第十七話 「星の王子様」
3日後、ハートの姫の歓迎会当日。
『晴れやかな空にも愛された本日。愛属性のナルディア姫が女神に寵愛されておられる賜物ですな』
精霊王並びに王妃と、ナルディアのパートナーのハーティとが互いに挨拶を交わし、これからの親交を深め合う。
「あれー?王子様はー?」
「初めまして!僕は精霊国の王太子、ユグノス・ミレースです!この度は精霊国へ来て頂きありがとうございます!」
キョロキョロ、と辺りを見回すナルディアに、ひょこっ、と顔を出すユグノス。
「わぁ!初めまして!よろしくねー!ユグノス!あたしはナルディア・アトリビュート・リオーネだよ!ナディって呼んでね!」
てててっ!とユグノスに近付くと
強引に手を取った。
「はーい!握手っ!敬語と様付けはお高い禁止ね?えへへー、これで、あたし達は今から友達だよー」
「……ぷっ、あっはっは!うんっ!君は今までに出会った事が無いタイプだよ!気に入った!こちらこそよろしくね!ナディ!僕の事はユーグって呼んでよ」
握手した手をブンブン振り、嬉しそうな2人を周りの温かな目が見守る。
「あれー?ユーグ、背中?肩?どーしたの?痛くない?」
——ざわっ。
ナルディアがユグノスの右の肩口の異変に気付くと、待ってましたとばかりに精霊国一行が口々に動揺する。
中でも精霊国の薬師は、来たっ!と言わんばかりの表情をしながら、精霊王と目配せをしている。
「ハーティ、治してあげたい」
『そうだね!何かあってはいけないし。精霊王、王妃、よろしいですか?ナディを信じて頂けますか?』
『え、ええ。こちらとしても、我が王子の一大事やも知れません。よろしくお願いします』
——まるでテンプレの様なハーティと王妃の会話のあと
ナルディアは魔法少女に変身し、赤く輝くハートの光がユグノスを包み込む。
『キュルルーン』
「アレ?痛いのは消せたけどー。これ、あたしと同じかも!?ユーグ、光を見た?」
——あまりに一瞬だった
こうも簡単に、長年の苦しみから解放されたユグノスは、突然の事に少し呆けてしまう。
「えっ……本当だ!!……痛くない!ありがとうナディ!って、え?光?あぁ……青い光なら昔見た記憶があるけど……」
「やっぱりッッッ!!ユーグの背中のやつは、あたしのコレと同じだよー!!」
困惑するユグノスに、自分の胸元を見せて喜ぶナルディア。
そんな2人を他所に、周りは騒めき立つ。
「ちょ、ちょっと!ナディ!女の子が胸を!しまいなよっ!!」
「コレだよコレ!ちゃんと見て!」
——薄っすら目を開けると
ナルディアの左の胸元には、ハート形の花、ケマンソウの花紋が刻まれていた。
こっこれが、花紋……。
話には聞いてたけど、花の紋章が赤く光ってる!
「えっ、これが僕の背中の痛みの原因…?」
「あたしもねー、光を見た後に、すっごく胸が熱くて痛くなって、痛過ぎて気を失いそうになっちゃったんだよー。その後、花紋が刻まれてたから、ユーグももうすぐだね!」
そんなナナルディアの言葉に一番の反応を見せたのは、精霊王だ。
『おーー!!ユーグが花紋に目覚めるのか!ハートの姫よ!誠かっ!?長年にわたり悩まされておったユーグの持病の正体が、まさか、花紋だったとはっ!!』
ナルディアの言葉に口々に色めき立つ一同。
ナルディアの力を見た者ばかりだ
皆の喜び様も頷けるが
ユグノス本人は、戸惑いを隠せない。
こっ、これが花紋?
背中だから、自分では見れない。
何故、僕が?
ナディは例外中の例外じゃなかったの?
僕だってまだ5歳なのに……
「あっ、だから、ユーグもまだ小さいのに、しっかりしてるんだ!」
えッ……!?
