第二十一話 「闇堕ち」
「な……んだ?!俺に何をしたーーー!!!」
「呪いだ。貴様は青の恩恵を失い、そして貴様の行いが直接己が身に返っただけだ」
「……やはりお前が大精霊ルフだと……」
「死に行く貴様が知ってどうする。魔法の使えないただの人間が、視界すら失った、だったか?」
「ハッ!残念だがそれは違う。俺は条件を……満たしたからな……!!さぁ……俺に力を!!!」
セドリックの茶髪は焦茶色に変色し、黒い、オーラを放つ。
「……堕ちたか」
「聖獣様、堕ちたとは?」
「シグルドよ。お主、四属性の事は知っていよう?」
「はい」
「進化した属性を除けば、他に光と闇の属性が存在する。この2つの属性は特殊でな、光の民と闇の民にしか受け継がれはしないのだ。しかし、ある条件を達すれば行使が可能となる」
「条件……?」
「あぁ。それは善行と悪行。善行を行った者は光を、悪行を行った者は闇を。後は力を望む心さえあれば行使が可能になる」
そ、それはつまり、自国の民を死に追いやったセドリックには、最初から闇属性の素質があったという事か。
この黒いオーラが闇属性……。父様と子供たちを縛り続けてる属性か。当たったら終わりじゃないか!
「すみません。俺のせいで聖獣様は、目に怪我を負われています。俺が聖獣様の目になりますので」
「構わぬ。確かに姿は見えぬが、何がどこにあり、どのような存在かは視えている」
そう言い残し、セドリックへと駆けていくルフ。
その大きな体躯から繰り出される爪と牙には、魔法が無くとも充分な破壊力がある。
セドリックの剣技は一流だ。その剣筋を交わし、時には爪でいなし、牙を剥く。
何より特筆されるのはそのスピードである。
明らかにセドリックを翻弄している。
目の見えないセドリックには分が悪過ぎるだろう。
「は、はは!闇の囁きが教えてくれる!これでも喰らえ!!」
「闇を司る精霊ネークよ。
黒く艶めく深淵の恐怖の息吹を
我が魔力を糧に顕現せよ!
『ステアードシンル』」
その直後、先程までとは比べ物にならない圧が空間を歪めた。
セドリックから溢れ出る闇。
その黒く禍々しい煙の様な流動的なものは、セドリックを中心にどんどん広がりを見せる。
が——
「うわ゛ぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」
シグルドとルフに届き切る前に
セドリックは発狂した
「……なんだ?」
どういう事だ?こいつ自分の魔法に、飲まれているのか?
「耐性がないのだ。本来生まれ持った自身の属性を扱える様になる為に、耐性が付いていく。まぁ、先天的でも例外的に力が強過ぎて自身を焼いてしまった者もいたがな。つまり、目覚めた赤子に扱えるものではない」
発狂しながらも、縦横無尽に広がりを見せる闇を危惧し、負傷し動きの鈍いシグルドの後ろ襟を咥え、ヒョイっと自身の背に乗せるルフ。
突然の視界の反転の後の、柔らかい神の心地。
「聖獣様!そんな!いけませんよ!……えへぇー、ふわふわ」
「シグルドよ。声に出ているぞ」
「すみません、なんとも……抗えませぇーん」
「はぁ。ちゃんと捕まっておれ」
ダメだと分かっているのに、このふわふわモコモコはぁ……やばぁい……埋もれるぅ……
「うっ、うわぁ!」
力の抜け切ったシグルドは、急な動きに対応出来ず、投げ出されそうになる。
「まったく、仕方がない」
蒼銀の体毛が絡まり、シグルドをしっかりと固定してくれる。
「ありがとう、ございますぅ」
いつまでも気を抜いてちゃいられない。聖獣様は遠距離攻撃を使えない。
俺が倒さないと!
上半身を起き上がらせ、黒いモヤの塊と化すセドリックへと銃口を向けるシグルド。
「ほう、気に入った」
しかし、黒いモヤは半径5メートル程まで広がっている。
モヤのどこにいるのかが分からず、狙いが定まらない。
「中心だ。あの黒の塊の中心に奴はいる」
中心……
でも辺り所が悪ければ
死ぬ——
俺が、殺してしまう。
またこの場面だ。
虫人の時と同じ。
俺が——
生死の決定権を持つ場面。
これから先
何度となく訪れる可能性のある
殺さないといけない場面。
「怖いか。だがお前がしなければ誰かがするだけ。何よりこのままでは、動けぬ父と護るべき対象は、あの闇に飲まれるだろう」
そうだ!
今、やらないと
誰かに手を汚させるんじゃない
俺が
この手で
殺すッッッ!!!
引き金をひき
銃口から放たれた銃弾は
鮮血を撒き散らした。
「殺った……のか?」
闇の塊の地面は、大量の血で染まっている。
しかし
密かに何かが聞こえる。
死んではいないのか。
何か唸っている様にも聞こえる。
怪訝に思い、耳を傾ける。
「『リストレイントシンル』」
放たれたのは、闇の呪縛魔法。
クラークや子供たちを拘束している、強力な魔法。
「影縫いの魔法か!ぬかった」
や、ヤバい!俺が、俺がとどめをさけなかったから……!
声が聞こえた時点で追撃を放っていればて…
魔法の効果が消えたのか、晴れていく闇の中からゆっくりと立ち上がるセドリック。
「……あ、はっはっはっは……確かな手応え」
右肺を貫通したのか、息苦しさを隠せはしないが、喜びが何より優っているのだろう。屈託のない笑顔を向ける。
「……こちとら、見えないんでな……教えてくれてありがとうよ……ガキ!」
ゆっくりと、近付くセドリック。
最悪だ……
俺が……
俺がみんなを……
俺のせいで……
セドリックの剣が
ゆっくりと明確に
振り下ろされた
その時——
「スキュアークラブ」
甘い匂いと共に
セドリックの身体は木々の鋭い枝に貫かれたのだ。
『フワラルーン』
太く
鋭い枝は
セドリックの腹部を貫通し
一瞬で
生命を刈り取ったのだ——
「危ない所でしたね」
振り返ると、そこに立っていたのは
長い耳を持つ男。
だが———
どこか奇妙だった。
敵意も、殺気もない。
ただ淡々とそこに立っている。
「助かった……礼を言う」
「私の名はズィーブ。薬師のようなものです」
長い緑の髪を腰辺りで一つに束ね、白をベースの衣装に緑の靴、所々にモチーフであろう緑のクラブのマークが付いている。
こ、こいつ!
「魔法少年だ!!いや、大人だから魔法青年?いや、青年ですらない??」
「おや、私たちをご存知なのですか?私たちはマジカルクレスト。まぁ、ヒーローみたいなものですよ」
ニコリと笑うズィーブの目は、シグルドを捉え離さない。
甘い香りが部屋を満たす中、拘束から解放され、抱き合う一同。
「やっと……やっと戦いは終わったんだね」
一人の幼児が涙を流すと、皆疲弊した心から解放され、自然と安堵の涙が溢れた。
しかし——
「聞こえているかぁーい?」
背後から、掠れた声が落ちた。
「ボクらはどこまでも君たちを追い続けるよぉー」
一つ
また一つ、別の声が重なり
「どこまでもどこまでもねぇー」
横から
前から
後ろから
横たわるセドリックの死体も、口を動かしていた。
遠くに、近くに重なる声の反響は、最後にこう、締め括られた。
「青刈りは終わらない」
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