第十六話 「精霊界」
ふわふわする。
意識だけが切り離されたみたいに
変な感覚だ。
催眠術に掛かってる時って
こんな、感覚なんだろうか。
意識を手放した一同は同じ記憶を共有する。
——————
ん……あれ?
ここは……?
あ、そっか。
あたし精霊界とかいう所に来たんだった。
まだ見慣れないな。
このキラキラの天井。
無駄に華美な部屋。天井にさえ絢爛豪華な装飾を施されているこの天井を眺めるナルディア。
リオーネ城も豪華だったけど
天井が変わるのは
なんだか寂しい気持ちになるよ。
天蓋付きのベッドを転がり、天井を眺めながらそう思ったナルディア。
——ガチャ。
『おはよう!ナディ!キャーっ!またベッドから頭が落ちかけてるじゃない!』
小さな身体のどこにそんな力があるのか、ハーティが慌ててナルディアを引っ張り、キチンとまたベッドに寝かされる、いつものルーティーン。
最初目を覚ました時は怖かった。
ハーティに連れられてこのお邸に来て。
もう、皆んなに会えないんだ。
精霊界に来たのは本当なんだって実感して……
寂しくていっぱい泣いちゃった。
——でも今は
ずっとここにいるなんて、つまんない!!
あたしは魔法少女になったのに!
いっぱい怖いって思うけど、早く魔法少女として世界平和がしたいよー!!
——あの日
精霊界に来たナルディアは、不安で押し潰されそうだった。
いくら強くなったと言っても、5歳の子供である。家族には気丈に振る舞ってはみたが、当然の事だった。
「う、うぅー!!うえーん!!」
覚醒した後からは、こんな年相応の子供のように泣いた事はなかったが、全てを失い単身知らぬ土地に来たのだ。
不安で、仕方がなかった。
『ナディー、泣かないで!あたしがいる!あたしはナディのパートナーなんだから!絶対一人になんてさせないわ』
「うぅ、あり、がとう」
『ほら、顔を上げて!ステキでしょ!今ナディがいる世界は、精霊界なのよ!』
「精霊界……??うわーっ!!」
そこは文字通り別世界だった!
ピンク色の空と
浮かぶ島
いや、雲だ。
雲の上に街があるのか
わたあめのような雲と雲を繋ぐのは
七色の虹。
花や木や雲、全てのモノには顔があり、話をしたり歌を歌ったりしている。
花の周りに集まるのは、パタパタと飛んでいる何人もの妖精達。
音楽を奏で、キラキラと色とりどりの光が飛び交い、皆が皆楽しそうに笑っている。
遠くの雲の上には大きな城が建っていた。
ナルディアにとって城は、馴染みのある場所だ。
家族の住まう
ナルディアの家——
「お城、だ」
『そうよ!ナディ!王子様に会いに行かなきゃ!』
「王子様ーーー?!」
『そう!でも向かうのはお城じゃないわ!ルミナスホールよッ!!!』
ハーティに連れて来られたルミナスホールという場所は、前世で各所に設置させていた、いわゆる◯◯ドームに酷似した場所だった。
と、言っても精霊界である為、宙に浮いた席や小さな小さな席、逆に大き過ぎる席もあるし、四足歩行者の椅子もある。
「えっ?どこに座れば良いの?」
『そーね、あ、あそこが空いているわね!あそこにしましょ』
近寄ると、ハーティが何かしてくれたのか、椅子の色が変化した。
どうやら席を購入すると色が変わるようだ。
少し待つと、どんどん席が埋まり、やがて満席になった。
——真っ暗な舞台がパッ、と明るくなり
煌々とした光の中
一人の男の子が立っている。
『『『『『『『キャーーーッ!!!!!王子ーーーーッッッ!!!!』』』』』』』
「王子!?人間、だよね!!?」
彼が歌うと
『キラキラッ』
踊ると
『キラキラッ』
笑うと
『キラキラッ』
青い星屑が『キラキラッ』と効果音付きで舞い
観客の歓声はさらに高まる。
『キャーーーッッッ』
何台ものカメラが、常に最高の彼を映しているが
モニターに映る彼は
常にカメラ目線を外さない。
モニターの絵が変わる度
キラキラとした最高の彼が映る為
その都度歓声が湧き起こる。
『キャーーーッッッ』
数時間もの間、キラキラのステージは終始大歓声の中幕を閉じたのだ。
もちろんナルディアも楽しんでいたが
今はこの時を
今か今かと待ち侘びていたのだ。
「ねぇ!楽屋!行きたい!会えるんでしょ?王子に!」
——————
楽屋に向かったナルディアは、胸を高鳴らせていた。
15歳である成人をすこし過ぎたくらいの大人の男性。
まだ若いが、この世界では歴とした頼れる大人の
人間だ——
何より確認したい事があるナルディアは
浮き足立つ心を抑えられない。
——トントンッ
『失礼致します!王子!ハーティです!お連れしました』
「どうぞ」
扉を開けたナルディアは
目を疑ってしまった。
それもその筈
そこにいたのは
大人の男性ではなく
自分と同じ背丈の、幼児だったのだから。
「え、え?王子様は??」
『やぁ、初めまして!ハートの姫君。僕は精霊界の王子、スターリィだよ』
ウィンクと共に、青い星屑がキラキラと弾ける。
確かに顔はそっくりではある。もう少し大人にさえなれば、ではあるが。
——だが
ナルディアにとってそんな事は
どうでも良かった。
本人だと知るや
駆け寄り
強く、抱きしめたのだっ!
「魔法少女でしょ!?あ、男の子だから魔法少年だよね!やっと、仲間に会えたよ!」
『ごめんね、残念ながら僕は星の精霊。本当はこの姿も借り物なんだ』
顔を赤らめ戸惑うスターリィ。
——ボンッ、と変身を解き
小さな妖精の姿へと変わった。
「え?妖精さんなの?じゃあ、魔法少年じゃないんだ」
『ごめんね。だけど君には、本当の王子に会って貰いたくて、ここに呼んだんだ。3日後に精霊城でパーティが開かれる。そこで君を待っているよ』
そう言ってフワッ、と姿を消したスターリィ。
——そして、不思議な事に
ナルディアを含めライブ会場に訪れた観客達は
彼の容姿の記憶を失っていた。
——————
『これで何度目の発作だ…。だがこれで、ユグノスの病も治る事だろう!もしハートの姫に治せなくても、繋がりさえ持てれば、いつでも症状を和らげる事が出来る。安心するがいい』
「……あ、ありがとう……パパ……い痛つ……」
夕焼けに染まる精霊城の、豪華なベッドで病床に耽る幼児の隣に父と見られる男性とまだ成人を迎えたばかりの女性が椅子に座り、その周辺には薬師、執事達が囲う。
『お身体に触ります。このお薬を飲めば、3日後のハートの姫君の歓迎会には体調は回復されるでしょう』
薬を飲んだ幼児を寝かしつけ、部屋を出る一行。
『ユグノスの右肩あたりのあの痣の原因は、まだ何か分からんのか!?もう3年も経つというのに』
『申し訳ございません。ハートの姫は万能と聞いております。どの薬師にも治せない傷や、原因の分からない病にすら、完璧な治癒を施すと言われています。あと、3日の辛抱に御座います』
『リオーネ家が友好的で助かりましたわ。3日後……。確実では無い未来とは、こうも不安が募るモノなのですね』
不安な表情の王妃の肩を抱き、精霊王は、自室へと向かうのだった。
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