第十話 「思わぬ再会」
翌朝、ギルドに向かう一行。
ようやく騒動もひと段落し、やっとランク取得クエストを受けられる、となったものの、どうも昨夜からエイシャリアとカルロスの様子がおかしい。
どうやらティナも気付いている様で、アイコンタクトの後、互いに首を傾げた。
「2人共どうしたんだ?これから危ないクエストを受けるんだぞ?そんなんじゃ集中出来ないだろ?まだ時間がある。話をしよう」
少し気まずそうにしている2人が気になり、4人が連れている護衛たちに離れるように促した。
するとようやくエイシャリアは重い口を開いた。
「悪いわね。言いにくいのだけれど、やはりクエストの前に言っておかないとならない話だわ。本来はわたくしから言わないといけなかったのに、ごめんなさい」
こんなに謝るエイシャリアは珍しい。
もしかすると、大事なのかもしれないな。
「そんな事は良い。どうかしたのか?」
ティナも心配そうに見つめる。
「まだ確証はないのだけれど、白銀騎士団の副団長のラーハルトは、以前から怪しい一団に加担しているスパイかもと睨んでいる男なのよ」
「怪しい一団?」
「ええ。帝都の情報を執拗に嗅ぎ回ってる一団で、表の顔は慈善活動なのだけど、裏では国家転覆を狙っているという噂まであるわ」
「それは確かに不安になるね。副団長がその一団のスパイなのは本当なの?」
「この一団が掲げるシンボルマークが『翼』なんだが、構成員は全てがこの翼のタトゥーを掘っているらしいんだ。だが普段は見えない場所に掘ってるこの翼のタトゥーを、団員同士の挨拶の時には見せ合うんだよ」
「そうか。それを偶然に目にしたのが——」
「ええ、わたくしとカルロよ」
「そうか。まだどこに敵がいるのが分からないから、まだ誰にも相談出来てないってことか」
「ああ、その通りだ」
「それなら、確かに危険だね。もし2人が目撃していたことがその人に知られていたら、こんなに都合の良い機会はない、ね」
「本当に、申し訳なく思っているわ。あなた達を巻き込んでしまうかもしれない」
「普段のお前たちについてる護衛はどれ程の強さなんだ?信用は?」
「え?えぇ、信用出来るわ。能力も申し分ない。人の目も多いから尚のこと危険は少ない筈よ。だから、今回って話なのよ」
「あぁ、今回は大丈夫だろう。リンリンもいるし、何よりギルドの副団長は知り合いなんだ」
——————
「では、ランク取得クエストの説明は以上です。今回は両騎士団副団長に護衛試験官としてご参加頂きます。くれぐれも、『王級』として、きちんとお守り下さい。そして、更に特別に『舞闘帝』にも全体をお任せしております」
「すみません。ランクはEからAに上がって行き、その上にSがある。との事でしたが、『王級』とかっていうのはいったい?」
「大変失礼致しました。ギルドでは人類の最高到達点であるSランク冒険者の皆さまの強さにも差異が現れた為、いつからか『王級』『帝級』『神級』と称号で呼ばせて頂いております」
へー、最高ランクのSランク冒険者になった時点で称号が付くんだな。
って事は◯◯王、◯◯帝、◯◯神みたいな通り名が付くって事。
「じゃあ、リンリンはSランク冒険者の『王級』より強い『帝級』の『舞闘帝』って事か!」
「ええ。因みにクラーク様は『魔弾王』に、ハンスも最近『剛棍王』になりました」
へー!じゃあ父様もハンスもSランク冒険者になってたんだな!
