第十八話 「撤退」
ポーションが効かない!?
しかも、原因も分からないだと!?
そんなの、どう対処すれば良いんだ!?
「ポーションが効かない可能性は確かに恐怖でしかありません。だからこそ如何に危機的状況にならないのか。それが大事なのですよ」
青ざめる一行に、リンリンは諭す様に言葉を紡ぐ。
「チームワークは万全だったのか。準備は?熟練度は?あなた方は本当に本来の力を発揮出来ましたか?」
そうか。リンリンが念入りに気功を、身体強化を教えてくれたのはその為なんだな。
一撃でも受ければ危険なリーンレパードの爪の斬撃波も、もしかしたら身体強化なしだと腕が吹き飛んでいたのかもしれない。
だが、身体強化の熟練度が高ければ、もっと軽傷だったかもしれない。
チームワークが万全なら、そもそも怪我をしなかったかもしれない。
そもそも、行き当たりばったりで自分たちの実力を測る為だけにここまで来た準備不足。
そして、ポーションの事も、マジックバックの事も、スクロールすら何も知らない知識不足。
まだまだ、俺たちは弱いな。
本来ならリンリンは、エイシャリアが致命傷になる前に対処してくれそうな気がする。
だが、一対一でリーンに挑める程の強さが俺たちには足りない。
それを分からせる為にも、敢えて危険を教えてくれたんだろうな。
Bランクダンジョンは
まだ早いと——
「今回のことで俺たちの実力はもう分かったと思う。チームとしての実力ならギリギリBランクだけど、個々の実力ならCランクがやっとだろう。焦って実力を測って命を落とすより、この指輪の効果もあるんだ。またすぐに挑めば良いと俺は思う」
「そうね。奇行種がまた現れた時にわたくし達だけでこの階層の対応が出来ないことも明白だわ」
「そうだね。それぞれまだ実力を発揮できてないとは思うけど、無理にこの階層をクリアしてBランクの判定を貰えても、結局自分たちの首を絞めてたら何の意味もないもんね」
「あぁ。せめて俺が完璧に先読みが出来て、更にみんなに伝えられる。これがこのエリアでの最低条件だな」
「頼りにしてるよカルロ。だけどカルロだけに頼ってちゃいけない。このチームでもっと戦闘を重ねないとな。その時々に何を優先するのかの思考を互いに分かっていないと今回みたいな大事に繋がる。もっと、チームワークを強化しないとな」
自分たちの実力不足を実感し、現実を知った一行は、それぞれを見つめ、深く頷きあう。
「よろしい。チームとして、個々として、それぞれの力量が分かったのなら、ここで試験は終了でよろしいですね?」
「「「「はい」」」」
確かに実力不足だった——
しかし、自身の危うさを素直に認められるのもまた力量。
試験官の3人は、互いに頷きあう。
「承りました。良き判断ですな。正直エリアボスは一つランクが高いので、あなた方が挑まれましても、私共がお止めしていたことでしょう」
「そうだね。正直まだCランクかな。まぁ、Cランクの単独撃破は余裕そうなんだけどね。エリアボスが1つ上のランクなのは、奇行種にも対応出来る様に、エリアボスを余裕で倒して欲しいってことだから」
確かにそうだ。俺たちはそれぞれ単独でCランクの魔獣は余裕で討伐出来る。
でもCランクのエリアボスはBランクだった。なんとか無傷で倒したが、それは1匹だったからだ。
今回リーンレパードは2匹だった。
たかが2匹で隊列が崩れる程、俺たちは弱い。
確かに、世間ではリーンが2匹なんて、正気の沙汰じゃない。
だが、Bランクのエリアなんだ。
リーンが10匹で群れを成していても不思議じゃない。
Bランク冒険者はリーンを単独で撃破する一握りの冒険者なんだと改めて実感する。
「では、あなた方はスクロールでお戻りください。私は先程の冒険者たちが襲われた魔獣を確認して来ます」
「それなら俺たちも一緒に行っても良いかな?まだまだ余力はある」
「そうだね、シグ!もしかすると、負傷者がまだいる可能性だってあるし!」
「そうですな。何より、もう試験は終わったことです。率先しての戦闘は私たちが行いましょう」
——その後、少ししぶったリンリンだったが、なんとか試験官3人の了承を得た一行は、ここまでの道のりで通って来なかった道を進む。
「こちらは、開けた高原でしたかな」
高原?アルプスの少女ハ◯ジの暮らすあの標高の高い山の様に空が近いとか?
まさか、ダンジョン内で——
いや、ここはファンタジー世界だしな。何が起きても不思議じゃ——
「何の音だ……?」
——ズガァァァァン
定期的な光と共に止む事のない無数のけたたましい爆発音。
まだ音は遠いが、この距離でも重厚感を感じる程圧力を感じる。
洞窟を出ると、そこは予想通りの高原が広がっていた。
しかし、大雨が降っており空は曇天
——そして、夥しい量の落雷を浴びる
牛がいた。
ただし、それは牧場で見るような穏やかな姿ではなかった。
見るからに荒れ狂う闘牛が
落雷の降り頻る中、暴れ回っているのだ。
「引き返しますよ」
3人の試験官はすぐさま異常事態と判断し帰還を宣言する。
リンリンの顔色までもが危機的状況なのだと物語っている。
「ッッッみんなッッッ!飛べッッッ!!!」
バリッッッ
光と共にけたたましい爆発音が鳴り響く。
カルロスの絶叫にも似た奇声に反応が出来たのは仲間の4人だけ。
『命が惜しければ、カルロからのアドバイスだけは死んでも護りなさい。例えどんなに悪手に思えてもね』
このエイシャリアの言葉が無ければ、全滅していただろう。
——いや、Sランク3人を失った時点で
全滅は回避できないかもしれないが。
音よりも速いそれは、頭上から降り注ぐ訳でもなく
ギリギリ目視出来る程離れた距離から
激しい雨で飛沫を弾く、濡れた地面を伝い攻撃してきたのだ。
目視と同時にトラップ魔法を仕掛けてきやがった。
こいつ、俺がこれまでこのダンジョンでやってきた戦法に似てる。
初見殺しか、やられるとこんなにも嫌な——
ヤバイッッッ!!!
って事は、次は!!!
「間髪入れずに追撃だーーーッッッ!!!」
そう叫びながらカルロが全員を体当たりで押し倒してくれた事で
なんとか、頭上に降る雷は回避された。
「『クィックサラス』」
カルロスの行動を見ながら、土のドームを作る為無詠唱でクィックサラスを発動したシグルドは
コマ送りの様な断片の映像がスロー再生される中、微かな思考を続ける。
運が良かったのはカルロの体当たりの際にこぼれ落ちた短剣が避雷針代わりになってくれた事だろうか
だが、直撃を避けられただけだ
頭は辛うじて回るが身体は動けない
動けるのはカルロだけ……か?
ヤバ……イ——
なんとか土魔法のドームで包み込み、身を隠す事に成功したがシグルドはそのまま意識を手放してしまった。
お読みいただきありがとうございます!
面白いと思ったら、ブックマークやお気に入り登録をしていただけると嬉しいです。
評価★も励みになります!続きもぜひ読んでくださいね。
この物語は日・水・金の19時台に更新します。
次回もお読み頂けると嬉しいです!




