第十九話 「花の騎士」
——ふわふわとした感覚の後
意識が徐々に覚醒する。
精霊界……
ナディが寂しさを忘れて安心出来ていたのが
何より安心した。
——皆が覚醒し、少し話をした。
皆口々に安堵の声を上げ、ナルディアを抱き締めた。
その後——
ナルディアはピンクの細長い紙をアンナに渡した後
シグルド以外の全ての者を
眠らせた——
「な、何するんだナディッ!?父さん達だぞ?やっと会えた家族に向かって!」
「挨拶は済ませたもの。そもそも、まだ、会う気はなかったの。お兄ちゃん以外には」
「ど、どういう事だ」
「大切な話を、しに来たの」
ナルディアの真剣な表情に
シグルドも表情を変える。
「俺にしか話せない何かがあるんだな。ナディが困ってるなら必ず助けてやる。話してくれ」
まだ何も話していないのに
真剣な表情で受け止めてくれるシグルドを見て
ふふっ、と突然笑いだすナルディア。
「なんだ?どうした?」
「んーん、お兄ちゃんだなぁって思ってさ!やっぱり、もう少し楽しい話でもしてからね!良いでしょ?ユーグ」
「うん。ナディの好きなようにしたら良いよ」
ナルディアの背中に手を当て
優しく微笑むユグノス。
その光景を見て
この7年間の二人の関係を改めて実感し
心が熱くなるシグルド。
……あぁ
このユグノスという男の子は、ずっとこうやってナディを支えてくれていたんだな。
ナディはかなり天真爛漫で気分屋だから、意見がころころ変わる事が多い。
ただ、それにはちゃんとナディなりの理由があって、その気持ちの変化に対応出来るのは、ちゃんといつもナディを見守ってくれているからだ。
ナディは結構頑固だし、言い出したら聞かない所もある。
わがままだと捉えて、衝突する事もあっただろうに。
そうか、こんな優しさに包まれて過ごせていたのなら、極上の安心感だっただろうな。
——立ち上がり
ボウ・アンド・スクレープで礼をする。
精霊界の王子であるユグノスに人間界の貴族式の礼では意味がないかも知れないが
自身の最上の礼は尽くしたい。
「ユグノスさん、貴方がずっと長い間、側でナディを支えてくれていた事が見ていてとても伝わりました。ありがとうございます。とても、感謝しております」
ニコッ、と笑い笑顔でボウ・アンド・スクレープを返してくれたユグノス。
「いえいえ、当然ですよ。こちらこそお噂通りの方でとても嬉しく思っております。相棒をとても大切に護ってくれて、どうもありがとう」
暫く談笑しあう3人は、終始笑顔で過ごした。
シグルドとユグノスは同い年という事もあり、互いに愛称で呼び合う程打ち解けあった。
ほとんどが、ナルディアの質問攻めだったが。
中でもアトラクションを作り大盛況である話を楽しそうに聞いてくれた。
リンリンも元気でいる事も
寂しそうに、微笑んでくれた。
「しかし、改めて2人が並ぶ所を見ると、なんとも可愛らしいよな」
ナルディアは、フリフリの短いスカートのワンピースに、ロングブーツを履いていて、所々にモチーフの赤いハートが付いている。
対して、ユグノスの羽織る裾の長いジャケットの袖は深めに折り返されていて襟と袖は青色になっており、中にはシャツを、下には膝丈のキャロットパンツを、そして少しボリュームのある靴を履いていて、所々にモチーフの青い星が付いている。
共に白を基調に属性のカラーである赤と青を差し色にされていて色味も良い感じだ。
何より2人共可愛らしい顔をしてるから、特にそう思うんだろうな。
「僕も12歳だから。少し恥ずかしいんだけどね」
ユグノスは、ニコニコと親しみ易い笑顔を見せてくれたが、照れている顔は年齢より少し幼く見える。
「大丈夫。20歳を過ぎても着こなせるから」
前世のアイドルアニメをこよなく愛する女性達は沢山いたんだ。
安心するが良い。
むしろまだまだ幼いくらいだ。
ふむ、2人は特別早く手に入れた種だけど、確か成人の儀の種降祭でみんな手にするんだったよな?
女神様に唯一属性の才能が無いと言われているシグルドには全く関係の無さそうなイベントである。
が——
と言っても青の国での花紋使いとの対峙や
何より当事者のナルディアの事がある以上
安易に考える事など
不可能な話である。
「その花の絵が花紋なんだよな?あの時はあんまり詳しく聞けなかったから、ちゃんと知らなくてさ」
ナルディアもユグノスも、右手の甲に花の紋様が刻まれている。
「確かに、さっきの記憶だけじゃ分かりづらかったかも知れないね。じゃあ、改めて説明するね。これは開花した花の紋章で、『花紋』と呼ばれているよ。僕は、星がモチーフだから、星の形をした花、オキシペタラムの花紋。花紋が刻まれて星属性が使えるようになったんだ」
「あたしのは、知ってるよね。ハートの形をした花、ケマンソウの花紋だよ。愛属性が使えるんだー」
「へー!星と愛の属性か!種に選ばれたらみんなマジカルになるのか?って思ってたんだけど、昔倒した花紋使いはマジカルにはならなかったんだよな」
あいつが特別だったのかな?亜人だったから?
まぁ、こんなに可愛い子達がいっぱいいたらびっくりする!
