第七話 「おかえり」
「お手紙ありがとうございます。お久しぶりです。シグお坊ちゃま」
「手紙、読んでくれたんだな。でも、なんでここにいるんだ?」
先日のナルディアとのやり取りを綴った手紙で、コバルトの救出方法を伝えていたシグルド。
その中には、もちろん自身の近況報告も含まれてはいた。
強くならないといけない事も綴ったが、手紙を送ったのは一月以上前。
その後にダンジョン都市へ来る事になったのだ。状況的にリンリンがここにいるのは考え難い。
「ええ。お手紙でご報告頂いた後、私自身の希望が確信に代わり、ちゃんと前を向く事が出来ました。シグお坊ちゃま、本当にありがとうございます」
アトラクションで、サンドアートの指導の為に娯楽施設へと赴いてくれたリンリン。
あれから数年が経ち、後任の指導は万全の状態ではあるものの、メンタルを考慮し、まだコバルトの氷塊の近くでの生活は難しいだろうと判断されていた。
「もう、大丈夫なのか?」
「ええ。遅くなり、申し訳ありません。帰還させて頂きます」
娯楽施設での再会時。
思った以上に元気にしていたリンリンを見た。
しかし、それは単純にシグルドとの再会と、婚約の報告が嬉しかっただけ。
辛い事を隠すのが上手いリンリンの事を見誤りはしないシグルドは、サンドアートの壇上のリンリンの表情から、ちゃんと読み取っていた。
だからこそ今の、前を向いた清々しいリンリンの表情が心を締め付ける。
「そっか……良かった……おかえり」
「はい。長い間……ご心配を……お掛け致しました」
互いに流れる涙を抑えられず、暫く抱擁が続いた。
周りも暖かな目を向けてくれていたが、そこにはもちろん護衛執事のハンスもおり、目頭を押さえ、二人を静かに見守っていた。
「良かった、師匠」
消え入るように、そう呟いた声は、ちゃんとリンリンに届いていた様で
目と目が合い、暖かな笑みを返してくれた。
——しかし
ハッ!?
ヤバい!見られている!
俺は泣いている!
何分経った?3分?
まさか、5分……?
これは、リンリンとコバルトの久々の再会シーンでイチャイチャをし続けた二人を目撃したあの状況と何が違うんだ!?
俺は知っている
見る方も見られる方も気まずい
あの状況をッッッ!!!
——慌ててリンリンと離れ、周りを確認したシグルド。
しかしそこには、気まずそうな表情を浮かべる者はいなかった。
事情が分からないまでも、冒険者達も毒気を抜かれ、涙をすする音が聞こえる程だ。
おかしい。
そう思い、周りの様子を観察すると
——なんと、青い星屑がふわりと舞っている。
これは……
漸く理解出来たシグルドは、慌てて再度周りを確認する。
すると、窓の外でにっこりと微笑む
ナルディアと、ユグノスの姿を発見した。
——が
目があった瞬間手を振って姿を消したのだ。
またも、空を掴む事しか出来なかった手を見つめるだけのシグルド。
「直接報告してくれたんだな」
「ええ。ここにも連れて来て頂きました」
「ナディらしいな」
「ええ、とっても」
隣に寄り添い、背中に手を当ててくれるリンリン。
——暫くすると、星魔法の影響からか、だんだん心が穏やかに晴れていった。
ギルド内の周りの冒険者たちの喧騒すらも、落ち着いた様で
「取り敢えず、お待ち下さい」
そう言って受付嬢も、通常業務に戻っていった。
「で、修行って何の修行をするんだ?もちろん暇だし、大歓迎なんだけど」
リンリンの事をもちろん知っている三人は、首を何度も縦に振っている。
青の国が滅んだ今、青狩りの被害を避けるため、青の国の民は身を隠している。
それ故に、ウィニキートス流古舞術は伝説の格闘技として語られ、多くの武人から賞賛されている。
更には、あらゆる武器でウィニキートス流古舞術の師範代を務めるリンリンが、直々に修行をつけてくれるのだ。これ程光栄な事はない。
「整理すると、現状ギルド登録の為の危険なクエストの為、身の危険を案じている状況ですね?では、気功を覚えましょうか。安全性を考慮して身体強化を学んで頂きます」
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