第六話 「狩猟」
続いて異空間に入った2人がシグルドに追い付き
共に階段を登り切った景色の先は
綺麗な部屋の中だった。
どうやらこの場所も、帝国が管理しているのだろう。
屈強な騎士が数名待機している。
「お待ちしておりました!エイシャリア殿下、カルロス様!」
「報告通り、本日は友人と狩の予定だ。引き続き警備を頼む」
先程までの狼狽えた姿とは違い、11歳には見えない程大人びた表情で話すカルロス。
そうか、普段はこんな感じなんだな。
エイシャリア殿下もちゃんと知ってるだろうから、ギャップが許せないのかもな。
確かに、カルロのあの顔は酷いからな。
でも、こんなとっておきの秘密の場所に、俺を連れて来てくれる予定を立てて
ちゃんと準備してくれていたのは
正直嬉しい。
そんなカルロスの優しさに胸を温めるシグルドは、ふと階段を見る。
ん?今まで登って来た階段が黒いぞ!?
降り階段は『黒階段』って言ってたけど、確かに、今まで登っていたこの階段は
白かった筈なのに!いつ色が変わったんだ!?
「やっぱり驚くよな!俺も不思議だったから、まったく目を離さずにいても、異空間から抜けたらいつも突然色が変わってるんだぜ!」
「そうなのですね!驚く事ばかりです」
「そうだな!分かりやすくて見てて楽しいよ」
え?俺はそんなに顔に出ているのか?紳士の嗜みが、張り付いてるこの鉄仮面がッ!?
外に出て森に向かう前に、今までいた建物を眺めると
そこは、豪華な別邸程の邸であった。
きっとこの辺りは全てが帝国の領土なんだろう。
邸を出て少し歩き、一行はいよいよ森に入る。
階層が違うといっても特段変化は無いんだな。
しかし、ファンタジーというのは、とことん不思議な世界なんだな!
体験して、初めて実感した!
物語を読むのと体感するのとでは違って当たり前なんだろうけど、見知った内容から外れると、さすがにかなり動揺してしまう。
今からの森は初めてなんだから、改めて慎重にならないといけないな!
でも、こんな場所にエイシャリア殿下が来てホントに大丈夫なのか?
改めてそう思いながら猟銃やハンドガンの準備をしつつ、エイシャリア殿下を見る。
「わたくしは、猟銃を使うつもりはありませんわ」
視線を感じたのか、答えてくれるエイシャリア殿下に、噴き出すように笑いだすカルロス。
「いえ。見学に来られたのですし、危険があるかも知れませんので、ちゃんと騎士様から離れずにお願い致します。では、僭越ながら私が先に」
そう言って、前に出ようとしたシグルドはエイシャリア殿下の手に遮られた。
鞭を片手に持ったエイシャリア殿下は
丁度現れた巨大な猪の魔獣に向かって
走り出したのだ!
「なっ!?何をしてるんだ!!危険だっ!戻れっ!その魔獣はDランク上位だぞ!!」
またも敬語も忘れる程、焦るシグルドだったが
カルロスは微動だにせず
エイシャリア殿下を笑顔で見つめている。
「まぁ、見てろよ」
こいつ!何笑ってるんだよ!Dランク上位だぞ!Cランクは村を壊滅する程強いってのに!なんでそんなに余裕なんだよ!?
「土を司る精霊ラゴンよ。
橙に艶めく硬く鋭利な岩石を
我が魔力を糧に顕現せよ!
『ニードルサラス』」
尚も駆け抜けるエイシャリア殿下は、制止も聞かず詠唱を唱えた。
「あ、危ないッ!!!」
あわや衝突するかとの所で
突進して来る猪の上空へとヒラリと体を回転し
躱したのだ!
さらに、猪の上空で鞭を放ち
猪の体を拘束する!
そして着地と同時に
猪の突進の反動を利用して猪をブンッと振り回し
あげく地面に叩き落とすと同時に
土魔法で作った棘で貫いたのだ!
一瞬で絶命した猪の魔獣。
確か名前は、ナサンボア。
猪の魔獣の中で一番弱いFランクであるセフボアより遥かに強いDランク上位だ。
体格もスピードも頑丈さも、何もかもが別格だ。
高ランクでは無いが、毎年死人を出しているし、村だっていくつも壊滅させられた駆除対象の脅威の魔獣だ。
俺が5歳の時に戦った、ナサンスパイダーと同等の敵を——
それを、軽く躱しながら鞭で捉えて振り回し
その勢いで地面に叩き落とすだけじゃなく
その地面から魔法で棘を出し、串刺しにするなんて。
土魔法の攻撃力の無さをカバーする
完璧な戦い方だ……
正直かなり驚いた。
「これでも騎士の護衛が必要かしら?わたくし、わざわざ見学の為だけに割く時間など持ち合わせてはおりませんわ」
肩にかかる腰まである藤色の髪を手で払いながら、しれっと言ってのけるエイシャリア。
なんて皇女だ。
毎日鍛えている俺でも
出来るか自信がないぞ。
「カッカッ!驚かせてすまねぇな、アレがエルなんだ!どーだ、良い女だろ?」
驚愕しているシグルドに笑顔で言うカルロス。
普段カルロはエイシャリア殿下を『エル』と呼称で呼んでいる。
従者と言っても幼馴染の2人の普段には、敬称などは無いのだ。
出会って1年立ち、シグルドに心を許してくれた現れだった。
それは嬉しいがどうも納得のいかないシグルド。
「悪りぃなシグ!今度は俺が行くぜ!」
「あっ、ちょっ」
呆気に取られたシグルドが何かを言うよりも先に駆けていくカルロス。
「風を司る精霊アングよ。
緑輝く吹き荒ぶ神の息吹きを
我が魔力を糧に我が身に宿れ!
