第十二話 「デート」
ティナがリオーネ領に訪問して2日目。
そして今日、橙の国の娯楽スポットに来ている。リオーネ領と他の領地とを隔てて建てられた広大な敷地は、連日の賑わいを見せている。
特に今は、またしてもシグルドの案で建てられた新アトラクションで話題沸騰中である!
先に脱出ゲームを堪能する事にした2人は、長蛇の列を横目にパスを使い悠々と会場に入って行く。
「なんだか申し訳ないですね」
「いえいえ、正規でもパスは売ってますし、何よりこれは主催者の特権です。私の婚約者様を待たせる訳にはいきませので」
悪戯っぽく言うシグルドに、嬉しそうにはにかむティナ。
「ランクはどうしますか?高難度に挑戦するなら、チーム戦ですよ」
「あ、あの。中難度が良いです」
「そうですか?まぁ、初めてですしね!」
「……そうでは無くて、……2人で、いたいので…」
なんだこの可愛い子はッッッ!
チームだと大人数だから、二人で挑める中で難しい中難度が良いってか!
「薄暗い建物の中では危ないので」
そう言って、手を繋ぐと
顔を赤らめ、恥ずかしがるティナ。
確かに昨日は長く一緒にいれたけど、ちゃんと2人の時間を楽しまなきゃな!
なんだかんだで上手くやる事ばかりが先行してたから、もっとお互いを知るべきだ!
前世でも彼女いた事ねーし
ある意味ティナ様が
初めての彼女って事か!
おー!なんか照れる!
何も考えずに手まで繋いでしまった!
なんだこれは!緊張してきたぞ!
手が……汗ばんできた!
マズイ!不快に思われてないだろうか!
そんな百面相のシグルドをチラッと見て
ティナは、ふふっ、と笑っていた。
中の安全は保証されているので、ルフと従者達はお留守番。
中難度でも2人なら充分な難易度のこのゲーム。とても嫌らしい場所に嫌らしい問題やヒントが隠れている。
あれ?こんなに難しかったか?
影になってる死角とか、扉自体の下に張り付いていたりだとか、なんて性格の悪い製作者なんだ。
しかし、制限時間以内にクリア出来るのだろうか?このペースだと難しいぞ。
いや、出鼻を挫かれる訳にはいかない!気合いを入れるか!
それでも楽しくゲームを進行していた2人だったが、転機は訪れる。
ゾンビや幽霊が現れたのだ。
もちろん演者がやっているのだが、ティナからしたらとても驚いたのだろう。
——しかし
彼女は聖女。
瞬時に、目が座り
シグルドの手を離して
すかさず浄化を始めたのである。
「迷える魂よ、成仏なさい!大丈夫です、シグルド様。仄暗い建物ですもの。こういった場所に現れる事はよくありますので」
えっ!ちょっと、ティナさん?!
いつも目にしている為か、行動が早い!
掌から白い光を輝かせ、急所であろう顔面に放つティナ。
ここには、魔力遮断結界が張られているが
浄化は神聖力
魔法ではない為、魔力遮断結界では
意味が無いらしい。
「ギャーーーーーッッッ!!」
うそーーー!!
こうなれば驚くのは演者達である。
阿鼻叫喚の如く悲鳴と共に逃げ惑うのだが、ティナは逃してはくれない。
身体強化無しでもかなり素早いようだ。
ヤバイ!これはマズイぞ!
魔法では身体強化が使えないので、自力ででなんとか荒れ狂うティナと演者達を捕まえる。
「ティナ様!どうか落ち着いて下さい!こちらは、演者でございます!申し訳ございません。説明不足でございました!君達も、魔力遮断結界が貼ってある。浄化では死なないし、怪我もしないよ。寧ろ、心が癒される筈だから安心しなさ——
《ブーーーーー時間切れです》
えっ?ちょっ!?
アナウンスが流れるや否や、地面に穴が空き
ヒューン、と蟻地獄へ落とされる。
因みに演者達は特殊な衣服を纏っているので落ちはしない。
穴の底は仄暗く、隙間から漏れる少しの光が底を照らす。
くっ、なんて事だ!!
