらく死角から刺してるだろうから、それで済むなら対応は比較的簡単かもしれない」
「そうね。油断を突かれたのなら、死角からの攻撃が妥当だわ」
少し落ち着いたウルは、どんどん推理していくシグルドに感嘆の意を唱える。
『ほう。なかなかに聡いな。さよう、場所は左後ろ足だ』
「それって、かなり毛が生えてる場所じゃないの?何かが刺さってても分からないし、何より埋め込まれてたら——」
そうだ——
最悪切断しないとならないかもしれない。
ルフでも欠損は回復しないと言っていたんだ。
だからこそ、この角を切断した事でウルは分離出来たと言っていた。
負傷しても勝手に治っていく聖獣でも——
『抉り取れば良かろう。幸い内腿の辺りだ。肉はある。カルロス、貴様目が良いだろう?我を連れて行け。指示しよう』
あっさり言いやがった。
いくら欠損じゃないにしても、抉れた肉の再生なんて痛みと時間がかかるだろうに。
「カルロが背後に回るなら、囮役は俺がやる。援護は任せるよ」
「シグ……大丈夫なの?……落雷に対応出来る?」
「ああ、秘策がある。せっかくカルロとエイシャリアが場を整えてくれたんだ、有効活用させて貰うさ」
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