いや、種降祭の15歳以降からなら、大人になるしカッコよくなってまたファンも増えるかもしれないな。
「ならないよー。あたし達は花紋使いとは違うの!普通に種が開花しても、その属性しか使えないんだけど、あたし達は身体強化をされてるんだよ!変身もするしね!」
確かに過去の記憶でもそう言ってたよな。
ふむ、種が開花して唯一属性を手に入れれば、花紋使いと言われるのか。
しかも、その属性しか使えなくなる。
そして、変身して身体強化をされてる状態になるのは、マジカル・クレストだけ、と。
え?チートじゃない?
覚醒直後のパワーを知ってるからな。アレはふつうの身体強化なんてレベルじゃなかった。
ナディは軽く触れただけで、俺を吹っ飛ばしてたんだ、全力だと某アニメのア◯レちゃんの地球割りとか、出来そうで怖い。
しかも、固有の唯一属性まで使えるんだろ。
俺の知る中じゃ、群を抜いて強そうな気がしてならない。
「しかし、そこまでの力を手に入れても宝の持ち腐れだな。ナディ達って何をしてるんだ?確かにこの世界には悪い奴らもいるし、魔法もあるし、魔獣もいるから物騒だけど、狩りにでも行かない限りそんなに戦う事もないだろうし、あ、そっか!アイドル活動か!俺もステージ観に行きたいよ!」
アイドル活動か!事務所とかあるのかな?
青の国の一件や魔獣は別として
ホントこの世界
娯楽施設とかでみんな遊びまくってて平和だからな。
戦わない魔法少女か!
それはそれで新しい——
「戦ってるよ」
「え?2人もギルドに所属してるのか?」
「さっきも言ったけど、今回、土の神童と謳われるシグルドお兄ちゃんにお願いがあって来たんだ。この花の大陸の外は、復活した魔王率いる魔獣達に蹂躙され、更に操られた花紋使い達が狂気に取り憑かれてる。お兄ちゃんはそもそも鍛錬が好きだから気にしていなかったけど、魔力の強い王侯貴族が幼い頃から男女差なく鍛錬に励んでいるのはこの為だよ。だからこそ、お兄ちゃんには花の花紋を開花して欲しいんだよ。と言っても、種降祭は再来年だから、まだ2年先にはなるけど。花の騎士を復活させないと、この世界は大変な事になるの」
あんなに陽気だったナルディアが
急に真面目な表情になり凛々しく話し出す。
だが紡がれる言葉は
あまりに驚愕で
シグルドは言葉を失った。
「そんな……魔王だって?……ハハ、さすが、ファンタジー世界だな。今まで……そんな事、誰も教えてくれなかったぞ……」
「そうだね。魔王が復活した事に関しては、最近分かった情報だから混乱を抑える為に一部の人以外には秘匿にされているから、仕方がないよ。ただ、千年前に封印された魔王の配下達の討伐の為、幾度も勇者達が派遣されて、平和は保たれてきたに過ぎないの。でもそれは、いつか必ず復活すると言われている魔王の再封印の為に戦士を鍛えるのは当たり前の事なんだよ」
それって、父さんが俺を戦場に立たせる為に鍛えてたって事か……。
確かに、5歳児を、狩猟に連れて行ったり
銃を握らせるなんて違和感はあった……
ティナにしても、エイシャリアにしてもそうだ……
姫である立場であそこまで鍛えているなんて、普通あり得ない。
カルロにしても、時期宰相って立場の子供があれだけ鍛えていて、強さに常に貪欲なんて変だよな。
ナディを護る為に、今度こそ誰も失わない為に
そうやって、馬鹿みたいに鍛錬に励んでいた俺が、ただただ、おかしかったんだな。
そうか、あいつらは、知っていたんだ…。
知っていて
努力を惜しまなかったのか。
見据えた目標が、命を賭ける前提、か。
——俺なんかとは余りにも違い過ぎるじゃないか。
そりゃあ、俺も命がけで護るとは決めている。
その為に強くなるって決めてる。
でも、戦いに向かう覚悟は
——殺す覚悟でもある
そもそもの覚悟が
……俺より重いじゃないか
「そんな、事って……覚悟の足りない俺なんかに、何が出来るんだ……いや、ちょっと待て!!そんなのとナディ達は戦ってるのかよ!大丈夫なのか!?」
「あー、大丈夫だよ!あたしの強さは知ってるでしょ?ユーグだって同じくらい強いんだもん!あたし達はねー、無敵ー!それに魔王が復活したって言っても、色々あって3年は動けないから安心して!」
あまりにも当たり前に言い退けるナルディアの自信に
ほんの少し安堵するシグルドだが
現状力不足の自分が何を言っても
何も変えられない
悔しいが
言葉を飲んだ。
だけど!!!
「『そうか。無理だけは、しないでくれよ』なんて言える訳ないじゃないか!世界がどうかなんて、関係ない!そんな危険な事の最前線になんて、立たせられない!そもそも今は何処で暮らしてるんだ?何かの組織にでも所属しているのか?ナディが強いから、なんて理由で、はい、そうですか、なんて事にはならない!」
「お兄ちゃん……」
「俺はお前の兄ちゃんで、お前は俺の妹なんだよ。大切なんだ。今度こそは、ちゃんと護らせてくれ」
シグルドの真剣さに、驚いていたナルディアだったが、
突然下を向き
膝の上にあった手を強く握った。
「それは……前世の妹への罪滅ぼし?」
「……え……?」
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