リーンスパイダーの討伐状況から、リンリンがそうとう強いってのは知っていた。
何より、青の国の一件以来、父様もハンスも相当鍛錬を積んでいた。
魔獣のランクと冒険者のランクは同じらしいから、Bランクのリーンスパイダーに単独で負けていたハンスは当時Cランクだったのかな。
共闘して勝利した父様はAランクだったらしいけど、相性が悪すぎたと言ってたし。
ようやくSランクになったとしても、これは、『王級』と『帝級』の差がかなり大きそうだな。
「さて、自己紹介をします。僕は紅花騎士団副団長のアシュリー。Sランクだから、安心してね!僕がちゃんと護るから!」
そう言って、シグルドにウィンクをするアシュリー。
まだ二十歳にも満たない、僕っ娘の女騎士。短く切られた紺色の髪と、赤い瞳。
そう——
彼女は、青の国でシグルドが護った子供たちの最年長の子供であり、ずっと男の子だと勘違いをしていた、あのアシュリーなのだ。
話には聞いていたけど、あれから7年か!
見た感じ、たぶん俺より5つくらい年上だから今は17歳くらいだな!
『僕の名前は、アシュリー!将来はシグルド様よりも強い女騎士になるんだから!しっかり覚えててね!』
この言葉通り、有言実行したって事か……。
いつの間にか実力を抜かれてたなんてな。めちゃくちゃ急成長してるじゃないか。
ハハッ……俺も頑張ってたのにな……ハハッ
以前から話は聞いていたのだが、現実に直面すると、再度落ち込むシグルドをリンリンが介抱する。
「あらあら。シグお坊ちゃまは、また。アシュリーは『水槍王』青の国を発つ前に少し稽古をしてあげたら、それまでしていた剣の適性より、遥かに槍に適性があったので、そこから上達したのですよ。こんなに目立つ立場で青刈りに屈さない彼女の努力の賜物です」
確かにそうだ。命の危険がらあるから青の民たちは国を捨て、隠れ住むことを選んだんだ。
つまりそれは、表舞台に立つ青の民は、常に命の危険に晒されているという事。
「アシュリー。君は凄いよ!今日はよろしくね」
「ふふ、命の恩人のシグルド様を護れるのは本当に光栄だよ!皆さんも、よろしくお願いします!」
一行を見回した所で、ティナの様子に気づいたアシュリー。
「あぁ!貴女が緑の聖女ティナ様ですね。シグルド様の婚約者の!推しのヒロイン共々推しなんで、ティナ様も推しです!」
「え、あ、ありがとうございます!」
「でも、気を付けて下さいね。ヒロインは、別れた時点でヒロインじゃなくなりますから」
「……それ、どういう意味ですか?」
「悪意はないんですけど、物語の鉄則の話ですからね。一応お伝えしておきました」
え?!なになに?!
怖いんだけど
なんか、仲悪いのか!?
「ご忠告ありがとうございます。でもシグとは良好なんで大丈夫ですよ。誰も入る余地なんてないですから」
「……え?うん。ありがとう」
思わぬ形で嬉しさが込み上げたシグルドは、頬が緩み、耳が赤くなり、もじもじしている。
それを見たティナは、アシュリーにドヤ顔で笑顔を向けるのだ。
——しかし
「あーん、シグルド様かわいい!そんな顔もする様になったんですね!」
アシュリーの豹変ぶりに毒気が抜かれたティナにエイシャリアとカルロスが歩み寄る。
「ティナ、あれは本当に推しってやつだと思うわ。安心なさい」
「いや、しかし女ってのは怖えーな。俺も今の今までヒヤヒヤだったわ」
「……うん。ありがとう」
因みに言うまでもないが、この世界に『推し』の文化を浸透させたのはシグルドである。
元々、女神推しの彼は、今でも聖女に対しての抑えられない感情を心に飼っている。
『抑えていないと、キモイって思われたらどうしよう』
これがキッカケだが
シグルドは、初めて推される側の気持ちを知る事になったのだ。
あれ?これ、悪くないかも。
むしろ、ちょっと気持ち良いまであるんだけど。
自身の周りでキャッキャするアシュリーにだんだんと頬が緩み
嬉しさが込み上げるシグルドは、チラリとティナを見た。
——すると
「ふんっ」
プイッ、と顔を逸らされたのだ。
「あぁぁぁッ!ティナぁぁぁ!!!」
「キャァァ!そんな顔もするのね!シグルド様ぁぁぁ」
この騒ぎは、しばらく続いた。
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