第七話 「無詠唱」
ウスベア2体の解体を始めるシグルドに、2人は駆け足で近付く。
空気が、張り詰めてるな……。
……さすがにバレたのはマズかったか。
「シグルド様っ!!答えて頂きますわ!!あなた無詠唱で魔法を使えますの!?いつからっ!どうやってですの!?」
「そうだぜ!シグ!!無詠唱とか聞いた事もないぜ!」
うっ……凄い剣幕だ……
まずいな、口止めされてたのに……
——————
青の国からの帰還後、クラークに自室に来るようにと告げられたシグルド。
「シグルドよ、砂の魔法を使ったと、そう、言ったな。詠唱を考え、成功したのだと」
「……ええ」
重苦しい空気に、困惑する。
「……本来、そんな事は誰にも出来ない。それは進化属性という。目覚めた者にしか扱えない特別な力だ」
え?
「お前がいつ目覚めたのか、或いはそもそも素質があったのか。それは分からない」
「そして、詠唱が願いだと教えたが、言葉一つ変更するだけで魔法は発動しないものだ」
「え……?でも僕が砂の可能性に気付いたのは、子供たちを護ろうとした時、とっさに詠唱が間に合わなくて、その時不完全な魔法になったからで……」
「そうだ。それはつまり、お前は詠唱をせずに魔法を扱ったという事だ」
どういう事だ?
そうだ
「ハーティのあの言葉……」
『あんたの魔法は特別』
「あぁ、お前に詠唱は必要ない。無詠唱は素晴らしい技術だ。私の知る限りだと、数人。歴史上でも偉人として扱われる方々に存在したと言われている」
お、おぉ!
俺もチート持ちの仲間入り!異世界転生特典なのか!?
「だが、その力を扱えた者は皆、若くして亡くなっている」
ドクンッ——
『お兄ちゃんの魂と身体、馴染んでいないの。たぶん10年くらいでなんとかしないと、助からない』
「寿命なのか、狙われたのか、扱える様になってからの年数なのか。それが分からないのだ」
『10年くらいでなんとかしないと、助からない』
頭の中でナルディアの言葉がリフレインされる。
「こちらで必ず調べておく。だからこの事は口外を禁ずる。それまでは無詠唱は禁止だ」
————————
あと、4年前後——
成人の儀が15だからその前後で
俺は
死ぬ可能性が高い——
はぁ、無詠唱か。
ラノベでも無詠唱が凄いとかってのも知ってはいたし、面倒な詠唱が無いってだけで特別何かある訳でも無いんだけどな……。
だが無詠唱とはこの世界で扱える者が極少数。
訓練で使える訳ではない為、魔法を扱える者にとっては渇望される。
だからこそ、属性に愛された祝福だと言われている。
詠唱は戦闘においてそれだけでタイムロスになり
何より詠唱内容によって、今から何の攻撃をするかを説明しているようなもの。
対処して下さいと言ってるような行為なのだ。
それでも、範囲や威力は、近接攻撃の比ではない為、魔法は戦闘には欠かせない。
そこで先程のエイシャリアのような、行動と詠唱を同時に行う事が出来る事が理想的とされている。
これは、同時詠唱と呼ばれ、青の国でクラークが見せたものと同じ技術である。
しかし、魔法師とは身体能力が低い者が多く、大抵はタンクや前衛に守られながら詠唱する事が多いのが一般的である為
エイシャリアの素質は一級品だという事。更には、努力無くしてはあれ程の洗礼された動きには至らない。
そしてカルロスの先程の動き。彼もまた、同等のレベルまでには達しているのだろう。
仕方ないので、腹を決め、語り出すシグルド。
「……実は無詠唱は、初めての魔法の時から使っていたようです」
「初めての魔法は、父に『畑を耕してから魔法を使う事で土が活性化する』と教わったので、それなら『魔法で土を耕せば、魔力を帯びた土になり時短になる』と、それだけだったので無意識に。それには、ただ電気を点ける様な、魔力を放つだけなので詠唱などは必要無かったのです」
「しかし最近調べて分かったのですが、その行為は耕す魔法『プラウサラス』そのものだったのです。そこで普段から無詠唱が使えていたのだと気付きました」
「その後、成長するまでは秘匿にすべきとの事になり、ずっと隠していました。ですがウスベアに不意を突かれ、やむなく魔法を使ってしまいました」
「ですのでどうやって使っているのか、というご質問には自分でも分からないのでお答えする事が出来ないのです。申し訳ありません」
シグルドが申し訳なさそうに俯く。
説明をずっと最後まで聞いていた2人だったが、場の空気を打ち消す様にカルロスが陽気に振る舞う。
「ヒュー。さすがは土の神童だな!まさか無詠唱まで使えるとはなー、驚かされたぜ!しかも、ウスベアはCランクでも上位だぜ!それを2頭も。シグッ!今度手合わせしようぜ!」
そんなカルロスの行為が心地良い。
シグルドもその軽い空気に、有難く乗らせて貰う。
「無詠唱は確かに特殊ですが、先程の強さを拝見しましたので、お2人もウスベアの討伐くらい楽にこなされると確信しておりますが?」
そんな2人の遣り取りに、フッと息を漏らしながら軽く笑みを浮かべるエイシャリア。
「さすがにわたくしもカルロも、2頭ともなれば無傷とはいかないでしょうね。しかし、わたくしも無詠唱には興味があったのですが、残念ですわね。これはシグルド様の戦闘をもっと近くで何度も見るしかありませんね。わたくしも、手合わせよろしいかしら?」
せっかく張り詰めた空気が無くなったのに
2人の目が、狩人のそれだ。
全力で遠慮したい!