『ポゼッションヒューイ』」
風魔法を全身に纒い
巨木の幹を超スピードで駆けていく。
頂上まで登ると
危険を察知して逃げようとした大鷹を
ヒラリとジャンプし追撃し
目に見えぬ速さの双剣で切り刻む!
そのまま、身の丈程の大鷹を担いで木を伝い、笑顔で降りて来たのだ。
「いや、鷹は銃で狩るものだからな!!」
と、叫んだシグルドだった。
鷹の魔獣も、ナサンホークと呼ばれるCランクの魔獣だ。
リオーネの森の入り口にいる、セフホークはFランク。嘴や鉤爪の鋭利さや、スピードが段違いである。
リオーネの森の入り口には多くのFランクの魔獣が生息している。
たまに中腹からCランクの魔獣が現れる程度だ。
それを一瞬で討伐した2人。姫と従者とは思えない程の強さだった。
楽しそうにこちらに視線を向ける2人の目が
『次はお前だろう』
と言ってくる。
2人共とんでもなく強いじゃないか!
まさかエイシャリア殿下まで、あの強さとは思わなかったな。
いやカルロ自体、かなり予想以上だった!
しかし、ここはCランクがうじゃうじゃいるな。
こんな危険な森がカルロの狩場なのか。
どうりで余裕な訳だ。
よーしッ!
次は俺の番だ!!
俺だって狩猟歴6年なんだ!
青の国での体験だってある!
頑張るぞッ!
森を進みながら獲物を探す。
しばらく進むと前方に
熊の魔獣が2頭現れた!
以前恐怖したあのDランクの魔獣ナサンベアの上位種である!!
名はウスベア。
Cランクの上位である魔獣だ。
青の国で恐怖した、Bランクの蜘蛛リーンスパイダーに匹敵する脅威である。
「ウスベアが2頭っ!?さすがにここは、俺も参戦してやるよ」
「ありがとうございます。確かに私も初めてでありますが、お二人だけに花を持たせる訳にはいきません。まずは私一人でやらせて下さい」
「……分かった。無理だと判断したら、割って入るぞ」
「ありがとうございます」
シグルドを見付けると1頭のウスベアが雄叫びを上げ
もう1頭が威嚇をする。
直ぐに両の手に銃を構え、走り出したシグルドは
銃を1頭のウスベアの右肩と左足にヒットさせながら距離を縮める。
「グルルルルッ」
怒ったウスベアは、負傷した足でも関係ないと言わんばかりの超スピードで突進してくるが
即座に左に躱し
更に右肩に数発銃弾をあびせ
ウスベアの右腕が使い物にならなくなった所で
空中で回転し回し蹴りを食らわせる。
シグルドの蹴りは強烈で
巨体はバランスを崩しウスベアは尻餅をついた。
「やるな」
しかし
シグルドの着地を狙い
もう1頭が猛スピードで突進して来る!!
前世で武闘家だったシグルドも
回し蹴りの後
着地後のコンマ数秒のよろめきは
技後硬直に等しい。
くっ、しまった!
こいつ狙ってやがったか!!
魔法は使いたくなかったが……
仕方ない。
「『クイックサラス』」
突進してきたウスベアの足場に
土魔法で半身が埋まる程の穴を開け
バランスを崩した所に銃で両眼を潰した。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
「なッ!?」
「無詠唱ッッッ!?」
尻餅をついた側のウスベアは
仲間が両眼を潰され激怒しているのには目もくれず
立ち上がり、左腕で攻撃をしてくるが
銃で受け流し
今度は脳天にかかと落としを食らわせ
絶命した。
両眼を潰されたウスベアは発狂して吼えながら両腕を振り回しているが
それを全て躱し
両手の銃で心臓に連射し
もう1頭のウスベアも絶命した。
シグルドの戦闘は、遠、中、近距離を2丁のハンドガンで
中、近距離は武術で戦う。
武術は基本、足技をメインで使用する。
中距離でも、高い跳躍があるシグルドは瞬時に間合いを詰められる。
土魔法もある為、死角の無いオールラウンダーに成長したのだ!!
何にも奪わせない為に——
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この物語は日・水・金の19時に更新します。
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