出鼻を挫かれた!くそっ!!ティナ様は聖女なんだ!最初から予想出来た筈だ!
ハッ!ティナ様は!?
ズボッ!!
蟻地獄に全身はまったティナが、土から顔をだした。
「楽しいー!!すみません。私の早とちりで時間を無駄にしてしまって。もう1回行きましょう!!」
申し訳なく思っていたシグルドとは対照的に、ケラケラと笑うティナ。
ほっ、楽しそうで良かった。
身体に付いた砂は、あらかじめ反射の光魔法が弾いてくれる為、身体や衣服には付着しない使用になっているので安心である。
尚、再戦した際に演者が控えめだったのは言うまでもない。
無事、脱出ゲームをクリアした2人。そろそろティナも疲れただろうと、敷地内にあるレストランで昼食をとる。
店内は橙の国で取れた有機野菜をふんだんに使った料理がメインになっており、ヘルシーさが売りなので、女性には受けが良い。
更に野菜を可愛いデザインにカットしてあるので、子供達にも大変人気のお店だ。
「何か食べたい物はありますか?」
メニューを差し出し、ティナの好みはどのメニューかと待つ。
しばらくメニューを眺めていたティナはくるくると表情を変えていて、見ていて飽きない。
ふふふー!前世の知識を活かした俺の意向がふんだんに取り入れられたメニューだ!悩んでる悩んでる!
「どれも可愛いくて悩んでしまいますね。この野菜のパスタがこんなに低カロリーなのは、何故でしょう?」
メニューには、カロリーも表示されている。この世界にはカロリーの概念すら無かったが、シグルドの働きで今ではちゃんと浸透している。
おっ!気になりますよね!
「これは、パスタの麺自体が野菜で出来ているのですよ。更にここの有機野菜は全てが低カロリーに作られているので、女性の方には特に人気ですね。しかも味の種類も豊富で美味しいですよ」
シグルドはここ数年、作物の品種改良や創作料理にも力を入れている。案外大忙しなのだ。
「えぇ!?凄い!是非食べてみたいです!」
中々に良い反応をしてくれるティナに満足するシグルド。
さっそく注文し料理を食べ始める。
「美味しい!これを考えた方は天才ですね!女性からしたら神様みたいに拝まれますよ!」
んー、気に入ってくれるとは思ってたけど、あまりに褒められると、自分だとは言い出し辛いんだよなぁ。でもいずれ知るだろうし言わないのも変だしなぁ。
「あ、あの。……実は、私なんです。少し気恥ずかしいですが、ティナ様に喜んで頂けたのなら作った甲斐がありました」
照れながら告げたシグルドに、ティナは目を丸くして驚く。
「尊敬しますっ!!」
そして更に、目を輝かせたのだった。
その後、サンドアートを観に行く事になった2人。
丁度1時間後に次の公演があるとの事で、時間が少し空いている。
「リンリンさんに会いに行ってはどうですか?」
「えっ?今日はティナ様のエスコートが優先です!私はいつでも会いに来られますので」
「そう言って、シグルド様は御多忙なのでなかなかお会いになれないのではないですか?何より、私が是非お会いしたいのです!」
確かに、実はあれ以来リンリンには会えてはいない。
娯楽施設には何度も来ているのだが、施設の試験運転であったり、新しい料理の制作や試食とバタバタとしていたシグルド。
リンリンもまた、物語の制作や表現に四苦八苦していた為、お互いの時間が合わずにいたのだ。
有り難いな。優しい人だ。
ティナに感謝を伝え、久しぶりにリンリンに会いに行く事になった。
控え室に行くと、リンリンは快く迎えてくれた。
「お久しぶりですシグお坊ちゃまー!!会いたかったですー!!シグお坊ちゃまのお陰でこんなに素晴らしい娯楽施設が出来ましたよ!あんなに小さかったシグお坊ちゃまがこんなに御立派になられまして!わたくしは、わたくしは…およよ」
久々の再会に感極まったリンリンが泣き出した。
相変わらずの元気な姿を見れてやはり嬉しいものだ。
「あら!まぁ、そちらの方がお噂のティナ様ですね!初めまして!以前リオーネ城でお世話になっておりました!リンリンと申します」