「さっ、さすがに、お2人に銃は向けられません!!」
「あら?わたくし達も、徒手空拳を嗜んでおりますのよ。無手で手合わせ致しましょう」
「そりゃあ良い!あの蹴りは生半可な威力じゃなかった!これは楽しみだ」
こいつ等、無手でも強いのか。
へぇ。
前世の武闘家の血が騒ぐ!
これは確かに、腕がなるな。
「行くぞッッッ」
三人共に駆け出し
それぞれの繰り出す拳や蹴りの衝突地点に
男がいた。
遣り取りを静かに眺めていたハンスが
焦った形相で割って入って来たのだ。
エイシャリアの手刀を左手で
カルロスの拳を右手で
シグルドの回し蹴りを足で止めている。
いや、全てを受け流している。
「なりません、シグルド様」
「申し訳ありません。従者風情が差しでがましく存知ます」
「皇女様や公爵令息様に何かあっては、責任を負いかねます。わたくしはリオーネを、シグルド様を任されております従者にございます。どうか、お許し下さいませ」
一介の侯爵家の従者如きが、皇女や公爵令息に意見するなど、厳罰は免れないだろう。
それは、皆が承知の事だ。
だからこそ、興奮した皆が冷静になるには充分だった。
「申し訳ございません!我が従者が不敬を!」
そう言ってハンスと共に腰を降り頭を下げるシグルド。
それを見たカルロスが、エイシャリアと目配せする。
「いや、考え無しにこちらも悪かった。非礼を詫びよう。良いだろ?エル」
「ええ、安心しなさい。不問に処すわ。シグルド、あなた良き従者を持っているわね。そうね。つまり、我々には深き信頼が必要だと言う事ね。これからは堅苦しい言葉遣いなどは無しよ!全て不問とするわ」
そう言って、ニヤッと笑うエイシャリア殿下。
「良かったな、シグ。これからは敬語も敬称も、全部なしだ。あっ、因みにエルの話し口調はコレが通常だから。きっとシグとの仲を深める為に、こっちからさらけ出す腹だぜ」
カッカッカッと笑うカルロス。
思わず頭を上げて、固まる2人。
え……?
許された?
うん、それは良かったんだが
え……?
これは、手合わせする事を諦めていないって事だよな?
え……?
怪我をさせてしまう恐れがあるから躊躇うって事なのは確かだけど
仲良くなっても、皇女には怪我をさせられる訳無いだろう!?
え……?
でもこれって、そーゆー流れだよね?
え……?
「何を呆けているの?ほら、わたくしを呼んでみせなさい。さっきは咄嗟の事とは言え、何度か敬語をやめていたではないの」
くっ、ちゃんと覚えてやがった。
いや、流されちゃダメだ!
ちゃんと言うべき事は言わないと後に響く!
「あっ、エルは無しだからな!エルって呼んで良いのは俺だけだ」
あぁーッ、もうッ!
次から次へとッ!
少しは考えさせてくれ!!
「カルロ様……カ、カルロッ!じゃあ、何て呼べば良いんだよ!皇女をさすがに呼び捨てには出来な———」
「「エイシャリアだ(よ)」」
言葉を遮られ、百面相をするシグルド。
更に、追撃が来る。
「「エイシャリアだ(よ)」」
「エ、エイシャリアーーッ!!」
2人の強烈な圧に根負けし、名前を呼ぶしかない。
シグルドの嘆きとも呼べる叫びは、森中に響いたのだった。
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