第十五話 「奇行種」
「私たち試験官は揃いも揃って近接ばかりの様なので、さっさと姿を晒して貰いますかな。丁度この敵は私と同じ系統の技を使う様ですし牽制しておきましょうか」
「斬空閃」
岩陰に剣撃を飛ばしたラーハルト。
空を切った筈が、そのまま一直線に斬撃が飛んでいく。
確かに、リーンレパードの爪の斬撃波に似ている。
けど、魔獣ならまだ理解が出来るけど、まさか人が放つ剣撃が飛ぶなんてな。
『剣豪王』は伊達じゃないみたいだな。
砂埃と共に砕けた岩陰から現れたのは、顔を血で染めたリーンレパード。
——だが、どこか様子がおかしい。
土埃が晴れた姿は頭が2つになり、足も8つの異形の姿だった。
「な、何が起きているの……!?」
「あれは、奇行種でも倍化された姿ですね。奴が共喰いをしたからでしょう」
「リーンスパイダーも共喰いで頭が6つもある異形の姿だったけど関係があるのか?」
「蜘蛛は元々共喰いをするのでリーンスパイダーが異形である事は当然なのですが、通常魔獣は共喰いをしないのですよ。だからこそ倍化された個体はどれ程の脅威かの判別が困難となります。まぁ、それが分かったのも、青の国戦闘の後に判明された事ですがね」
そうか。
確かに青の国で俺が戦ったセフスパイダーが共喰いをしてナサンスパイダーになった時、リンリンは驚いていたもんな。
青の国では蜘蛛の花紋使いが蜘蛛の魔獣を操っていたからこそ、共喰いの目撃や討伐件数により、生態がある程度分かったのか。
結論としては、蜘蛛は元々共喰いをするが、魔獣についてはまだ分かってない事が多い、と。
そして、元々共喰いをする蜘蛛だからこそ、進化すれば倍化したリーンスパイダーになる。
だからこそ、リーンスパイダーはあの異形こそが一般的で、その脅威事態は元々知られていたという事だな。
リーン自体が、凄腕冒険者に要請し、軍隊で国を挙げて討伐隊が組まれる程の脅威だと聞いている。
という事は、リーンスパイダーはそのリーンの中でも更に脅威だったという事なんだろう。
「蜘蛛たちは共喰いで脱皮を繰り返して、ランクを上げていたけど、こいつも既にBランクじゃないって事だよな?」
「ええ。元々Bランクからの共喰いですから、AランクかSランクかはまだ分かりませんが」
そうだ。FランクのセフスパイダーからDランクのナサンスパイダーに進化した。更にそこからBランクに。
共喰いで2ランクも上がり続けていたんだ。このリーンレパードのランクもまた2ランク上がっている可能性が高いのか。
「まぁ、蜘蛛と違い、何故共喰いをしない魔獣が奇行種になるのか。そこが判明すれば、対処のしようがあるんですがね」
奇行種の発生原因か、確かに不思議でならない。
何より、あいつは異常だった。
仲間のリーンスパイダーが切り刻まれているのに、ただずっと傍観していた。
そして、仲間がやられたと同時に突然駆け出し、カルロをかわして仲間を喰った。
魔獣は本能で動く筈だ。
仲間を守ることもしない、ましてや仲間がやられる程の強敵だ、命の危険を感じたなら逃げるのが一般的だろう。
そんな相手を無視して、共喰いを選んだなんて
奇行種か……確かに異常でしかない。
——シグルドが思考を巡らせている間にも、リーンレパードへどんどん斬空閃を繰り出し続けるラーハルト。
「これは良い。本来なら1度の斬空閃で砂埃が舞い、敵の位置を視認し辛くなるのが難点ですが、アシュリーさんのお陰で、見えなくとも感知して頂ける。これで何度でも斬空閃を放てますな」
飛ぶ斬撃が次々と砂煙へ吸い込まれ、辺りには轟音だけが響き渡る。
舞い上がる砂埃は濃くなるばかりで、リーンレパードは姿は見せない。
「姿を晒さないのなら、まだまだ続けますぞ」
なおも斬空閃を放とうとした
——その時だった。
キィンッ!
一度鳴り響いた甲高い衝突音
次の瞬間。
キィン! キィン! キィン! キィンッ!
衝突音は無数に連なり、まるで砂煙の奥で激しい斬り結びが始まったかのように響き渡る。
——そして
砂埃を突き破り、10数本の爪の斬撃波が一斉に襲い掛かってきた。
「なんと!?」
迫り来る斬撃を一つ一つ高速の剣技でいなしながら、リーンレパードへの警戒も忘れない。
なんとかギリギリ全ての斬撃を受け流したラーハルト。
「皆様私の後ろに回って下さい。流れ弾に当たってしまいますぞ」
一振りで放たれる爪の斬撃波は4本。
前足が4本になったリーンレパードが支えとなる1本の前足を除いた3本の前足で何度も何度も爪の斬撃波を繰り出しているのだろう。
12本の爪の斬撃波に対し、1本の斬撃しか飛ばせない斬空閃。
明らかに上位互換の技に対して、苦戦を強いられる様に見えた。
——が
「甘い甘い。所詮は爪。全ての角度が変わるのならいざ知らず、こんなものは脅威でも何でもない」
爪の斬撃波は一度に4本並んだ斬撃を飛ばしている。
それに対し、直角に斬空閃を打ち込み、4本を1度に対処するラーハルト。
「凄い。でも両手撃ちの斬空閃と違い、奴は片手撃ち。しかも自由な足は3本もあるんだ。さすがに厳しいんじゃ」
「見くびなさるな。いかに全盛期を過ぎようとも、たかが3倍の動き。まだまだ老骨には早いですぞ」
そう言って先程よりも3倍、いや5倍は早く斬空閃を打ち込むラーハルト。
全ての爪の斬撃波を打ち払い
更には無数の斬撃をリーンレパードへと打ち込んで見せたのだ。
砂埃に混ざり、鮮血が飛ぶ——
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