第二十一話 「隠し球」
「『クィック、サラス』」
少し、麻痺が回復してきた。
自身の呂律が先ほどより回るのを確認するシグルド。
クィックサラスとは、対象を土のドームへと隔離する土属性の魔法。
更には土を運び1ヶ所に同時に閉じ込める事も可能な、極めて自由度の高い万能な技である。
青の国でセフスパイダー100匹以上に同時に行う事の出来たシグルドにとっては4人をバラバラのドームに移動させる事などお手のもの。
「まったく……こん、な事、が……出来るのは、シグルド、くらいよ」
クィックサラスと同時に放たれたエイシャリアの呟きは
歪に蠢く地面の音と、豪雨によってかき消されたが。
蠢く地面に警戒するのは雷牛。
瞬時に4つの隆起する新たな丘目掛けて落雷を放つ。
だが、当然水たまりと化している程の雨の中では丘への電撃は流れて消えていく。
「グルルルルルルルル」
苛立ちが募る雷牛の喉が鳴ったと同時に飛び出したのは、カルロス。
そして、ドームに雷牛を目視出来る穴を開けた3人。
雷牛を目視と同時に、幾重もの土の棘が飛び交った。
「土を、司る……精霊、ラゴンよ。
橙に、艶めく硬く鋭利な、岩石を
我が魔力を、糧に、顕現せよ!
『ニードル、サラス』」
「『ニードル、サラス』」
エイシャリアの詠唱に合わせ、シグルドの無詠唱のニードルサラスも展開される。
——バリバリバリバリッッッ
雷牛は無数の土の棘が展開されるや否や、全身を奮い立たせ
自身の周りを包む、電撃の塊を纏ったのだ!
その電撃の凄まじさは、全ての土の棘が触れた瞬間に瓦解する程の威力を纏っている。
「……なんて、威力、だ」
「これなら、どうかな?
女神よ、我が歌が、届くなら
我が眼前の敵を、打ち滅ぼす
聖なる幾万の矢を、与え賜え
我が身は、女神の御使い
聖女である我が歌が届く限り、止まぬ雨の如き断罪を!
『ヘブンズ・ジャッジメント・アロー』」
曇天の空が煌々と光り輝き
白銀に煌めく幾万の矢が降り注ぐ
「これが、ティナの最上級の、神聖力」
今までティナは、攻撃には使わなかったがもちろん神聖力での攻撃も可能。
その中でも、最上級の神聖力。
雨粒の様に隙間なく、永遠に降り注ぐ高速の矢からは
雷牛であっても逃げる事は不可能だ。
——しかし
纏った雷を放電させた雷牛は
無数の傷はあるものの全てが軽症に見える。
「なッ……なんで効かないんだ」
「ま……さか、雷牛は……聖獣なのッ!?」
神聖力の効果が薄い。
それは、聖なる職に就いた神官たち。
もしくは、聖獣のような聖なる者にだけ。
神聖力は邪悪なものに強い効果を発揮する。だからこそ、同じ聖なる存在には効果が薄いのだ。
しかし、それぞれ距離の離れた、隔離されたドームではティナの声は届かない。
——そして、相手が聖獣であるのなら、ルフの様に、どんどん傷は癒えていく。
「でも、効かない訳じゃ、ない!時間稼ぎにだって、なるんだからッッッ!!!」
ティナへと照準を合わせ、突進の構えを見せる雷牛。
「女神よ、我が歌が、届くなら
我が敵から我が身を護る
聖なる光を、与え賜え
我が身は、女神の御使い
聖女である、我が歌が届く限り続く、強固なる盾を!
『セイクリッド、プロテクション』」
「『プロテクト、サラス』」
同時に展開された、強固たる盾。
その二枚の盾は、雷を纏った雷牛の突進により
脆くも
破られた。
「ティナ!!!」
——だが
雷牛の突進はティナのいる土の丘から、左に逸れたのだ!!
「……もしかして、エイシャリア……なの?」
「……ふん、触れていなくても動かす事は、出来るわ」
なんだよッ
みんな隠し球ばっかり出しやがって!
ティナの最上級の神聖力も、エイシャリアの触れてなくても対象を動かせる念動力も!
聞いてないぞッ!!
しかし、肝が冷えたのは事実だ。あのまま何も出来なかったら、ティナは致命傷を負っていたかもしれない。
ん?そうか!なんて俺はバカなんだ!
エイシャリアの念動力がなくても、俺が対応出来るじゃないか!
確実に当たる筈だった突進が、左に逸らされた奇妙な体感に違和感を覚えた雷牛は
すかさず左の前足を軸に反転させ、再度、超近距離からの突進を開始する!
「なんて奴なの、ノーモーションでまた!?間に、合わない」
エイシャリアの念動力も魔法である以上は技後硬直ある。つまりは、発動までに少しの時間も有する。
連続での行使は不可能だ。
——が
「『クィック、サラス』」
シグルドは、無詠唱で、ノーモーションでの魔法を行使することが出来る。
「土のドームに、いるんだ。ティナを移動させれば、良いだけだな」
本人はさも当たり前にやってのけるのだが。
「まったく、シグのチートっぷりには驚かされるぜ!
風を司る精霊アングよ。
緑艶めく神の怒りの息吹たる
鋭利なる刃を以て
全てを斬り伏せる真空を
我が魔力を糧に我が敵を細断せよ!
『ディバイン・テンペスト・ブレード』」
蠢く丘に更に躱された雷牛は、技後硬直さながら、ブレーキをかけたその時
一瞬の硬直状態を突いたカルロスの風の最上級魔法が炸裂する!
無数の真空波はかまいたちのように、全身を切り刻み
雷牛の片側の角を
根元から
切り落とした!
「グアアアアアアアアアアア」
鮮血と同時に雄叫びを上げる雷牛。
角が切り落とされると同時に、纏っていた放電が弾け飛び
滴る流血と共に首を大きく振り回している。
「へへッ!この角で雷を正確に操作してたのは分かってたからな!」
切り落とされた雷牛の角を拾ったカルロス。
——その時
「『指突』」
——ゾクッッッ
「……魔力の流れが、消えた?」
——その瞬間
ティナのドームは
前触れもなく
破壊されたのだ!
「なッッッ!何が起こった!!?」
「まさか、雷牛がやられるなんてね。おちおち見てられなくなって出てきたよ」
そこにいたのは、全身黒ずくめのフードを被った男。
「『指突』」
しかし、姿を捉えると同時に
エイシャリアのドームも崩されてしまったのだ。
なん、だ!?
見えない、いや、指を弾いた……のか?
まただ、魔力の流れが消えた……
いや、そんなはずはない。
土魔法で作ったドームが、外部からの干渉もなく崩れるなんて
副官二人がいる最初のドームを覗けば
残るはここだけ——
「驚くのは仕方ない。でもね、それは油断だよね」
来るッッッ!!!
そう思ったと同時に
目の前に人影が現れた!
——キィィィィィィン
高くなり響く金属音と
水たまりと化した足場から弾ける水音
「5分。よく持ち堪えてくれました」
リンリンが助けてくれたのだと理解出来たのは、声を認識出来た後だった。
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