第五話 「カルロスの狩場」
11歳になったシグルド。
出会いにも恵まれ有意義な時間を過ごしたお披露目会が終わり、日常を過ごす。
日課のトレーニングや農作業も終わったし、今日も満足の行く一日を過ごせたな。
ルフが家族になって6年が経つ。もうすっかりリオーネ家に慣れたようで家族で夕食を囲むのが嬉しい。
と、言ってもテーブルの下ではあるんだけど。
「近年の乾燥が原因で作物が少し痩せてきている気がするとの報告があった。シグルドよ、最近畑はどうだ?」
「やはりそうですか。確かに年々わたしの土魔法も乾いている気がします」
「そうか。シグルドが言うなら間違い無いだろうな。続くようならば何か対策を考えねばならんな」
——そう。
最近魔法を使うと今までと違って土がサラサラしてる事が多いんだよな。
だから魔法の鍛錬の時は、砂の魔法を使うことが多くなった。
「そうよねー!最近お肌の乾燥が気になってるのよね。淑女の方々の悩みの種だわ」
そうか。
俺はまだまだ子供だから肌は潤ってるけど、大人は色々大変だろうし、女性は特に気になるだろうな。
毎夜、アンナは、化粧水の量が増えてると嘆いている。
んー。どうせ農作業をするなら、品種改良にも手を出してみたいな。
色々試してみるか。
家族で夕食を囲み談笑していると、護衛執事のハンスが手紙を持って来てくれた。
「お話中失礼致します。先程、コルベラーナ公爵家のカルロス様からお手紙が届きました」
「カルロ様からか!ありがとう、ハンス」
「あら、良かったわね!シグちゃん!仲良しのカルロス卿からのお誘いかしら?」
お披露目会から、ちょくちょく花の国のコルベラーナ公爵家のカルロスと親交を深めていた。
カルロスはエイシャリア殿下の従者である為多忙であるし、殿下から離れる事が出来ない。
なので親交と言っても手紙のやり取りであったり、会いに行くのはシグルドの役目である。
翌日——
『約束の俺の狩場を見せてやる』
との内容に
やっと、初めてカルロと一緒に狩猟に行けるぞ!
そう、喜んで花の国にやって来たシグルド。
「あれから何度かお茶会に呼ばれてるけど、男だし、狩猟をする方が楽しいよなぁ。ただ、狩猟となると、エイシャリア殿下を同伴させられるのかな?」
「お難しいと思われますね。皇子様であれば狩猟もされるでしょうが、皇女様はさすがに来られないでしょう」
馬車が到着し、ハンスとの談笑を切り上げる。
カルロスが出迎えてくれたが、隣にはエイシャリア殿下が並んで立っている。
初めて見る軽装で。
あれ?エイシャリア殿下も御一緒なのか?いや、そんな訳ないさ、お見送りとかだろ。
「よう!よく来たな!シグッ!今日はとっておきだからなッ!楽しみにしてろよッ!」
「ご機嫌よう。お久しぶりですわ、シグルド様。本日はわたくしも同行させて頂きますの。シグルド様の狩りを間近で拝見できるなんて光栄ですわ」
あ、そうか!
狩場まで一緒に行くのはびっくりしたけど、近くで見てるだけって事だな!
服装も動きやすいようにって事か!そりゃそうだよな!
「お久しぶりでございます。エイシャリア殿下。何をお召しになられても殿下の美しさは損なわれませんね。本日はどうぞよろしくお願いします」
「堅苦しい挨拶はいいから、早く行こうぜッ!付いて来いよシグ!」
カルロスに先導されるまま帝城の一室に案内されるシグルド。
厳重に警備された部屋の中に通された先には
大きな白い階段があった。
やけに厳重に警備されてるけど
この上には何があるんだろう。
ん?だけど狩猟に行くのになんで城の中に入ったんだ?
しかも、2階に上がるのか?
「カルロ様、失礼ながらお伺い致します。狩猟に向かうのではなかったのでしょうか?ご準備がお済みでは無いようには……見えないのですが……」
そう。
カルロスもエイシャリアも準備は万端である。
周りには使用人はもちろん、護衛には騎士まで付いている。
「聡いお前が気付かないとは珍しいな。よく見てみろよ」
見てみろと言われても、ここには階段しか……
ハッ!?
今まで気付かなかったが
なんだ?この階段は
先が、無いぞ……!?