そうか……
僕がいっぱい周りに褒められてたのは、花紋の力なんだ……
確かに、すぐ言葉も字も道理も理解出来た。
「そうか……でも、ずっと何年も痛みの原因だったコレのお陰とか、嫌になるね……」
「魔法少女になっちゃえば、全然だよー!痛いのは一瞬だけだし!魔法少女にはね、仲間がいるの!女神様もちゃんと言ってたよ!きっと、ユーグがその人なんだね!」
「えっ!女神様が!?」
そんなナルディアの言葉を聞き
俯き
塞ぎ込むユグノス。
聞いていた通り、ナルディアは女神様にお会いしているのか……。
でも、どうして僕が……?
「……魔法少女って、いったい何なの?あと、僕は男だから!」
「あはは!知ってるよー!お兄ちゃんが魔法少年になるって言ってたから、女神様が男の子とか女の子って特に気にしなかったんだねー!」
「お兄ちゃん……確か双子のお兄さんがいるんだっけ?」
「うん!でも、お兄ちゃんだけどお兄ちゃんじゃないの!女神様に会った時10個くらい上の男の子も一緒だったんだよ!そのお兄ちゃんが、あたしの本当のお兄ちゃんになったのー、凄いでしょ」
塞ぎ込んでいるユグノスとは対照的に
ナルディアの言葉にまたも周りがざわめく。
ナディ以外にも
女神様の祝福を受けた人が産まれてるんだ。
「それなら、その人が魔法少年で、ナディの仲間なんじゃないの?そうだよ!僕は女神様の祝福を受けた訳じゃない!」
「んー、なんか適性が無くて、なれないって言われてたよ?あはは!女神様の祝福とかは関係ないみたい!」
なんだよ……それ。
どうなってるんだ……
「……君は……怖くはないの?ナディ」
「怖い??何が?」
「君のその力を見ていたら、何か、大きな使命を授かったようにしか見えないから。……僕は怖い。僕は……認めたくは……無いよ」
「何言ってんの?ためらって、足が止まってたら、自分で自分を縛ってるのと同じじゃない?そんなの、カゴに入れられてる鳥さんと変わらないよー。まだ何にも分からない未来なんかに怖がってちゃもったいないよ!やりたくなかったら、やってからでもやめたら良いんだよ!ユーグの未来は自分で決めれば良いんだから。ユーグは、ユーグ。何も縛り付ける物なんて、ないんだからね!」
ナディには
何が見えてるんだろう。
今、僕が
花紋なんて要らないって思った事すら
見えているみたいだ。
籠の中の鳥と変わらない、か。
「じゃあ、僕が……魔法少年なんだね」
「そうだよ!魔法少女は、力がもの凄く強くて、凄くジャンプも出来て、頑丈なの!」
……そして、頭も良くなる、か。
でも、ナディみたいに深く考えないタイプは、何か良くない事に利用されたりしないかな……
だからすぐにでも仲間が必要だったのかな。
暫くぶつぶつと熟考するユーグは
暫くして、大きなため息をついた。
——そして
ゆっくりと
ナルディアを見据えるユグノスの瞳には
覚悟が灯った——
「仕方ないな。ナディ1人じゃ、心配だからね」
「え?え!?」
戸惑うナルディアへ向けて
ニッ、と微笑んでみせるユグノス。
「やったー!嬉しいよー!ありがとう!ユーグ!」
喜び抱き着いたその時——
ユグノスの右肩甲骨が青く輝く。
「くっ……!」
ユグノスが痛みに顔を歪める。
「やっぱり!!ユーグが魔法少年なんだ!」
満面の笑顔で興奮するナルディアと
特別な瞬間に立ち会って息を飲む一同。
——暫くすると嘘の様に痛みは消え
右肩を回し違和感が無いか確認する。
身体の中を駆け巡る今まで感じなかった
不思議な力に——
なんだか実感が湧いてきたのだ。
——少し目を閉じた後
ナルディアに向かい合い
ニコッと微笑むユグノス。
「ふぅ。案外あっという間。これで僕もナディの仲間入りだね」
「わーい!!ユーグ!これからよろしくね!すっごい嬉しいー!!」
「うん!これからよろしく!ナディ」
幼児が抱き合う様はとても可愛い。
もう野次馬と化した一同は、共に『キュン』と胸の高鳴りを覚えた。
