第六話 「騎士団と騎士団」
「なりません」
せっかくダンジョン都市まで来たシグルドたちだったが、登録を拒否されてしまう。
「な、なんでだよ!俺たち何の不正もしてないじゃないか!正々堂々登録に来たのに!」
そんなカルロスの言葉を受けた受付嬢は、困った顔の後、ため息を吐いた。
「あなた方は全員が各国の重鎮の子息令嬢です。帝国の皇女。聖女であり緑の国の公女。帝国の宰相を父に持つ公爵令息。土の神童であり橙の国の侯爵令息。ご自分たちの立場をもっとお考え下さい」
悪びれる事なく、そう言ってのけたのだ。
それもその筈、ギルドの受付嬢からしたら、ババ抜きのババを引いた感覚が一番近い。
数ある窓口の中で、自分の窓口を選ばれたのだ。当然である。
何か危険な事が起きれば、確実に矛先がこちらに向くだろう。事実上確実に首が飛ぶ。
いや、関わった者全ての首が比喩でも誇張でもなく、確実に飛ぶだろう。
そんな受付嬢の言葉を受けたシグルドは、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
……あ、失念していたけど、確かに俺たち、扱いが難し過ぎるよな。何かがあって責任問題になる前に却下されるのは当然か。
仕方ない。残念だけど帰ろうか。
そう、提案しようと振り返ったシグルドの目に飛び込んできたのは
ふふん、と鼻を鳴らしたエイシャリアが腕を組んで仁王立ちをしている姿だった。
「そうなるだろうと思って、対処してきたわ。予定ではそろそろ着く頃よ」
——しかし、そう自信たっぷりに言い放ったエイシャリアの言葉は
数刻を待っても、実現されなかった。
エイシャリアは待たされる事が大嫌いである。
普段からスケジュールがビッシリ埋め尽くされている、多忙なエイシャリアを待たせる事がどれ程の罪作りな事か。
それはもう数年付き合いのあるこのメンバーには、周知の事実である。
このダンジョン遠征や修行も、多忙故にスケジュール調整が難しく、寝る時間すらも削って作った特別な時間。
基本的に余裕のある笑みを崩さないエイシャリアだが、この時ばかりはいつもの並行眉が、吊り上がり過ぎて0時を指し兼ねない程だ。
そんなエイシャリアに、一人の勇気ある若者が疑問を投げかけた。
「エル……2時間くらい……経ったけど……?」
言っ……言ったぞ!!
カルロが言った!!
みんなが思ってても言えなかったのに!
どんなとばっちりが来るかも分からないのに……なんて……勇気があるんだ……
まだそんなエイシャリアを知らなかった頃に、地雷を踏んだ経験のあるシグルドは、冷ややかに虫を見る目で鋭利な言葉を浴びせられたトラウマを思い出した。
「……おかしいわね。騎士団長のくせに、このわたくしを待たせるとは良い度胸だわ」
あ……
矛先は既に別の場所にある
だから今回はとばっちりが来ないのか
や、やったぞカルロ……
シグルドとカルロスは、心の中のガッツポーズをアイコンタクトで讃え合う。
互いに少し涙目なのを確認したティナは、二人の心情と経験則から気の毒に思い、エイシャリアに質問を投げかけた。
「でも、騎士団長を呼んでどうするつもりだったの?」
「そうね。説明不足だったわ。どうやらこの適性試験は、そうとう危険なものらしいのよ。もちろん安全を考慮して試験官同行の試験らしいけどね」
そんな前置きをしたエイシャリアは、みんなの顔を見回しながら、説明を続けた。
「ただ、エリア毎に強さが跳ね上がる特殊なダンジョンでの試験だそうよ。だからこそ、到達エリアによってランクが決まるらしいわ。無理にエリアを突破してもエリアボスと呼ばれる強力なモンスターを討伐出来なければ前エリアのランクになってしまう。そして稀ではあるけど、レイドボスと呼ばれるユニーク個体の奇行種が出現する危険性もあるそうよ。レイドボスは突然発生する上に、現エリアボスよりも強い事が確実で、更に強さも未知数」
エイシャリアは目を伏せて、続ける。
「当然、試験官が対応出来ないと死ぬ可能性すらある、極めて危険な試験であるとの事よ」
——ガタッ
円卓のテーブルに囲う様に座っていた四人だったが
意を決する様に、二人が立ち上がった。
「いや、待て待て!ダメだ!帰るぞ!エル!」
「悪いな。ティナもダメだ」
そんな危険な所だったなんて!
そりゃあ、受付で止められるだろう!
何よりそんな所で腕試しなんて出来る訳がない!