螺旋状に続く大きな白一色の階段の先は壁。
吹き抜けのこの部屋には
ただ、その異様な階段だけが存在した。
巨大な帝国城は、全てが完璧に整えられている。
その中でこの階段は
異常性を放っている。
「お前は知っているか?この世界は『何層にもなるうちの一つ』だってな」
突然の話に、キョトンとするシグルド。
「あら?その反応を見るや、お知りになられませんでしたのね。リオーネの森には降り階段である『黒階段』がありますのに」
なっ……
何を言っているんだ?
「登り階段である『白階段』も降り階段である『黒階段』も、各所にあるんだ!どこに繋がってるかは、それぞれのお楽しみってやつだな!因みに、この階段の先には、穴場の森があるんだぜッ!もちろん調査済みだし、整備済みで、警備も万全だから安心しろよな」
ニカッ、と笑うカルロスに、混乱し頭が追いつかないシグルド。
「この世界が何層にもなるうちの1つの階に過ぎない……?この世界には、登り階段も、降り階段もあるなら、中腹の階層って事だろ? 空は?光は?雲は?」
何を有り得ない事を言ってるんだ!?
この世界には
青い空も
太陽や星や雲も
ちゃんとある!
「さすが、頭が宜しいですのね」
「知識が無いと、疑問にも思わないのにな。太陽があるだろ?だから光があるんだよ」
「天井があるのにか?なら、なぜ夜が来る?」
「人は寝ないといけないからなー!」
「夕日が沈み、また朝日が昇るだろう?世界は回転してるんだ!」
「まぁ、シグルド様は面白い事を考えますのね。世界の仕組みは神が与えた恩寵にございますのに」
……。
……そうか。
そうだな。
この世界には、自転や公転の概念が無いのも仕方無いか。
今何を言っても理解される事は難しいだろう。
もう
ファンタジーだから、と思おう。
しかし
何層にもなる中腹…?
……そうかッ!
ここはきっと
ダンジョンに近い作りになってるんだ!
それぞれの階で生活をしてるとか、かもしれないな。
凄く異世界って感じだー!!
ゲームの世界の方がイメージはしやすいか。
某有名アニメのバーチャルMMOの世界みたいに!
え、じゃあ、この世界のみんなは、本当の太陽を見た事が無いのか…。
え、じゃあ、お披露目会の時の衣装の金の刺繍が、太陽を意味するって言ってたけど……本当は、太陽を知らないんだな。
オレンジが全く映えない金の刺繍が、仮初めの太陽とか。
いや、根に持ってる訳じゃないけどね。
まぁ、一応、俺の初の晴れ舞台だった訳だけどもね。
あれ?
そんな事より、動揺してずっと敬語忘れてないか?!
ヤバい!謝った方が良いか?
「さぁシグルド、行こうぜ!」
しまったッ!
謝る機会を逃してしまったッ!
話を区切り、階段を登る一行は
先の無い階段を登り続けると
階段の頂上の突き当たりである
壁の前で立ち止まる。
「ほ、本当に壁にぶつかったりしないのか?」
「男がぐだくだ言うもんじゃ無いぜ。さっさと進めよ」
「あら、カルロも初見の時は怖気付いていたと記憶しているのだけれど」
「あれは、8歳の時だろう!ガキだったんだよ!」
「そう。見た目はそこまで変わらないのに、中身はちゃんと成長したのかしら?」
「エル!まださっきの事引きずってるだろう?!」
「引きずっているというよりは、皇女専属の従者である公爵令息のカルロスが、下卑た薄汚い顔をするのに耐えられないだけよ」
「なっ!?シグの前で!!」
あぁ。またカルロが女性の下着とかで鼻の下伸ばしてたんだな。
ここのメイド達、スカート丈短いし、胸元もかなり空いているから。
エイシャリア殿下とカルロスの言い合いを聞き流しながら、そっと壁を触ってみる。すると、壁が歪み波紋のように波打つ。
おーッッッ!
ほ、本当に壁じゃないんだな!
「では、お先に失礼します」
付き合ってられず一歩踏み出すと、先の見えなかった景色が変わり異空間の中のようなウネウネとした景色が広がる。
後ろを見ると、今までの景色が見えなくなっていた。
す、凄いな!異空間の中だ!
これも、ファンタジーあるあるだろうけど、凄いな!
へー、異空間の中でも階段は続いてるんだな。
次々と起こる不可思議な現象に
『ファンタジーだから』
と言い聞かせるしかないシグルドだったが
リオーネの森には降り階段があるという言葉を思い出し
クラークが頻繁に森に行く事や
森の深部には近付く事を許してくれない事
帝国騎士団長に匹敵する程強い父が
リオーネ領を任されている事に合点がいった。
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