こうしてユグノスは花紋が開花し、ナルディアと共に魔法少年になったのだった。
「あれ?ユーグ開花したばかりなのに、もう、力の制御が出来てるの?抱きしめられても、痛くないね!あ、あたしが魔法少女で頑丈だから気付かないのかな?」
「そんな事ある訳ないでしょ?いくらなんでもナディみたいな力で思いっきり抱きしめたら魔法少女でも骨くらい折れちゃうよ。僕が種子を受け取ったのは3年前だからね、ゆっくり馴染んでたみたいで、力の制御もすんなり扱えたよ」
「す、凄いねーユーグ!あたしなんて、ホント悲惨だったのに」
「まぁ、最初は仕方がないさ。わざとじゃないんだし。それに、ほら、ナディはもう、こんなに優しく抱きしめられるじゃないか」
「ふふ、そーだよね。なんだか、ユーグってお兄ちゃんに抱っこされてるみたいで、気持ちいいな」
「それは良かった。寂しかったら、いつでもしてあげるよ」
「そーいえば、ユーグはどんな花紋なの?見せてー!」
「あっ、僕も気になってたんだ。自分じゃ見れないから、見て欲しい」
抱き合っていたナルディアの顔の下辺りにちょうどユグノスの花紋がある。
魔力を感じ、気になるナルディアに急かされ、ユグノスは侍女に服を脱がせて貰う。
確認すると、ユグノスの右肩甲骨には青い星のモチーフの花紋が刻まれていた。
「へー!青い星の花なのかな?何て名前の花なの?」
ユグノスの肩口を覗くナルディアの周りを更に野次馬一同が覗いている。
ナルディアに質問された薬師は少し考え答えた。
『これは、オキシペタラムの花ですね。星型の青い花ですよ。私も見るのは、ハートの姫様のとで2つ目の花紋ですが、花紋とは、モチーフの形に近いのですね、いや、確かに花の形状ではありますが、花の形状よりも、モチーフにアレンジされているのでしょうか、はたまた魔法少女だからなのか——』
ぶつぶつと考え始めた薬師を他所に、薬師の言葉を聞いて驚いたのは、精霊王妃だった。
『まぁ、オキシペタラム!ブルースターですわね!私達の思い出の花ですわ!』
『おお!ブルースターか!王妃との人間界への旅行中に見つけたあの花畑だな!』
『絶景だったので描かせた絵画が、あまりにも綺麗で!皆にも、とても評価して貰ってますわね!そういえば、ちょうどその時かしら、ユーグを身籠ったのは』
精霊王、王妃が思い出話に胸を膨らませているのが微笑ましい。
客室に飾られている青々とした花畑の絵画。
雲一つ無い青い空の下、境目が分からない程全てが青色に染まっていて、とても綺麗で僕の大好きな絵だ。
「そうだったんだ。だから、僕は選ばれたのかもね」
不思議な事に
ストンッ、と心に刻まれた。
僕は、この青い星の花に
選ばれたんだ。
『そうだよ!やっと会えた!ずっとずっとユーグ、君を、待ってたんだよ』
ポンッと姿を現し
ユグノスに抱きついたのは
青い大きな星を背中に背負う妖精。
「き、君は?」
『僕は、スターリィ!僕を受け入れてくれて、ありがとう!』
すると
先日の記憶が戻り
色々と腑に落ちたナルディアは
スターリィの頭をポンポンッと撫でてあげた。
「色々と、たいへんだったんだねー。よしよし」
『うん、グスッ、ありがとう、ナディ』
『でも、良かったわね!パートナーに出逢えた事は至高の幸せよ!これからよろしくね!スターリィ』
『ありがとう、ハーティ』
お礼を言いながらも
ユグノスの胸から顔すら上げないスターリィは
恥ずかしそうに
チラッ、とユグノスを見る。
それを待ち構えていた様に
ニコッと微笑むユグノス。
「やっと目が合った!」
わーっ、と恥ずかしそうに
慌てて顔を隠すスターリィをからかいながら
打ち解けていった。
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この物語は日・水・金の19時に更新します。
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