「早まるのはよしなさい。だからこその秘策なのよ」
そんな二人の反応は予想通りと言わんばかりに、伏していた目を開き、策士の様に笑みを浮かべるエイシャリア。
「ま、まさか、だから騎士団長をここに呼んだのか!?」
そう——エイシャリアは、皇女である権限を行使し、帝国最高戦力である帝国騎士団長白花のゼフィロを試験官にすると提案したのだ。
彼は現在確認されている、二人の花の騎士の一人。『白』の色を冠する最強の騎士だ。
「そんな奴を護衛に付けるなら、ギルド側としても断れないでしょ?」
ご、ごり押しの力技で押し切ろうとしてたのかよ……
た、確かに、それなら安心感は計り知れないけれど——
「お待たせして申し訳ありませんが、その事で協議させて頂いております」
——不意に、みなの思考を遮る様に、受付嬢から告げられた。
「白銀騎士団が来るのなら、我が紅花騎士団が黙っておられませんので」
——そんな奮い立つ様な受付嬢の言葉を聞いたシグルドは、あまりの圧を感じ、周りを見回した。
な、なんだ?
みんな笑顔なのにオーラが立ち昇ってるみたいに圧が凄いぞ。
しかも、ギルド職員だけじゃない。
冒険者たちまでも、明らかにこっちを威嚇してる。
驚き戸惑っているシグルドとは対象的に、エイシャリアとカルロスは落ち着き払っている。
そんなシグルドを見兼ねたティナが耳打ちで教えてくれた。
「これはダメだよ。まさかエイシャリアがこんな強行突破を考えてたなんて。あのね、帝国騎士団って呼ばれる白銀騎士団はギルドとは犬猿の仲なんだよ」
え!?そうなのか!?
「ギルド側の最高戦力には、もう一人の花の騎士、紅花の舞姫がいるの。その方は、白い花を基調とした帝国騎士団と敵対してるギルド発足の騎士団の紅花の騎士団長様なんだよ」
花の騎士同士で敵対してる、のか……
「あの方は、民衆のギルドに所属する貴族だから、王侯貴族からは義族とされて牽制されてるけど、そんな高嶺の花の孤高の彼女にこそ紅い花は相応しいって賞賛される程の淑女なの」
『紅』と『白』の花の騎士
まさか、俺が目指してる花の騎士の二人が敵対関係だったなんてな……
しかも、紅花の騎士団長は貴族の淑女なのか。またややこしい。
——いや、それよりも
ヤバいんじゃないのか?
そこまで酷い関係って事は、エイシャリアとカルロは単身で敵地に乗り込んでるみたいなもんなんじゃ
あれ?この待ち時間てつまり……
「白銀騎士団がギルドにまで関与するのかよ!?」
ほら来たッ!
威嚇だけでは抑えられなかった冒険者が、遂に怒鳴りをあげたのだ。
「俺たちの自由を奪ったお前たちが、俺たちの縄張りに入って来んじゃねーよ」
ダムが決壊した様に口火を開く荒くれ者たち。
どうやら相当根が深い様だな。
確執も言い分も互いにあるのだろうし、暴動が起きるのも当然なのかもしれないな。
シグルドは、事情が分からないながらも、前世で見たアニメからある程度の内情を考察し、何も言えないまま、悲しい気持ちを抑える事しか出来なかった。
「お待ち下さい」
——だが、それを制したのは他でもない受付嬢だった。
おぉ、大人の対応!
やっぱり、ギルド職員は立派なんだな
「現在、白銀からも皇女の命を軽視する発言は看過できないと、街の入り口で戦争でも起きかねない雰囲気へと発展しています。ですので、お怒りの方は是非、白銀の方に行って来て下さいませ」
前言撤回……
いや、まったく大人じゃあないじゃないか。毎日血の気の多い冒険者相手にしてるからか、受付嬢まで好戦的だよ。
うんざりしてため息を吐くシグルドに、更に驚きの声が聞こえる。
「あら、うちの騎士団も可愛い所があるじゃない」
まさかエイシャリアまで、そんな煽る様な事を言うなんて
「いや、そんな悠長な話じゃないから!」
「何言ってんだシグ!エルが大事じゃないってのか?」
いや、もう勘弁してくれカルロ……余計にややこしくなる。
「ごめんね。私が提案したばっかりに」
そうじゃないよ、ティナぁぁぁ
自国の騎士団に対して、ドヤるエイシャリアとそれで当たり前だと怒るカルロスと、そもそもここに連れて来た事を後悔するティナ。
そんは三者三様の態度にどんどん疲弊が募るシグルド。
更に、エイシャリアの口角が少しだけ上がった。
「シグルド。こうなってはどうする事も出来ないわ。少し傍観なさいな」
くそ、エイシャリアめ、さてはこうなる事も想定内だった節まであるじゃないか。
こいつ、絶対楽しんでやがるな!
——そんな時
ギルドの扉がカチャリと開く。
「あらあら、やっぱりこんな事になっていましたか。解決にまだまだ時間がかかりますね。それなら暇つぶしに、私の修行に付き合いませんか?」
瞳に映るその姿に
シグルドは辺りの喧騒も忘れて
思考が停止した
なぜこんな所にッッッ?!
そんな感情よりも
先に嬉しさが優ったシグルドは
薄い青色の髪のメイド服の女へと
一目散にかけて行った。
「リンリンッッッ!!!」
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