泣いていたかと思ったら、ティナの姿を確認し、また上機嫌になるリンリン。
しかし、噂の、とはなんだ、噂の、とは。
だがそうか。
リンリンにまで伝わっていたのか。
プロポーズの件は、思った以上に皆に心配を掛けていたのかもしれないな。
「久しぶりだな、リンリン。変わりない様で良かった。サンドアートが盛況なのはお前のお陰だ。これからも励んでくれ。そして、こちらはティナ様。お、俺の婚約者だ」
「お初にお目にかかります。ティナ・アトリビュート・メィリッヒでございます。この度は、シグ様と婚約させて頂きました。シグ様に色々とお話は伺っております。どうぞ末永くよろしくお願い致します」
貴族式の丁寧な挨拶であるカーテシーをするティナ。
「まぁ!まぁ!素晴らしい!そして、なんとも可愛いらしいお方ッ!本当に本当に御立派になられました!シグお坊ちゃま!およよよ」
涙を流し喜ぶリンリンも、さすがに昨日決まった婚約は知らなかったようだな。祝福してくれて嬉しい。
「サンドアートについても、シグお坊ちゃまの慧眼によるものでございますよー!おーよよおよよよ」
更に大泣きされた。
本当に相変わらずだなぁ。久しぶりに会えて良かった。元気そうで安心するよ。
コバルトの事があってからは、隠してても暗い顔が目立っていたからな。
寂しいけど、良い気晴らしにはなってるらしい。
その後、見守っていてくれたルフとも抱き合うリンリン。
近況を報告し合い談笑に花が咲いたが、次の公演もあり、あまり時間も無いようで、軽い挨拶をして公演を楽しみにしていると告げ控え室を後にする。
いよいよサンドアートの始まりだ。真っ暗な中で光のモニターに映し出される砂に、リンリンの物語は始まった。
『とある火の国の大帝国の皇帝は
強過ぎる火の魔力を抑える為に
水の国の姫君を娶る事になりました
しかし火の魔力を自在に扱えない皇帝は
天才である姫君に嫉妬して
魔力を暴走させてしまうのでした
火の耐性があるとはいえ
自身の高温の火に焼かれ
顔に大きな火傷をおってしまいました
幸い火傷の熱を冷やす為献身的に水の魔法で癒し続けたお陰で奇跡的に火傷の跡が残る事はありませんでした
素直でない皇帝は
自身の火の耐性のお陰だろうと
姫の献身的な努力を受け止める事は出来ませんでした
火の耐性のお陰
確かにそれも要因ではありましたが
腹を立てた姫君は
皇帝を引きずりまわし
湖の中に突き落としました
激怒した皇帝はまたも
火魔法を暴走させてしまいますが
姫君の大量の水魔法がすぐに鎮火してしまいます
拗ねた皇帝は帰宅しようとしますが
姫君からは逃れられませんでした
皇帝にのみ降り注ぐ大量の水は止まる事を知りません
滝行。
そう冷たく言い放つ姫君は
文字通り滝のように降り注ぐ水をやめません
皇帝はその滝に
何度も怒りをぶつけては鎮火されたのでした
かなりの荒業でしたが
皇帝は無事魔力のコントロールを覚える事に成功したのでした
それを見て大喜びする姫君を見て
色々吹っ切れた皇帝は
姫君に興味を持つようになりました』
えっ!?凄いドS姫とドM皇帝の話じゃねーか!?これは美談なのか?
戸惑いながら観ているシグルドとは対象的に、ティナもルフも感慨深そうに魅入っている。
え?これってそんなに深い話なのか?ドラマチックにしては一部受けに感じるんだけど、俺が間違っているのか???
紆余曲折ありサンドアートは、2時間近い長編で、笑いあり涙ありで一切飽きさせない、2人の男女の甘々なラブストーリーだった。
きっとリンリンの計らいだろう。
ティナも大変気に入ってくれた様で、時折涙しながら魅入ってくれていた。
改めてリンリンにはお礼をしに来ようと決めたシグルドだった。
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この物語は日・水・金の19時に更新します。
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